第8話 本題 3
十五
うさぎが三人娘に対し最初に話したのは心得であった。
それは、地球外生命体が、高水準の科学力を必要とする理由であった。層で護られている地球は、見えない量子が擦れることで産み出す重力子が、地殻に引き寄せられる。その向きが地表から中心にむかい伝導するが、水と土で質量が違うため、ど真ん中には向かない。それが原因となり歪みを引き起こすから、地震が発生するのだと云うことから始まった。
さてはおき、層という空間にも量子が存在し、太陽光を組織するものの中に存在するガンマー線を反射するのだが、通過する際に量子の隙間に引っ掛かるのがそれであった。ガンマー線の表面に凹凸があり、放射線上から剥がされるのだ。正確に云うと、量子の隙間を太陽光線が通過する際、熱量で増幅する量子が、その道を曲げる。網目に引っ掛けられたガンマー線が止められるのだ。ガンマー線は行き場を失くしたことで、宇宙空間に跳ね返されるのだが、漂うことを余儀なくされる。
宇宙空間と云うものは、無重力空間という概念がある人間が想像するものは浮遊だが、量子が無いことで、重力が発生しないだけであり、体内で活動する臓器と同じ状態になるのである。
地球外生命体の多くを、人間の形状と錯覚してしまうが、掌は上下左右に連結し、その中心には目という認識を役割とする口に管理されている。腕はタコのような軟体な組織であり、三百六十度に繋がって生えていて、中央にイソギンチャクのような口が存在しているのが外形である。その口が元素を取り込み、化学反応で動力源を造り蓄えている。生命の母体が中心にあることは自然の摂理であるから、心臓のような役割だ。そこから運ばれる主素が活動源で、末端まで送られるのだ。それは、百度を越える最高気温点と、マイナス二百度という最下点との急激な差を降り幅とする宇宙空間に適応するためであり、無駄を失くすことと、排出物を造らないために造られた組織とみられる。
中心部の周りに位置するのが、脳と同じ役割を担う知識綿という海綿体であり、
「如何なる状況下に措いても、身の安全を最優先とし、任務以外の情報に拘わらないことが前提条件です」
「その理由はなに?」
「他国の諜報部員は亡霊ですから、既に絶命者扱いです。死者にされた亡者に怖いものはありませんからね」
「国家機密を扱えるのは、死人だけ? ということなんですね」
「ソビエト連邦の科学者に存在者が居ないのは、存続闘争に負けたあかつきに、地球ごと爆発させて、史実を終らす魂胆で挑んでいました。亡霊を本当の死者にしたから、その時の極秘資料の居所を、誰も知りません」
「誰が殺したの、赤瞳さん?」
「英国のMI6という情報もありますが、死人に口なしですから、真相は誰にも解りません」
「それでも神の目が観た事実は、
「文殊を極めるために必要なら話しますが、知恵ある科学者が地殻を爆破してまで、無に返すことを追求した結果ですから、絶命の
「地殻が爆破できるものなんて、誰も想ってもいないはずだよね」
「地球上に量子が存在する理由が、まさにそれなんでしょうね」
「だとすると、
「知りたいのは理解出ますが、知ったところで、己の力の無さに気づくだけです」
「そのために、文殊を目指す訳だから、ヒントだけでも教えて欲しいなあ」
「サキさんの興味は好奇心なんでしょうが、それが命を狙われる理由ですから、今はまだ教えられません。科学の悪用が洒落にならないことは既に経験済みですからね」
環奈もそのひと言で、乞うことを躊躇った。
楓花はその想いのいじらしさから
「学びの理由は人それぞれ? なんだろうけれど、欲にまみれる人間は必ず出るはずで、ひょんなことから明かされるなら、肝に銘じることで、悪用を避けられるかも知れないよ」と、想いの尊さを引用していた。
うさぎは、楓花の成長に看過され
「衝撃波を生み出すのは衝撃ですが、音波が光速を越えた時に生み出すものも、爆破を生み出します。それを、ノーベル博士が隠したから、ビッグバンの再来を阻止できたようですよ」
「ちょっと待って? 音速が光速を越えるなんて、人間の概念上あり得ないでしょっ」
「だから人間に主素が
「だとすると、抵抗力の原点は、人間には消せないもの? ってなるよね」
「サキの云い分通りに考えるなら、人間が宇宙空間に出ても、悲惨な結果にうちひしがれるだけだよね。その本文が幼い科学力なら、越えられない試練になるから、口惜しい限りになるよね」
