第4話 環奈を必要とした訳

     七


「そういうことなら」

 環奈の両親は、内心では『命の保証はない』と思っていたが、

「面影を遺す、お二人の熱意を受けて、遣らせてみよう」と、覚悟にも似た希望を抱いた。それが、ご先祖様から受け継いだ可能性と診るなら、遣らない後悔に固執していて、足元の悪さに繋がっていた。

 どこからくるか解らない得体の知れなさが不安を煽らなかったのは、国家機関という信用性があるからで、戦争を捨てた本当の理由を知らないからだった。

 国が体面を保つためにうそぶいていることは、影となった者に操られていることを隠し、利益というみえない枷を課していることだった。それが、国という括りになった理由なのだが、島国という閉鎖的空間の元をたどれば、神の所有する管轄エリアであった。

 友達が親友になるように、庄が壮に膨れあがり壮が州になるのは、系が郡に膨れあがり郡が団になる宇宙に沿っていると、神話に残っていて? 千が万になり万~億~兆になるという教育を施され、人間の概念がいびつに形成されている。その概念が、みたものを認識し観念に変えるのだが、みるという漢字が多いことから、伝承元である中華の人口は膨れあがった。それは争いの歴史を遺すことで暴力を肯定し、想いを蹂躙し続けてきたことを証明している。弱い市民の想いは安寧であり、男尊女卑を罷り通したのが結論となっていた。

 同じように、インダス文明がもたらした想いは繁栄への憧れであり、生まれたものが救心という信心となり、受け入れた者により後を追うように増え続けたのだ。折り合いがつかない者が離れたことを理由にすると、想いを受け入れられない者が分裂し諍いの火種となり、それを分断して国となった。勝手に線引きされたのだから、どっちつかずがいても可笑しくない。釈迦族の王子として実行して見せた、というのが、仏陀ぶったの真実であり、尊い行いとしたから、海を越えたのだ。思念で繋がることを生業としたから、経が呪文のように感じてしまい、魔除け・災い除けに引用されて、悪意の封印・お祓いに使用されることとなった。どちらも焚き火を必要とするが、燃やすことで炭となるから、体内から追い出した形で、眼に捉えることが重要だからである。

 カタやもう一方のマヤ文明が遺したものが高水準の科学で生まれた賜物ならば、その科学を教えた者が神となり、インド神話に顕れていても可笑しくない? と、うさぎが古の妙を解析したのだと、女子三人に説明した。

「だから、プロメテウス様なの?」

「幼少期の赤瞳わたしは、ギリシャ神話とインド神話を繋げることができませんでした」

「三妹さんが、ヘラだとすれば、ゼウスの妻だから、プロメテウスさんは目の敵だもんね」

「それを逆にみると、ゼウス=プロメテウスと、ヘラ=ヘスティアになり、ゼウスが実父を手に掛けたから、対峙する絶対神に踊り出れたのです」

「だから、火を人間に与えた? という理由付けたのにも理解に至れるし、ヘスティアさんから炉の女神という役を取り上げたことにも繋がるよね」

「そればかりか、他の神話との繋がりも見えてきます。だから、プロメテウスさんは、シバーというゼウスに見立てた者を破壊者とする反面、創造神としたのです」

「壊したなら、その責任を取り、造ってみろ! と、愚かな神に責任を宛がった訳なのか。そうなると、立場上並行してないと不味まずいもんね?」

「その隔たりを量子で造ったから、科学者でもたどり着けない頂きになりました。それが、境界線に曖昧が生じた背景です」

「でも、英国人の科学者が、その事に近づいちゃったよね?」

「キリスト様の恩恵と、気付きませんか?」

「とすると、父のプロメテウスさんの手引きになりますから、自然ですよね」

「だから、血の道に曰くが刻まれたんです。記憶に潜ませた理由にもなり、羊のメリーさんはちょっと、遣り過ぎた感はありますが、繋がります」

「遣り過ぎたのは、どうして?」

「夢の解釈に誤差が生じているにも拘わらず、実行されて終いました。その罪状は解りませんが、罰が新型コロナウイルスだから、中華が、英国に向けて開発したと報道されましたよね」

「抗生剤と云うべき特効薬を開発したのが、キリスト教徒の多い地域だったはずが、インドで大量生産した理由はどうなるの?」

「英国の植民地時代がそれを証明しますし、報道されて直ぐに作れる技術があることはある種、神憑っていますからね」

「日本もそれだけの技術力があったから? と、繋がるもんね」

「全世界で流行しましたから、関係のない方々の犠牲は、割に合わないでしょうが、キリスト様の信念も薄まった背景がありますから、命を見直すために起きた、とするならば、沸騰化時代に繋げて欲しいと視れますからね」

