第9話 本題 3 (その二)

     十七


「撃って出ることにしたのは、環奈さんの功績ですね」

 齊藤まるは、浮かれ調子に終止符を打てず、想いに任せて云った。

「齊藤まるさんは副官の役割よりも、SPの役割に撤して下さい」

「それは、むごすぎるんじゃないかな、赤瞳とうさん?」

「存在してはならない資料ものの処分は、人類史上に関わります。心を鬼にしてでも達成しなければ、今生が闇となりますからね」

「だとしたら、鬼の撲滅を図った方が良くないかな?」

「サキさんが受けた屈辱を知っているのですから、我が儘は通りません」

「あの想いを、今も誰かがしていると云うんだね、赤瞳さんは?」

「離れた場所で起こる戦争もそうですが、他人事としてしまうと、世の中は何も変わりません」

「すいませんでした。杞憂を失くすことを生業としたのに、とんだお粗末を晒して終いました」

 齊藤まるは詫びていたが、喜怒哀楽という感情は処を嫌わず、芽生えるものであり、自粛などと云ったところで、直ぐにぼろをだすのが人間であって、懲りないのも人間なのだった。

 そんな暗雲が立ち込み始めた時に、うさぎの携帯が鳴った。電話を掛けてきたのは、ジュガシビリJrであった。流暢な日本語にイントネーションを誤魔化すための母音操作が施されたために聴き取りにくいが

「ずっと迷っていましたが、祖父が地殻の破壊を諦めたのは、広瀬君の父親に欠点を指摘されたからと教えてくれました」と、真相を明かした。

「音波増速機は造られていたんですか?」

「破壊した時の衝撃波の伝導で、チェルノブイリ原発が破壊去れました」

「当時の赤瞳わたしは西ドイツに居ましたが、地震を感知できませんでした」

「広瀬さんは、マグマやマントルが衝撃波を吸収するから、ヒビすら与えることは無理だと云い、祖父は気が狂ったようで、スイッチを押してしまったと、云いました」

「今、と云う結果を視れば、広瀬先生の計算は正しかったのですね」

「だから赤瞳さんは、地中の液体物が流れていると判断したんでしょう?」

「プレートが液体物から浮いているかも? と広瀬先生に云われた時に、重力子が押さえる役割なら、世界中で慢性的に地震が起きるはずです、と、赤瞳わたしが答えたことから、師事関係が生まれました」

「建物のくいのようなものがあり、それを支えていると云ったのは、ゴミから始まった地球の歴史を想像できたからですよね。私は最初、神の眼を信用していませんでした。ですが、触れ合ううちに、信じてみようと想いました」

「ありがとうございます。赤瞳わたし自身、視えているものが錯覚かも? と、想う時があります。ですが、自身の自尊心のために云ってないので、誰かのために必要だから、代わりに観ていると想い定めるように心掛けています」

「仲間に入り身に染みたのは情けですが、その情けを育むために情緒があり、他人への行為に及んでいることを知りました。私は国に残した家族に心配ばかり掛けてきましたが、平和を目指すこの国に連れてきて、人間の本文に従いたいです」

「踏み出すために手を差し延べられますが、決断するのは本人の意思です。ただ、この国の人間は不器用で、公用語すら話せない方が多いですが、その分お人好しです」

「私にできることを惜しまずするつもりですが、KGBの残党が主権を握る今、心配が消えません」

「解りました。仲間の心配事は、組織の心配事ですから、明日会議を計り決めましょう」

「ありがとうございます。中身が異国人と云われないように、覚悟して挑みます」

 ジュガシビリは云って、通話を切った。

 心なしか不安を募らせている面々に、うさぎは一別くれて、大きく息を吐き出していた。


「お疲れ様? でした」

 齊藤まるが、重くのし掛かり出した空気を循環させようと口火を切った。

楓花あたしたちも、同席できるのかしら?」

「したい、ですか?」

「私はまるちゃんに隠れてでも、ついて行くつもりよ」

「なら環奈わたしは、サキの影に隠れてついて行く」

「影に隠れるなんて云わずに、楓花あたしに居並んで行こう! 楓花あたしたちだって、うさぎさんチームの一員なんだしね」

「それで良いです。野次馬根性は喧騒を大きくするだけで、拡がる効果を生み出しませんが、情が絡むのが江戸っ子の心意気ですし、世界に自慢するべき民族性ですからね」

 うつむきそうな心にとってそれは、魔法のような効果を生んでいた。人は詞によって元気になり、詞により思い悩む。日の本の國が日本国に変わっても、民族性に変わりがないことを打ち出すために、元気と礼節と謙遜を持ち続けて欲しいというのが、うさぎの心情であった。



    十八


「大分風向きが変わりそうですが、文殊を極めるために必要なことは、転換にまつわる長短に変わりありません」

「ならば、元素兵器を目論む真意は、邪魔者を消すことよね」

「国がカーボンニュートラルを推奨するのは、科学者の間違いに気付かないから。それならそれで、打つべき手段は、内部爆発しかないよね?」

「だとすると、既存の元素との自然融合に見せるために、変形した水素を絡めて爆発を起こす? 何ての云うのはどうかしら」

「どういうことよ、楓花?」

「人間の体内に蓄えられている元素で、爆発(小規模)ができるって、赤瞳さんが云ったから、それを証明するわけなんだね? 楓花は」

「そういうことならば、沸騰化時代を強調するために、いかづちにすれば、死者は出ませんよね」

かみなり様に、睨まれたらどうするつもりなの、赤瞳さん?」

「科学的根拠のないいにしえに、雷様が鳴ると梅雨明け? と云う云い伝えがありました。それは、風神様が南風を運び込み、不安定な気圧配置を造り出したから、気圧の谷に当たる狭間はざまとどろいたのです」