「ちょっと待って、確か
「音波も波長ですから、重ねられるものは想いしかないです。それをあみだくじに当て嵌めて電磁波を流す限り、循環が永遠の行程になりますからね」
うさぎは強かに云い、薄ら笑いさえこさえていた。
人間が世の中の中心でないことは以前に語っているが、中心があるから、広がり続けるのである。そしてその広がりを支える点も、遠心力で拡がるから、メガホンの形状と紐解いた。そこに抵抗力がないのなら、阻むものがないことを証明し、永久に伸びれるのである。概念や観念を悪意にしないためには、それ相応の覚悟を持たなければ、それこそがまやかしになる? ということであった。
十六
「取り敢えず、事前調査という名目で、旧ソビエト連邦の科学研究所の査察に行きますが、一緒に行きませんか?」
「どうしたの、唐突に?」
楓花の妄想では、旅行の定義は親子水入らずで、想い出の地を散策することを発起していた。
環奈は産まれて初めての海外旅行に期待する余り、新婚旅行のきらびやかさを前提に、夢みる乙女的な感覚で、想像を興していた。
「もしかしなくても、ボディーガード役で、まるちゃんも行くんだよね?」
サキも、環奈と同じようで、忙しい亭主と未だ完了していないハネムーンを想像していた。
うさぎはそんな乙女たちをよそに
「メンバーになった、うちの亡霊たちも、日本人として振る舞えるようになりましたので、心の保全を計るために、里帰りをしようと考えています」と、うさぎは、藪から棒に告げた。
楓花は嫌悪感で
「環奈へのご褒美のつもりなの?」と、やさぐれた心持ち? で、云い放った。
「整形という形で姿を変え、名実共に、
「それで、
「護ることのスペシャリストたちの隙をついて殺害されたなら、行く意味を失くします。仲間となった亡霊は、各国を代表する英雄の子孫ですから、取り除けない癖を持っています」
「その癖を見破られた時に護ることが出きるほどの経験も持ち合わせていませんし、うさぎさんの危惧を埋めるだけの手段も持っていません。想定される状況だけでも、教えて戴けませんか?」
「環奈さんの危惧は、救うための手段であり、亡霊たちがしてはいけないことを指していません」
「してはいけないこと? それって、死人が実体を持つ人間を殺すことだよね?」
「それは、常識の通じる相手であり、ウクライナ進行を謀った大統領にしてみれば、一石二鳥になるはずよ? だとしたら、英雄の奪還を計る反政府組織だから、仲間になった亡霊たちを、思い止まらせる役割なんじゃないかなぁ?」
「そうなんですか? うさぎさん」
「数多の構想があってあたり前です。全てが正論ですし、本人が口にしないだけで、愛する者を遺していたり、面倒を観てくれた恩人は、必ず居るはずです。亡霊になった今できることは、そんな人々を
「その人たちを亡命させて良いの?」
「日本国政府が要人に指定できない場合は、どうするの?」
「卑弥呼さんが日の本の國に教えたことは情ですから、
「輩たちにしても、与太者たちにしても、そういう躾を施されてるもんね。それに日本は、世界一安全な国を目指す以上、越えなくてはいけない
「本音のところですが、公用語を覚える時間もありませんし、原住民たちの流行り詞が鍵を握るでしょうから、ほとぼりの醒めた今が
「その
楓花の妥協点に悪意がないことは、文殊の本心であり、心に居候する神々が血潮を操作して、同意していた。純真な心を持つ必要性は、協調性に絡んだ綾だとしても、根気を必要とする現在に当て嵌まる無駄を省く習性に絡めたのは、非実体の想いであった。そうやって世の中が円満になるのなら、流されることも揺り篭のように感じられ、愛おしくなるはずである。
齊藤まるが喜び勇んでやって来た。内閣府内の執務室でそれを公表していて、再び外国の敵に正対することを決めたようだった。ただ前回と違う点は、国内で紛争になる恐れはなく、地球上に蔓延る理不尽を根絶するための行動であり、人間が寿命を全うできる世の中にするたの絶対条件とも云える。元素に疎い日本人には理解できないだろうが、命の尊厳に従うための、避けては通れぬ
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