第5話 標を付けるべきか?

     九


 環奈は、刻んだものを色褪せなくするために、サキの家に居候することを打ち出し相談したが、うさぎの危惧により行動の基準点を、サキの実家に変更した。

 その説明は、齊藤まるが義理とは云え身内であることから上申する羽目になり、楓花も一緒にという条件で成立した。

 乙女たちにユリが加わり、かしましさは喧騒と変わりなくなり、男性陣に太刀打ちできるはずもない状況は、いにしえからのに仕返しするかのように見えた。

 そこにうさぎが加わったとしても、多数決という民主主義で負けることから、女神を引き合いに出して、女性陣の口を塞ぐ始末になった。

 環奈の両親が、挨拶を兼ねて様子を窺いに来たことで、過去の因縁が重なり事件が勃発する羽目になった。それは、環奈とサキが同じ病院で産まれていて、当時の杜撰ずさんな病院設備を再認識することに繋がり、取り間違えに不安が募ったからだった。

 同時はバブル期の影響から、心なしか舞い上がっている風潮で、赤子を保育器に戻す際に間違えたのでは? と感じたことも、思い出と一緒に色褪せたものの残っていたからである。そこに富裕層の傲慢が働けば、賢そうな赤子とすり替えた? という不安は生まれるし、家督相続を気にする意識は世間に浸透していて、入れ換えたのかも? という疑惑を発症させて終ったということだった。

 ユリは

「だから個室での出産にするべきだったのよ」と、沸き戻る苛立ちを振り返して咎めた。

「病院にも都合があるだろうから、強く云えなかったことは、お前も了解したからだろうが?」

 朝宮総一郎が、ユリを口先だけで往なした。

「確かに、第三次ベビーブームの到来か? と云う世間は喧騒を極め賑わっていて、急激な増加に対応できない状況でもありましたよね」

 清流せいりゅう弦一郎は、環奈の誕生を、この世で一番の幸福と銘打ったようで、母子健全であることを涙して喜んでいた。語弊はあるが、妻のなずなはそれを快くは想っていなかった。当時の弦一郎に燻っていた浮気疑惑を消すために、愛の結晶を利用されたという誤解があったからである。ただ、夫婦間の喧嘩は、犬も喰わないという謂れを聴き噛っていた為に、それを口に出すことはなかった。許されたと勘違いする男性はいて当たり前で、それだけの価値しかないと切り捨てられる時代背景を打ち出したことで、成婚率よりも離婚率が増える事態を生み出していた。

 魑魅魍魎が、人間の心を確実に蝕んでいたからであり、泡としての多くが、敗戦後に連呼された夢という希望を道連れにしたことから、空蝉にか映らず、時代背景に書き消された感が印象的だった。だがそれも、一度見た夢を消せずに、泥沼から脱出できない者たちを増産して、おひとり様の臨界率を押しあげていた。

 そんな妄想紛いの回想にうつつを抜かしている間に、うさぎが荷物を抱えて戻ってきた。合宿の体裁を揃えるために、楓花の着替えを取りに行ったのである。普段は、サキに任せっきりの齊藤まるも遅れたものお使いをこなし、過去の曰くを解消するための途筋に取り組むこととなっていた。


「それぞれに言い分はあると想いますが、大事なことは、詰まらない見栄や外聞を吹聴すると、尊い命を犠牲にすることになります」

 うさぎが云いたいことは概ね伝わったようで、各人が善処する気構えだけは整えていた。

「どういう経緯で、命がなくなるのか、教えてもらえないかな?」

 楓花は、環奈の両親が疑問を抱かないように、説明を請うた。

「人は皆、見えない何かに、踊らされていると云われるでしょう。それが、お釈迦様の掌の上であることは、仏教国として遺してくれているもの」

 環奈は、命と云われたことで、仏教的視野から想像したことを口にし、つまらない争いで失うに焦点を宛てるように仕向けていた。

 うさぎはそれで、

「悪意 き善意は誰もが持っていますが、それを口にすることは罰が悪く、なかなか云えないものです」と、前置きしてから、楓花と環奈に目配せを送り

「それぞれのご家庭で、コミュニケーションが違うでしょうが、授業参観に行かれる親御さんたちは、社会的立場上の観点から服装を選択します。性根的に目立ちたがり派と穏便派はあるでしょうが、点と線の二通りの視野で観るはずです。

 点は、我が子で観る方々で、線は協調性という繋がれた見えないものに注意する方々です」

環奈わたしの両親は後者です。ですが、人間観察が好きなようで、場違いの格好を口にしたことがありました」

「私の家は、授業参観は女の役割だ、と云って来たことがなかった。でも、朝宮家の代表という気構えだけは忘れるな、なんて威張っていた気がするわ」

「代表なんて云った背景は、過信も甚だしいから、家に帰ってきて口にする詞は、疲れた寝る、や、俺は忙しい? が口癖だったわよね」

 ユリの口振りでは、選択肢はいらないという傲慢に聴こえるが、二対一という数の定義を後ろ楯にした民主主義を主張したはずと、うさぎ親子は回想できた。

 創業者によくあることだが、会社を引き合いに出し、家庭を省みない例と云えるだろう。本音の部分は、俺の稼ぎで、自由気儘に振る舞える? という傲慢が基盤にあることを教え、輩たちが漬け込み易かった? にも繋がり、必要悪を罷り通したはずだった。

