第7話 本題 2

     十三


 うさぎは次の一手を、理不尽な格差社会を造り出した真相にすると決めていた。


「格差社会ができた背景を、どう? 紐解きますか」と、うさぎは発した。

「次のお題ですね。何を引っ張り出して繋げましょうか?」

 環奈は、取っ掛かりについてたずねていた。

「人間としての誇りを考えると、エサの存在であったホモサピエンスが居住地にしていた洞穴から出ることができたのは、火を手にしたからです。それを山火事の発生を目撃したことから始めると、民族に至った経緯を紐解けます。第二次世界大戦の後まで続いた固定種民族も居ますから、調べやすいはずですよね」

「その背景は、詞の広まりにも繋がるし、文化や文明と云う表現に繋がらなかったことにも繋がるよね?」

 楓花は、現代の煌びやかな文化や文明を取り除いた背景を想像していて、当たり前にした経緯を模索しようとしていた。

「何もない山奥か、絶叫するほどの秘境から、出られなかったか、出たくない何かが、交流を拒んだんじゃないのかなぁ?」

 サキは、秘境の奥地にある雄大な自然が、煩わしい関係性とはそぐわないと考えて、交流を必要としない理由に据えようとしていた。

「ねぇ、赤瞳とうさん。図書館に行っても良いかなあ?」

「どうぞ。でも、何を調べるつもりでしょうか?」

楓花あたしは、生命の流れに隠された謎を調べるつもりだけど、親友ふたりが何を調べるつもりなのかは解らないわ」

「手当たり次第に調べるのも良いですが、医学書も観ておくと、生命の誕生からの三億年の歴史に繋がるものが見つかるかも知れませんよ」

「解ったよ、赤瞳さん。血潮に任せることも、注意しておくね」

 サキは云って、姦しく出ていった。

 うさぎは取り敢えず、清流家が芽生えさせた暗殺依頼に備えるために、隠れて尾行することにした。あくまでも備えのつもりだったが、瓢箪から駒が出ることを気に掛けていたのである。


「ねぇ楓花。赤瞳さんはああ云ったけれど、洞窟から出た時の選択肢がふたつあるよね?」

「進むか、戻るか、かなぁ?」

「折角前進を決心したのに、後戻りはあり得ないでしょう。例えば、平原に出て、新境地を開拓するか? と、森に進み自然が造り出した恵みを探すのか? じゃないかなあ」

「そうなると、天敵の中に飛び込むことになるよね?」

「両方とも、武器を持ってないと、ダメだよね」

「天敵の多くが四股で、獰猛だから、意表を突くならば、投石くらいしかないよね。でも蔓系で罠をこさえ持ったから踏み出したとか? ないのかな。そうなると、優越感情も芽生え、格差に繋がるような気がするんだよね」

「そうよね。生命線の水を汲むことで、洞穴から出てたはずだもんね」

「そう云えば前に、原人とホモサピエンスを一緒件いっしょくたにしたことがあったわ。その時は、神のご加護に触れたんだけど、プロメテウスさんの科学がご加護だったんだよね」

「そうなると、洞穴から出た時期の問題じゃなく、にわか科学の知識を持っていたのが原人で、ホモサピエンスが、再生を謀られた草食恐竜となるよね?」

「だったら、肉食恐竜が居なくない?」

「それが、獰猛な獣かも知れないよ。再生リセットの疑問は、草食恐竜が転換された理由で、科学反応を起こした結果なら、辻褄は逢うよね」

「だから、生命の進化で得たものが細胞や臓器ということで、医学書の確認を示した可能性が高いわね」

 環奈は云うと足早になり、忙しくなっていた。

 うさぎは、文殊とは方向性を示し、本題1でたどり着いたユダヤの紋章に導くつもりでいたから、笑みを溢しながら尾行していた。


 因みに、ユダヤが争いに負けたことを伝えたが、傷を負った仲間の手当てに使用した薬草は、プロメテウスからの知恵であり、神としては異彩を放っていたことを証明していて、ゲルマン民族やローマ帝国に持ち入れられ欧州に蔓延していった? となる。

 欧州とは別に、インダス文明が海を越えた理由は、知識の応用を広めることで、愛する女神に届くことを期待したから、争いの絶えない中華が必要とし、覇権で消耗する人体にとって必要であったことから、日の本の國にも伝来したとなる。それを、卑弥呼が微調整したことで、漢方薬となり蔓延したのだった。

 卑弥呼は、神武天皇が定めた和みの國に同調したことから、争いで消耗した正気を癒すことに勤しんだ。それは、炉の女神としての本文であったから、家という家督を守ることを生業としたはずだ。それを良いことに、神武天皇の暗殺計画が明るみが躍り出て、男尊女卑から戦場に出ることはなかった卑弥呼が、ヤヌスの鏡を贈り備えることを図った、となる。

 繰り返される修羅場も好奇心さえ納得させる達成感から、油断が生じていた。だからその後のいくさで、獅子身中の虫という格言が出るのだった。

 そうこうしているうちに図書館についた。三名は喧騒の音量トーンを下げ、建物の中に消えたが、うさぎは中に入らずに、出入りする者たちに注意を祓っていた。



     十四


 粗方調べものを終えた一行は、更なる不安(疑問)を持ち、帰宅を急いていた。

 うさぎが先回りして、一行を迎えたが、その困惑を受け

「生命の誕生から時を越える理由は、無駄を省くためではなく、記憶の継承です」

「それは解ったんだけど、血がめぐる理由は、新しい酸素を運ぶためじゃないんだね」

「上書きされた記憶を、全身で共有することまでは紐解けたけれど、その速さの理由が謎になっちゃった」

「もしかして、その速さの秘密が、老いの原因なんですか?」

「環奈さんは、概念の妙を紐解けないようですが、古代から続く継承を途絶えさせない理由を、親心と観れないからです。死を持って終らす記憶ならば、個性などは必要ないですし、時代背景なんて遺す意味がなくなります」

