第14話 本題 5 (最終問題)

     二十七


 空の蒼さに時を忘れ、焦点を併せる意味が見つけられないでいた。

 うさぎは本題4の答え合わせをする前に、本題5となる最終問題を発表することを決めた。


「蒼い鳥を噺の中に取り入れたのは、忘れ物に気付いて欲しかったからです」

「忘れ物? ですか」

「心の組織や作用を理解できないから、成長に気付かないのです」

「忘れる意味は、嫌な思い出だったりとか、恥ずかしい経験からじゃないの? 人それぞれなんて云ったところで、詞にしても表情にしても、顕すことを恥ずかしがる方が居る以上、ずかずかと踏み込む必要がなくなるからね」

「だから、忘れることで、無かったことにしたつもりなんですね」

赤瞳とうさんは、この傷のことを、云いたいんだね」

「今気にならないその傷も、当時は恥ずかしかったことは確かでしょう。ですが、踏ん切りをつけられた今、死を覚悟した経験も、無駄なことと言い訳付けて忘れたい? ですか」

「確かに、先走った感は否めないけれど、生きることの必要性を知ったから、邪推になっている」

赤瞳わたしがその場に居て、そこを諭したなら、傷は負わなかったかも知れませんし、その後の展開も違ったことでしょう」

「だとしたら何故、楓花あたしの前に居なかったのよ? 今更云ったところで、後の祭りなんじゃない」

「後の祭りと云われる所以は、豊作という結果に対し、神様に御礼しています」

「祈願祭と御礼祭の、ふたとおりになるもんね」

「それを両極にするつもりなのね、赤瞳とうさんは?」

「相対性理論を発表した理由は、最低ふたとおりの選択肢があることを意味し、善悪のように対義にした理由は、勝ち負けをつける人間の本性に添っています」

「だから、表裏の一体にしたのですね?」

赤瞳わたしは、負けることが好きですし、身になる糧が多いと考えています。そう考えるならば、天秤に乗せるものが違うと想えませんかね」

「みそと○○を一緒にするな! ですね。発酵と云う形を進化と考えれば、その抗力をもらうか、体内に取り入れる? と、変換できますよね」

「そういえば、単細胞生命体から始まった絵図が、生命の進化になっていたわ」

「類似品に注意を図るなら、ニラと菖蒲や、ユリ根とニンニクなど、比較できるものは往々ままありますからね」

「だとすると、誰かの悪意が働いたことになるよね」

「悪意じゃなくても、お他人様の思考をとやかく云えないから、都合良く当て嵌められた可能性が高いのかも知れない。どうなんですか、うさぎさん?」

「例えばボディビルダーの筋肉は鍛えることで発達しますが、女性の胸囲は、年功に添って垂れるものです」

「性的発言は誤解を招くから、解るように説明して?」

「多分、元の作用が違うからだよ、楓花」

「力を促す作用と、子供を育てる作用? って感じで良いの、マルちゃん」

赤瞳わたしが云いたいことは、刺激となる作用です。小柄のイメージのある古代人は、西洋人との体格差で、捻り潰される云い廻しをされました。それでも、一夜で家を建てたと云う伝説的な噺があります」

「一夜城のことですね。無理を言い訳にする民族ですから、当時のたみは驚くしかできないか、信じなかったことでしょうね」

「何かしらの、カラクリがあったんじゃないの?」

「カラクリ? ずいぶんと見方を変えたわね」

「発想の転換をカラクリにしないで欲しいですね。科学はなくても、それだけの知恵を養っていました。それが数学や物理に綱がっていますから、湯川秀樹氏や、北里柴三郎氏の機転が、天下一だったことを証明しています」