 楓花は納得したようで、数回頷いてから

「こんな感じで、図書館で得たものに対する疑問を消化しているんだよ」と、発した。

 うさぎが、扉が少し空いた部屋に眼をやると、瞳が片方だけ光っていた。

 ゆっくりと扉を開け、罰が悪そうに、環奈が姿を顕して

「ありがとう、楓花ちゃん」

「どういたしまして。これで楓花あたしも、サキのように、マルちゃんって呼べるからね」

「恩に感じてくれていたんだね、楓花でも?」

「当たり前でしょっ。助けて貰っただけで、何も返せなかったんだからね。出ておいでよ、サキ」

 といわれ、渋々ながら、サキも姿を顕した。

「実の娘と云うだけで、仝女なんだけどなぁ、赤瞳さん。もしかして、私にまるちゃんを押し付けたの?」

「幸せを知るために、好いてくれる方を向く必要があります。その方角を見失うから、誤解が生じ破局が生まれるんですよ」

「浮気を正当化するんですか?」

「人生と仝で、真っ直ぐだけの視野を保つことは不可能に近いです。大事なのは距離感で、その極意が、大和撫子なんですよ」

「貞淑? ってことなの」

「そう想われているようですよ、卑弥呼さん?」

 うさぎは云い、環奈の胸元に向かって気を発した。環奈の胸元に顕れたのは勾玉で、ウルトラマンのタイマーのように輝き出した。

 合わせるように、楓花とサキの胸元にも勾玉が顕れ、輝きと共に霧を発生させた。

「久しぶりね、赤瞳」

「次妹さん」

三妹あたしもいるわよ」

「可笑しいと、想ったんです。環奈さんの心に居座る神を探しても、形跡すら見抜けませんでした」

「人間が進化するように、神々も立ち止まってはいられない? ってことよ」

「よしなさい、次妹。それよりも、卑弥呼わたしが巫女の存在を知らしめたメガミよ」

次妹わたしが、神憑りを知らしめたメガミで、二番神」

三妹あたしが、赤瞳の教育係を努めたメガミで、三妹神サンバン

「不思議過ぎて声も出ませんよね? ひとつだけ確かなことは、環奈さんの夢に、境界線を失くした結果です」

「勾玉が光るうちは、詞は伝わるから安心して、マルちゃん」

「はい、でもまだ、地に足がついてないような感覚なんですが、それが正しい判断かどうかも解りません」

「初めは、そんなもんよ。勝ち気な楓花あたしでも、狐につままれた感覚だったわ」

「この経験を偽物にしないために、血に刻むのです。そして、神々は性懲りもなく、やって来ます」

「やって来る? それでも教えるつもりはないなんて、下道きわまりないよぉ」

「自分で終わりにしなければ、本当の解決になりません。それは赤瞳わたしにしてもおなじことです」

「だから、最期の最後は、自分で決めるのよ。大袈裟に云えば、宿命になると想うけど、それができないから後悔して、彷徨った挙げ句に怨念になるんじゃないかなぁ」

「ど~いうことよ、サキちゃん?」

「ご両親が認めたんだから、楓花のように、サキって呼べないと、腹を決めたことにもならないよ」

「解った。今後はサキと楓花って呼ぶことにするわよ」

楓花あたしもこれからは、空白を気にしないことにする。目指すべきしるしまで競争よ」

 楓花はそう云ったが、環奈にとって話しの流れで云った、から返事のようなものであった

 うさぎは、楓花の発言で勘違いして終っていた。

「心の空白を造り出したのは、プロメテウスさんで、女神さんたちに自由を提供したんでしょうね?」

「結果、そうなっただけで、初めから自由に降臨してたわよ」

「そうなんですか? 三妹神様」

三妹わたしが赤瞳の夢を操った時、イヴの日本盤が支配していたわ。赤瞳は近隣諸国に気を遣い、花子としただけで、次妹がそれを実行しているからね」

「それも繋がりといえるよね」

「人間が神に操られていたのが、いにしえの風習で解りますよね」

「そうは云っても赤瞳は、取り憑かれるから、表裏に据えたんじゃなかったかしら?」

「プロメテウスさんを隠したから、なにも云わなかった、ということだったのね?」

「良く出来ました、と云いたいところだけど、まだまだよ、楓花」

「?」

「女神様って、想いのほか性格悪いわねぇ」

「そういう貴女も、まだまだ修行が足りないわよ、サキ」

「?」

「サキさんの空白を利用した女神が、美の女神だったと、云うことですね」

「はてさて? それを見つけ出すために、日本神話でも読み直したらどうかしら?」

赤瞳わたしもまだまだと、云わないのですか?」

「?」

 三女神は、だんまりを決め込んでいた。余計な詮索をされて、あらぬ疑いを掛けられると面倒だからであった。



     八


「神様が顕れたってことは、悪い知らせなんだよね?」

 楓花は、経験を糧にして云い放った。

「結果次第ではないですかね」

 うさぎは淡々と答えたが

楓花あたしが視ている方向が違う? ってことなの」

「環奈さんはどうですか?」

環奈わたし?」

「ここまでに疑問は生じていませんか?」

「たぶん、ちょっとだけ解らないことが?」

「ねぇ、赤瞳さん。回り道せずに、担当直入に訊かない?」

「どういうことよ、サキ?」

「女神様が顕れる理由は、マルちゃんに、神々の理を吹き込んで良いのか? という確認だと想うの。話しの流れで、覚悟は決めたけれど、本当に未来を想像していたならば、勾玉との疎通を介する意識が変わり、光に強弱が現れるはずだからね?」