「それを人的に造り出すことは可能なんですか?」

「人的に造り出せないから、自然災害なんじゃないの?」

「人間に無理ならば、神様に頼めば良いんじゃない? 運良く、神様が楓花あたしたちの心に宿って居るんだからさぁ」

「どうやって頼むのよ?」

「何者かに頼むのは、お勧めできませんね?」

赤瞳とうさんが頼んでくれたら、手っ取り早いけど、その口ぶりは、違う確信があるんでしょう?」

「あるの? 赤瞳さん」

「教えて下さい」

「皆さんは、距離を計れないときに、どうしますか?」

「距離なんて計ってる場合じゃないでしょう、赤瞳さん」

「星々の距離を計る、三点法だね?」

「どういうことよ、楓花?」

「本来は内角を半径に留める三点法を、直径にすれば、距離が必要になるけれど、三点が線で結ばれる。ただ、流すものが電気ならば線でも可能だろうけれど、思念と云う気功ならば、バイオリズムと同じ曲線になるから、向きが重要になるよね?」

「ならば、光にすれば良いでしょう。向きに気付けたならば、三点に拘らず、四点にすれば誤差も少なくなりますし、失敗も減るはずです」

「数学を科学に取り入れる訳なんだね」

「総称が科学だから、円満に至る? って、赤瞳とうさんはよく云うよ」

「だから云ったでしょう? なんちゃってかも知れないけれど、楓花が今、無敵になれたのは、図書館にある知識を活用できるからなんだよ、マルちゃん」

「別に無敵にならなくても、人並みに生きていければ良いだけ。サキにしても、マルちゃんにしても、知ってることを結び付けることが下手なだけだと想うからね」

「そして、内閣府の面々が、その想いを繋いでくれます。とりわけK大学の若い根源エネルギーが、接続詞の役割を担います。?」

「何か閃いたの?」

「沸騰化時代を造り出した原因かも知れません」

「解るように、聴かせて?」

赤瞳わたしが未だ幼少だった頃、祖母のふさが、家の周りの農道にアスファルトが敷き詰められたから、温度が上がった? と、云いました」

「アスファルト?」

「石油製品を造り終えたカスだよね」

「政治家の権力の象徴として、誰もがそれを喜びましたが、コールタールと云う物質は、地中の水を汚染し、工事の度に継ぎ接ぎされるので、敷き変えが予算を圧迫します」

「ふさおばあちゃんの心に宿っていたのが、卑弥呼さんの直ぐ下の女神様で、赤瞳とうさんが覚醒できるように、ひと肌脱ぐために降臨したらしいんだ、マルちゃん」

「そのコールタールを、無害と云った科学者が、買収されていたわけなんだね?」

「その当時に社会を賑わしていた詞が、欧米に追い付け追い越せ? でした」

「行政の予算を圧迫したなら、それが短なんだろうけど、長はなんなの、赤瞳さん?」

「最近では黄砂の被害を天気予報でも云いますが、砂ぼこりだけでなく、小石での怪我も身の安全の観点から、報道でも云っていましたね」

「最近では、川の氾濫や鉄砲水による災害が脅威になってるよね」

「埋め立て地にしても、地球の軌道修正になっていませんし、高層ビルが立ち並ぶ街に吹く風をビル風と云いますからね」

赤瞳とうさんは最近、風神様と雷神様の不仲をよく口にするけど、役目をとられた風神様が拗ねている? とも、受け取れるよね」

「なんで、高層ビルが短なの?」

「風の流れを変えるから、なんじゃないかなぁ?」

「地中のプレートに負荷が掛かるからか? 土台になる歪な鉱物が耐えられなくなるからでしょうね。マグマやマントルが高温なんだから、延びたり膨れ上がったりして弱くなっているという認識を必要とするからね」

「なるほど、老人を労れ? みたいなことと、同じ観点が必要なんだね」

「多分だけど、時転や公転で生み出すひずみの捌け口が、遠心力から造り出される流れになるからで、雨で造られたはずのプレートに負荷を掛けることが、災いの基なんじゃないかな」

「正解です」

 うさぎの笑みは、楓花が自力で紐解いたことへの、褒美のようであった。これにより、文殊も格段に成長することが伺え、お役御免が近付いていることを身に染みていた。少し寂しく感じるのは、それが老いてゆく宿命と捕えなければ、世代交代が順調スムーズにいくわけもなく、因業いんごうジジぃや、意地悪婆さんと云われてしまうからであった。

 毎朝お日様を拝見できることと同じように、良好な関係のまま幕を閉じたいと願っても、罰は当たらないのである。そして、全てをために人間が存在するのだから、頼ることも悪にはならない。そこに無理強いや忖度が絡むから、難しくなって終うのだが?

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