「機転?」

「正確には、努力じゃないかな?」

「楓花は、どう繋げるつもりなの?」

楓花あたしが図書館で覚えた科学は、概念や観念を持って挑めば、とてもたどり着けないと感じたからね」

「うさぎさんの正解を教えて下さい」

「皆さんが小学生の時に、夏休みの自由研究で、朝顔の観察日誌をつけたはずです。細部の成長を記録することで、眼にとまる成長を確認できます。毎日真面目に取り組むことへの、ご褒美と捕えるならば、必ず顕れるものが、生命の神秘と云われる所以ゆえんとなります」

「その神秘の正体が、知恵なんだよね。赤瞳とうさんはそれの始まりに注目して、落雷を結びつけたから、神経を走る信号波を光と定めたみたいだよ」

「そして、その流れで、体毛が焦げ落ち、獣からの脱皮としました。それを進化と過程するなら、退化が示すものは、必要の無いものの削除ではないでしょうか」

「無くなったものですか?」

「例えばカメと近親関係だとすると、水掻きになり、カッパ伝説は、退化の証明として無くなったとなります。もしも父親が育児担当だったとしたら、女性の胸が、男子に残っているはずです」

「それは、考えたくもないですね。でもホモサピエンスがのろまというイメージですから、可能性は無くもないですよね」

「それを科学的に証明するために、当時の記録か、記憶に頼るしかないです。ですが、文献どころか、遺伝子相続にも言及できません」

「無理を罷り通す人間でも、無理なことはあるもんね」

「そして、ノアの方舟を残すキリスト教でも、水を主幹とする災害に打ち負かされているのが、人間界なんですよ」

「だから赤瞳とうさんは、それを言い訳に、日本人である事実が恥だと定めたわけだしね」

「楓花なら云えるけれど、環奈わたしには云えないことですが、少し見損ないました」

「そうですか?」

「それでいいの?」

「多分本当の理由ことを晒したところで、府に落ちないはずですからね」

「あるんですか? 環奈わたしは信じたいですから、教えて下さい」

「日本が戦争を捨てた理由は、無敵を誇った大和民族の意思です。その多くは、太平洋戦争で男子を大量に減らしました。失われたものは男子だけでなく、高貴な侍の志もそうですし、武士もののふの観点もそうです」

「移民を蔑むつもりなら聴きたくないし、赤瞳とうさんの云う血を薄めることで開花する可能性も、嘘っぱちにしか聴こえないよ」

「でしょうね。金に魅入られた現代社会は傲慢を罷り通すだけでなく、僅かな希望さえ欲にまみれさせました。今を生き抜く手段は、悪魔と契約してでも、流れに抗わないことです」

「そうなると、この世でさえ、地獄となります。ですが・・・」

「そうです。今の日本は、科学の性質を知らない政治家と、金の亡者でしかない経済論者に追い出された現実が、この国の科学研究なんです」

「だから、爪弾きを装い、脳ある鷹を埋もれさせる仕組みに作り替えたわけなんだね。神々様と親しい赤瞳とうさんが、この国を離れない理由は、残された神々様や循環を逃れた偉人たちを見殺しにできない、ってことだったんだね」

「その元凶はやはり、帝国大学という学閥の流れに気付くものでしたから、敢えてT大学と云わないのですね」

「資本主義経済の大国が、日本を由々しき状況にしておくだけで、人材を探さなくても流れる仕組みを創っています。日本社会に膿となる柵や落とし穴が多いのが総てを繋げています。視限った若者たちがトテツもない不安に苛まれるから、自由な発想と発言を求めて、異国に流れています。それが移住して来た者たちの思惑ですし、上納させた金に味を染めたから、不穏な金の流れが生まれています」

「お金が掛かることを実感した時に流れの元をたどって視れば、行き着く先は経済の父でしかいないよね。トラ○○タワーで解るように、現実の総てが、金の餌食となっている現実しか、炙り出てこないわよね」

