第2話 経過を必要とする理由

     三


 息を入れるや、息が入るという用語を用いる機会に遭遇するが、急いた気持ちを抑えたりという、流れをもとに戻すことに使用するからである。それを、流れを止める? や、区切りを付ける場面に使用することもあり、受け取り方を相手に委ねるために使うこともある。

 どちらが正解とも云えないが、相手に委ねる変化は本来、主導権を譲ものであり、期待に沿わなくても、異論を唱えるべきではない。

 そういう些細な歪みから、別の顔が生まれるのだ。そしてそれを罷り通すために、傲慢に至るのだ。

 世代のれを身につまされる者の多くは、生育環境だけでなく、時代背景すらも紐解こうとしないからだ。些細な崩れがもたらす歪みが見えないのは当然だが、解ろうとしない姿勢が傲慢にしか見えないから拍車をかけるのだが、歪みが傷として遺ることで、総てが白日のもとに曝されるのだ。

 回避に必要なのは詞を交わすだけだが、それが異性となると、煩わしくなるようだ。そんな煩わしさの元凶が、見えない感情と選択ミスを嫌う想いなのは解っているものの、同性同士で慣れ親しんだ語句が出ることを誰もが知っている。

 想像が中心の物語では、一人称に拘ったり、想像から離れてでも、並びに拘る始末である。強弱は作者の感性であり、変更を求められても、応じられないときもある。それは天の邪鬼ではなく、見えない心の意識変更をしたくないからだ。

 だが、視聴率だ? 部数の確保のためだ? という欲にまみれた意識保持者の詞に蹂躙され、命の幕を閉じる者さえ出る始末になっていて、ダメ出しをする長は悪びれることもない。その風習が残る業界の浮き沈みは激しく、後継者も長続きしない。担当者という会社員は、会社に従うべきか? さえ見直さないから廃るのも当然だし、長を経験した者が、文学賞を受賞した試しがないのも当然だ。そこにあるものは自尊心だけで、傲慢の域の心地好さを裏付けし、強いては廃りの基になったのだ。

 登竜門などと云えば聴こえは良いが、受賞者のために用意された公募に、幾何の才知者が沈んだことか? その業界に蔓延はびこるものは悪意で、維新で日本が目指した未来は、夢にもならない想像に終わっている。その背景を造ったのは慰問という調査機関の始まりだが、取り入れただけなら、ここまで悪循環に落ちることもなく、国民を代表する調査団のひとりが、経済の父と云われ、思想の行き場をなくした国民の暮らしを支えるはずの政治に、不徳を産み出したことにも気付かない。

 妾の生活を安定させるための利益を必要とした経済は制度の網目も荒く、そこに居場所を求めた怠け者が集った以上、一般人を鴨にするための仕組みが隠されていて、正解などは必要ではなくなった。だから、検挙されることのない人間がいる。その言訳が、人間が未熟だから、法も完璧ではない? なんて、ことを口にする。

 目指すべき頂きは空想でしかなく、登頂を絵空事にして終った。そこに夢や希望も生まれるはずもなく、あるかのように連呼するメディアによって造り出された現実は蟻地獄であった。格差で造られた蟻地獄は、地上に近い点が富裕層になっていて、踏み外すと落ちる先が活火山口になっている。

 進む恐怖も去ることながら、落ちる恐怖も比較にならず、踏み出すことに足枷をつけ、探るための手にも枷はつけられた。

 そんな被害妄想を主軸とする一般人と、神を恐れない所業? をする輩なのだが、噛み合うことを悪事とした。それが机上の定義だと、楓花の父が教えたのだった。変更に必要なのが、同じ愛称を持つ、齊藤まるであり、循環と円満を重ねた結果に必要不可欠と繋げたのだった。


 環奈はそんな魑魅魍魎たちの巣くう現代社会の怖さを知り、両親が防御壁になっていることも重ねて知った。


「だから、円満の象徴となれることは天命なの。誰にでもあるチャンスは別物? なのは解るよね、環奈さん」

 楓花の詞が重石おもしになり、自身の居場所を見つけた気がした環奈は飲み込まず、それを記憶に刻み付けようと考えていた。

 太陽の見えない部屋に居ることを忘れ、迫り来る後光は、自らが発したものであるような錯覚を利用し、女神の意思が人間の心に宿ったのである。それが、何事か知り得ないから、循環する血潮が騒いでいる? という感覚に溺れていた。

 傍に居る三名にしても、宿る女神を引き出せない以上、伝えるべきか迷いあぐねていた。



     四


「楓花ちゃんが強くなれたのは、実父から教わった背景であることは、理解したつもり。だけどそれを鵜呑みにしたところで、実父が受けた爪弾きを再現するだけじゃないかなあ」

 環奈は敢えて踏み込んだ発言をし、方向性を間違う自身の糧にしようと考えていた。

「それを避けるために赤瞳さんは、楓花ちゃんの可能性を口にしないらしいよ」

「まるちゃんはそれを、赤瞳とうさんから訊いたの?」

「! しまった」

「訊いた? としたら、出勤すると嘘をついた後に、連絡を取ったことになるよ」

「それはないわね。だって楓花あたしとサキがいて、スマホを持っていれば、それを問いただすからね。ねぇサキ。まるちゃんの前から姿を消す空白はなかったの?」

「トイレやお風呂の時間が、あったはず。まるさんが、元警察官だったと云ったから、その手の空白は身についてるはずよね?」

 環奈の記憶力を知らない齊藤まるが、挙動不審に陥り、眼が泳いだ。

「図星みたいだね」

「ちゃんと説明しなさいよ、まるちゃん」

 サキの眼力に気圧けおされ

齊藤ぼくは、赤瞳さんに、明日は休暇を取り、連絡するまで身を隠して下さい、と云われました。だから、突発的な用事と考えて、サキさんがお風呂に入った時に、確認を入れたんです」と、打ち明けた。