「それは齊藤ぼくも引っ掛かっていました」

「赤瞳さんの持つ神の眼が確認できないから、疑問があるのかを聴いたんじゃない?」

 サキの詞に促された、環奈の意思が変わり、うさぎが口を挟んだ。

「ご両親の心配は、先に存在が消滅するので、後を任して良いものか? ですから、強制できないことを悔やんでいるようです」

楓花あたしたちでは、安心できなかったということなの?」

「遺産なんてものは、バブルのように弾けちゃうから、輩の存在を感じているんじゃないかなぁ?」

「泡が弾けるのは、経済の父が隠したものを知らないからです。それは心配事と仝ですし、楽することを念頭にする者たちがこぞって集まり、一瞬で弾けたように消えるので、誰にも掴みきれないからです」

「運気? そんな時代もありましたよね」

「齊藤まるさんはまだ幼かったから、それを挫折感にしませんでしたが、好景気に浮かれて終った者たちは、蓄えを失くしただけでなく、生きる気力さえ同時に失くした者もいました。そのつけをぬぐうための努力を、初めから拒んだのでしょうね」

「振り出しに戻ることに、嫌気が差したってことよね?」

「借金した者もいましたので、帳消しにならない現実にうちひしがれたのでしょう。根本は、当たり前にした怠け癖が、毎月もらう給料から額を減らすことに、うちひしがれたのです。経済の仕組みでは、好景気の利息は高いですが、好景気=高収入という錯覚を起こし支払いに注意しなかったことが、元凶になったはずです」

「お金に羽が顕れた? と錯覚したのかも知れないね」

「銀行員は、毎年増刷去れる紙幣が重なり、世間にお金が増え続けると云い、併せるように資産を増やす行為を貯蓄として、誤差を生み出しました。その貯蓄を持たない方々に貸したお金を、ローンでの返済をさせますが、高額の元金に、利子と手数料が乗っても、支払回数で割ることで、少額になります。みえない枷になっていて、知らぬうちに填められている事実に気付きます」

「やっぱりここでも、隠されたものに騙されるんだよね」

赤瞳わたしたちが騙されるのは担当者に? ですが、上司という高座に居る者の給料を生み出すのですから、取り立てが厳しいのは理解できますよね」

「そこにあった時代背景が、非社会的勢力に恵みを与えたんですよね」

「本来、対極に位置する者が潤ったのが事実ですが、品物を低料金で仕入れる商社も、現地の方々に無理強いして、低価格にした商品をかき集めました。その結果、現地の方々は商品に取られたことで身を削る結果になりました」

「そのくせ、繁華街で出る残飯の量は世界一となり、西洋の貴族たちを見真似た豪華な出立ちに、庶民を嘲笑うような高飛車な振る舞いをしましたしね」

「仝にしたのは、学校でも視られました。朝礼に並ぶ生徒の華やかさもそうですし、高座に立つ職員の長い無駄話しに痺れを切らす生徒が続出したのも、世上の理って、だれかが云い始めましたよね」

「テレビの出演者が、未来という空想を下らなくし、ご意見番と云う肩書きは、庶民の努力を無下にしました。宣伝効果を謀るスポンサーが、高額の料金を支払うことでズレはますます開き、特質を持たない者たちが屯す姿が画面を通したことで○○族を積み出しました。それが百鬼夜行に見えた赤瞳わたしは、神の眼の錯覚と感じ、絶望感にうちひしがれたのを、昨日のことのように想い出せます」

「赤瞳さんだから、絶望感で済んだだけで、多くの犠牲者を出したんでしょうね」

「だから、用心を心掛ける? 環奈さんが必要なんです」

環奈わたしを必要なんですか?」

「私にも必要だし、赤瞳さんが目に入れても痛くない? 楓花にだって必要なはずよ」

「三人が必要だから、三女神が現れたんだと想います」

卑弥呼わたしたちは、自由に振る舞っているように云われがちですが、赤瞳が云う、見える怖さに蹂躙されてるわ」

「男神たちが傲慢を貫いていても、人間は諦めるけれど、責任の取り方に不慣れ過ぎて、なげやりに視られるわ。だから、人間の願いに関与しないし、欲の片棒を担ぐことを避けるのよ」

「だからでしょうね、期待を裏切ることも平然と行うのが、神々のようだと云われ、科学的に証明できないでいるのよ。本当に頭の良い者は、薄々気付いているようだけど、時空間の支配権は、時が握っていて、やり直しこそが、奇跡なのよ」

「転生? 流行りだけれど、欲にからみつかれた現在では、神憑りより難しいはずよ」

「赤瞳もそうだけれど、未来の彩りなんてものは所詮、自己満足の延長線上でしかないわ。大層な御託を並べたところで、実現するのは一握りなのよ」

「だから、お告げにしたって、誰も気にしないし、よた話し程度だから右から左に聴き流されるのよ」

「云い返してよ、赤瞳とうさん?」

 うさぎは、神々の本音を探っていて、返答返しをしないでいた。今必要なことは伝えていたし、各人が想いを重ねても、生じるものは諍いでしかないからだった。

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