「なので、最終問題は、世論という情報戦を制する現代の妙は、何処の国の思惑か? です」

 うさぎは、を込めていた。



     二十八


「話してなかったけど、赤瞳とうさんは、元素殺人事件始まり時、何度も生死を彷徨ったんだよ」

「ことの始まりが、狙われることだったの? 谺さんのお父様が帝国大学の教授だったことは、伊集院さんから聴きました」

「正確には、三妹さんが見付けたと云うべきでしょうね」

「それが役割だったなら、繋がる真実があるはずよね?」

「分担を正確に読み解けませんが、卑弥呼さんは結界を安定させるために、赤瞳わたしの前に姿を現していません」

楓花あたしの曾祖母に宿ったのは、次妹さんと云ったわよ」

「うさぎさんって、おばあ様っ子だったのでしょうか?」

「母が美容師でしたから、面倒を観てくれたのは、祖母でした」

「そして、赤瞳とうさんの父は、の消費家で、家に寄り付かなかったみたいだよ」

「うさぎさんが、女神様の存在に気付いたのは、何故ですか?」

「小学三年生の時に、母の古郷ふるさとに当たる山梨県にある笛吹川で川遊び中に溺れて死んだ時に、感性母さんに掬われて、一命を取り留めましたから」

「死んだのに、一命を取り留めたの?」

「始めての幽体離脱を果たしました」

「感性様という認識があった理由はなに?」

「その後現れた、三妹さんに聴いたんです」

「感性様に助けられた時に、神の部首の元を飲まされたんだったよね」

「一命を取り留めたことから、生き返るための薬と誤解してましたから、その説明をするために、三妹さんは顕れるしか無かったんでしょうね」

「急展開を利用して、神様の思惑が現実になったとしたら、もしかするとそれがだった可能性がありますね」

「その思惑が、死者の甦りだったとしたなら、赤瞳とうさんが甦りに着手した理由になるよね」

「それは、赤瞳わたしも気付いています。創世主が感性という物語を綴れた理由ですからね」

「だったら、谺君のお父様にたどり着いた理由も、既に気付いてるよね」

「学校制度に異論を唱えたのは、三妹さんから聴いた真実が、歴史とは別物でしたからね」

「その時に、疑念は湧かなかったのですか?」

「根が真面目で一本木の日の本の國の民ですから、疑う余地はあるはずもなく、導かれてみようという興味本位で、人生を過ごして来ました」

「その興味は、誰もが知る誹謗中傷がもたらした、挫折感では無かったですか? だから、日本が嫌いで、日本人に産まれたことを恥じているならば、それこそが洗脳の目的になりますからね」

「多分ですが、洗脳の理由は、由々しき事態からの脱却を目指す志のはずです。数の低下がもたらした不慮は、侍の信念さえも落とす悪意でしかありません。悪意の始まりを模索すれば、人が神を殺せるなんて戯言が残る神話こそが、悪意ですからね」

「だから、科学者の発祥とも云える、プロメテウスさんに繋がる今生を想像に繋げさせたのではないでしょうか?」

「曰くだとか、謂われなんて云い方を死語にした現在に天誅をもたらすためだった可能性も高くなるからね」

「全てが、嘘から始まった現実ですから、赤瞳わたしはその事実に誉れを持てません。そして、敗戦でGHQが分解した日本社会に台頭したのが、北朝鮮から流れた移住者たちであり、その流れに便乗した韓国人たちも並ぶように盛者必衰の理に取り憑かれています。そして、戦争への参加を断った怠け者たちの介入で賑を見せたのが、現代社会です。それが、日の本の國に懸けられた怨念であり、神々の御加護を受けたまわったひとりが、赤瞳わたしということでしかありません」

「その抗力が爪弾きだったなら、赤瞳とうさんだけでなく、楓花あたしだって快諾するよ。そして、サキにしても、マルちゃんにしても、そんな輩たちと同類に想われたく無いよね」

「そうね。やせ我慢するくらいなら、非国民の汚名の方が、気持ちも沈むことがないからね」

 楓花と環奈は、これ以上ない? というほどの笑顔をみせていた。

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