 その曰くは精算したが、娘の同級生の親とは知らないことで、不審者? という汚名をきせた可能性を打ち出してみたら、秘書や部下を使い横柄に対処したことが発覚した。

 傲慢を馴れ合いにすると、身に纏わりつくものは復讐を誓った者の怨念なのだ。それは関連性を必要としないから、蔓延した悪霊にとっては好機となり、少しくらい痛い思いをしなければ、諦めないと性根が歪んでいることに気付けないのだ。そしてそこに必要なものはかねでしかなく、その金に踊らされる者? 又は、魅入られた者? たちが集うのだ。そして関与の糸を切って、姿を眩ますのだ。

 人間が堕ちると形容することで、それ等が曰くとなり悪人に継承されるから、終止符を打てなくなるのだ。それがイタチゴッコに陥るのは、影に隠れた者たちに呵責が生まれないからで、忘れている始末は、時間を刻み、後悔にたどり着く。そしてそれが回帰の基準であることを、うさぎは声色を弱めて云った。

 老後という終活に取り組む年代に達したことが災いとなるのは、間違いに気付いたとしても、やり直しに取り組むだけの時間の無さを言い訳に、断念を決め込む人間が多いからだった。少子高齢化に至った背景は様々考えられるが、夢の安売りがもたらした挫折感は国民の深層心理さえ歪ませている。それが組織図の中で急成長を遂げた理由は、切磋琢磨を合言葉に希望という手を握った若者たちの意見をあしらうだけの経験を持っているからだ。

 高座の死守しか念頭にない高齢化社会は、溜め込んだものの取り合いでしかなく、老後のためにと蓄えたものも、心ない政治家により活用された。

 経済の父が各所に散りばめた回収方法のひとつに、保険というものがあるが、纏めたことで一時金として分散できるが、蓋を開けると見えるものは、銀行という利益主義者となにもかわらず、一時金として払い出す率を調整するから、これがダメ?あれがダメ? と体よく云い含めている。そして集めた金で生み出す利益を一部の者? という一方通行を隠し持っていた。

 その流れを牛耳る者に届けられる金は上納金となり、怠け者を増長させた。そこにある歪みにより、組織を維持できなくなったから、援助を求めたが、利益を生み出す才覚の無さを指摘されたから、政治家に泣きついたのだ。そしてその礼が、役員としての分配であり、再び路頭に迷うことになる。

 悪循環がもたらす見えない落とし穴は、そこいら中に存在するから、民である民衆が巻き添えを被ることは必然である。

 家系譜を紐解けば、男の補充でやって来た、与太者にたどり着く。そして影に潜んだ家柄は、毛利を母体とする長州藩であり、台頭する島津藩も、一枚噛んでいて、高座の多くは、江戸幕府を追い込んだ猛者たちの末裔なのだ。

 家督という序列は、今現在も存在し、なにもしなくても流れて来る循環が存在し、流れに逆らう者を反逆者と豪語する家督は、法という規則から除外去れているから、罰を犯しても検挙去れることはない。

 うさぎが追い落としたいが、世界中を纏める影であり、上記の人間たちを纏めることは、躓きで見えそうになったが、その形跡を確認できないことから、環奈を補充してたどり着きたいのが、真相だった。先ずは馴染みのための小手先調べの謎解きだったから、時代背景に纏わる曰くを用いて、肩慣らしという分類であった。



     十


 楓花は

「こんな感じで、人間の管理を管轄する影にたどり着くための謎解きだけれど、やれそうな感じかな?」と、環奈に問いかけた。

「だいたいの流れから、実行犯が非社会的勢力や、輩という総称を持つ与太者なことは理解したよ。でもそこからの応用の仕方が、いまいち疑問を遺すね」

「アメリカを世界一にして本懐なのはイギリスだけでなく、フランスやドイツをはじめとする欧州の先進国です。それは、移民を派遣する際の意図が隠されているからで、管理不能の者を派遣したのか? それとも、先住民族との攻防戦を念頭に組織したのか? と繋がります。初代大統領がワシントンであることから、実権を握ったのはイギリスという見えるものからの想定でしかなく、スパルタ民族の末裔を犠牲にした感から、キリスト教徒の躍進が窺えます」

「その背景から導き出す曰くは、ユダヤ民族の誤算でしかなく、大統領候補の狙撃や、大統領の暗殺に結び付けても良い? のですか」

「ユダヤ民族は本来、誰もが手を出さなかった金融を宛がわれたから、慰問団だった経済の父が良いとこ取りしているわよ。その証明は、板垣退助が身代わりになりひと段落をみせているわよね」

「楓花の繋げかたは間違いではないですが、野蛮な北の民は、スパルタ民族の統率力を見習った節があり、陸地で繋がる不安を抱いた神々が、世界中に散らばった理由になりますから、狙撃だけみれば、手練れを使わなかった理由が、本筋となります」

「狙撃手を殺害するアメリカの法が傲慢だから、実力行使が当たり前なんじゃないかなぁ?」

「観ているものの違いは、土地柄を関係なく存在し、脅威としたものを聴かないと、判断は難しいです。ですが、高座に着きたい者たちは挙って主張を罷り通し存在感を高めます。その良し悪しは、視聴者にあることを弁えていないですよね」

「だから、大谷選手に固執したりしていますが、それが見苦しいから、テレビ離れしていることにも気付けないのでしょうね」

「通過点である標の価値観の違いが埋められなくしたものが、可能性の所有率? となりますよね」

 誰の意見か解らないのは、時代背景が発言者を擁護するからである。それが残るか? という観点で観てみると、想いに訊かないと判断できなくなる。そうなるとこれも、曰くという形で、判断を後世に委ねることになるはずで、真夏の陽射しが、『今年も暑い夏になる』と、ギラギラと照していた。

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