「そういえば昨夜の赤瞳とうさんは、眼がショボショボするから就寝するって云って、早々に自室へ逃げ込んだわ」

「なんて云われたの?」

「神の部首? の基を呑まされたことを教えられ、関知しないと云われました」

「そんな話題をしていたの、楓花ちゃん?」

楓花あたし自身、夢かうつつか解らないんだけど、虫さんとは違う何かが居るような? 妙な錯覚があるわ。それが感性様に呑まされたものが原因とは想わなかった」

「赤瞳さんもおなじものを、過去に呑んでいるそうです」

「だから、確認するために、世論なんて話題を持ち出したのね」

「赤瞳さんはいつも、藪から棒に話題を持ち込むよね。だけどそれは、関連性に添って切り出されているようだよ」

「だから、藪から棒なんでしょっ。それでその棒はなに?」

「それは、楓花ちゃんに訊かないと?」

「編集者のせいで、尊い命が消える? だった」

「それは私たちの前でも話して居るわ。二世三世と代を重ねると、盛者必衰の理を生むのよね」

「教育の落とし穴だから、モンスターハラスメントは必然なんだって云うわ。それで失ったものがなさけだから、風情がなくなったみたい」

かすかに覚えてる記憶に風鈴があるけど、関係ないよね?」

 齊藤まるの戯言たわごとに、楓花が眼を点にした。

「楓花はお母様から、風の子なんだから、って、よく云われてたよね?」

「本来なら、風の子の子供? だよね」

「高橋さんが、そう云ってた? わね」

「血の道に添えば、そうなるからね。ならば、楓花の部首は、眼の継続になるのが宿命なはずだろうけど、仝なら関知しないとは云わないよね?」

「楓花ちゃんは、お父様の意思を継続したいの?」

「まさかぁ。それは無理って解っているから、あり得ない。だけど、違う形で遺したいと想っているから、模索中なのよ」

「随分、潮らしくなったわね、楓花」

「学習で覚えたことは、無駄な争いよ。赤瞳とうさんに云わせると、争いの始まりがあやふやだからだって云うわ。宗教があやふやだから、始まりに気付けないらしいよ」

「高橋さんが、宗教戦争から殺人に変わり、命に危険がつきまとうようになった。と云った時に、欲が上乗せになったからって、赤瞳さんが嗜めたんだよ」

「それって、おかしいよね。だって宗教は、魂を天国に導く手段であって、殺人の手段にならないからね」

「環奈ちゃんの云う通り。でもそれは、仏教の教えであって、キリスト教では、安らかな眠りを祈に変えているわ。理由として、遺された者のするべき事として繋げ続けている」

「それでも、キリスト教が日の本の國を目指した理由として、神々の主張に折り合いを付け、共存を促すことを進言するため。その役割を、赤瞳とうさんが取り持ったから、萎縮しないと云ったのよ」

「傲慢に取らなかった理由として、それぞれの立場を理解し、長短を説いたわ」

「だから、六弟さんの反論を革命として、息吹きの必要性と繋げたよね」

「卑弥呼さんだけでなく、引き裂けない恋仲を教えるために、文明の始まりを引用したから、受け入れずには要られなくなったようだしね」

「同一化に、なにを使ったの?」

「恐竜さ。齊藤ぼくには繋げられなかったけど、帝国大学の出身者には、理解できたみたい」

「それは、帝国大学の出身者ではなく、科学者だったからでしょっ」

「どうして? サキさん」

「楓花も理解したからよ」

「なら齊藤ぼくにも理解できるはずだよね?」

「図書館に、毎日通えるなら? だけどね」

「だから今の、楓花が無敵なのよ」

 サキは、環奈に教えてるように云っていた。

 環奈は自分の境遇と重ねたが、折り合うはずもなく、息は消沈していた。

 視かねたサキが、

「やっぱり本家本元に訊いてみようか?」

「それは最終手段よ。赤瞳とうさんに訊いたって、誘導されるわけないからね」

「最期の最後は、自身の決断! と云うはずだもんね。でも、私たちよりも決めやすい選択肢を提示するんじゃないかな?」

「ねぇ、環奈さん。一秒いっこくも早く決断したい?」

「縋る想いなのは確かだけど、まだ余裕ができた」

「楓花が立ち直った姿が視れたからだね」

「そうね。だけどそれだけじゃなく、こうやって相談に乗ってくれる親友と再会できたからもあるよ」

「大丈夫。赤瞳さんは、純真な心を持ってさえいれば、力になってくれるからね」

「だから明日もうちに来てよ。ズル休みしたまるちゃんは居ないけれど、私はいつでもいるからね」と云って、席を立った。

「親友が居るんだから、齊藤ぼくが、煎れるよ」と、齊藤まるが変わってお茶をいれに部屋を出ていった。

 環奈は、楓花の手を取り、

「想い出と同じで、小さくなったね」といって涙を溢していた。

「消えない代わりに、若気の勲章にするつもりなんだぁ」

 楓花の囁きに

「奴らを止められなくて、ごめんね」

 環奈がやっとの思いで詫びていた。

「これが運命の醍醐味だから、気にしないで」

 楓花に感情が伝播して、大粒の涙が零れ落ちた。

「親友だからこそ、終わったことに終止符を打てたんだよね」と、サキも ! もらい泣きしていた。

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