「遺す意味が、子孫に固定されなくて、人間に必要な記憶にするならば、今の世の中が間違っていることになるからね」

「遺されることの真相が、人間の全てに教えるためならば、それこそが、理不尽になりませんか」

「海にも哺乳類は居るし、山にだって卵で繁殖する生命もある。その全てが、選ばれる理由を模索するなら、全ての生命に敵対する生命があり、選択肢なんて何通りあるか解らなくなる。それが選択肢を必要とする理由なら、無駄に分類された生命は、存在事態に意味がなくなっちゃうよ」

「そこにある数多の可能性が、人間の可能性なんです。管理という括りを統括するものを概念とし、括り内を安定させるために観念を揃えています。自由とは詞でしかなく、地球上に必要という言い訳を揃えたものが、神々としたからでしょうね」

「非実体に管理させた理由は?」

「永遠に目指すための標だからでしょう」

「だとすると、終らす理由は、観限ったことを差し。うさぎさんの云う永遠は、人間には越えることを許していませんよね」

「それを体内に仕込んだから、神経系の周りに筋肉という細胞を備えさせ、細胞の維持のために血が廻っているのです」

「ならば、血が廻る理由は、神経系を護るためね。そうなると、記憶の中の必要なものだけを神経系に届けるためってことなんだね」

「それは、植物人間で解るように、脳の支配がなくても、生きることだけはできます。それに、臓器の損傷を理解できない脳だから、老化現象が起こるのです」

「人間が老化現象を必要とする理由が、世代交代であり、心と躰のれを認識して、生命の幕を閉じるのですね」

「それが欲でしかないことから、理不尽な行いをした者を回帰するのね。だから、赤瞳とうさんは、欲を達成させる者を傲慢と云い。高座に魅入られたものを蔑むのね」

「云い変えるとそれは、自己中心的意識であり、自身を中心に据える勝手な輩と唱えたんですね」

「でもさぁ、輩って云うと、不良者とか、落ちこぼれ者を連想するよね」

「教育者が植え付けた概念を、若者たちが見間違わないようにするため、マスコミは常識と連呼します。与太者が高座に居る者に認めてもらうために、電波や音波を通して云う背景が、まさにそれなんです」

「そのご褒美が、お金という勲章だから、民衆はこぞって参加するわけなんですね」

「スポンサーという企業こそが金の亡者だから、カーボンニュートラルなんて紛い物に、魅入られちゃったんだね」

「全ての始まりが、長老という代表者で、経験値が全ての基準でしたが、そばを取り巻く者に権限を与えたから、格差が生まれました。それを観真似た怠け者の王という存在が、悪夢の始まりです。王は象徴という存在に移り変わり、それを善と受け止められないことから、継承を切ることを選択します。捌け口のない心情は、意識の中で悪転し、爆発して終るのです」

「そして、閃きを知恵と偽った側近たちが、立場を利用して、順位の確保を試みたんですね」

「クイズでは、下位の者が逆転できるけれども、世の中ではなかなか難しいのが現実だし、逆転で失うものは、お金では買えないものだからね」

「それはメディアでも同じで、特質を何も持たない一般人を持ち上げ、高所得者という百鬼夜行を作り上げました。それを夢と位置付けたから、世の中が魑魅魍魎だらけになったのです」

「そういう時代背景だから、物語は編集者の思いのままで、書籍化というエサに魅入られた者たちが集まり、浮き沈みの大きな業界に成り下がったんだね」

「死者を導くための仏教も、高額の儀式費用と、徐霊というまやかしが罷り通るもんね」

「ただひとつだけ、輪廻という存続をかけたでは、真面目を貫いた高貴の志を掬うことができるから、救われるんだね」

「それでも、数の定義には勝てずに、絶滅は避けられないでしょう。回避の糸口は数多ありますが、権威の一声に掻き消され、独り歩きした挙げ句に消える運命です」

赤瞳あひとさんは前に、結界だけは残るって云ったけれど、その僅かな生命も、子孫を産むことはできないから、増えることはないよね」

「それが、悪魔が書いた物語シナリオで、そのシナリオが癪に障るから、赤瞳とうさんが、色々と画策するも、仲間であるべき人間に観限られたもんね」

「時代が悪意を象徴とする現代は、地球沸騰化時代を極め、生命の価値を下げています。だから赤瞳わたしは、結界の住人を希望し、防具である電磁籠の組織図を燃やしました」

「結界内の偉人と共に、儚く終える魂を見送ることにしたんだよね。でもその後はどうするのよ?」

「次なる支配者が踏み外さない社会を造れるように、尽力しましょう。そして、次回からは、諜報活動についてお題にします。それは、人間の支配を終らせることに繋がりますが、既にその未練も絶ちきれました」

 うさぎは云って、兜の緒を締めていた。

 女性三名も、絶滅を回避できるかも? という期待度を募らせ、気を引き締めていた。

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