第12話 我が家


神殿の本殿の中を進めば、見慣れた白い空間が続くが、その白はどこか温かみがあるのよね。そしてその白い空間を通り、そのまま祈りの間に向かう。

そこで祈りを捧げ終われば、ふと、ルディを見やる。

私が視線を向ければ、ルディもそっと瞼を上げてくれるが、そのポーズはお祈りのポーズではなく、騎士が主に捧げる忠義の礼のようである。


「報告は終わったか」

「うん、ちゃんとただいま戻りましたと伝えたわ」

現在裁神さまは姿を顕現なされないけれど、祭壇に祈りを捧げれば、その主の神に届くと言われている。


「少し、座るか」

ルディが示した方向には、礼拝堂の椅子が並んでいる。

「うん」

ここに来たのも久しぶりだからか、私も少しここの空気に触れていたい。礼拝堂と言うのは、どこかそんな気にさせるのよね……。


「……裁神さまが邪神と見なされた理由を、知っているか」

この静謐な空気を崩さないように、ルディがそっと口を開く。

「えぇと……女神の都合のいいように世界を回すため……かしら」

裁神さまの力を削げば、女神はいつだって自分の思い通りにことを進められるのだ。

アンジュひとりのために何度もループを繰り返しても、私を無実の罪で処刑しても、それを正義とできるから、


「それもある……が、きっかけは俺なんだ」

「ルディ……?」


「そ。俺は昔、神々にまで歯向かってやんちゃしたからさ。多くの神々は自分の命が惜しくて、俺を消滅させるべきだと説いた。けれど裁神さまだけは、その罰は重すぎ、公正ではないと、情状酌量を説いた」

自分たちの命が惜しいからって、自分たちを壊せる力を持つ神を消滅させようとするなんて……。

安易にそれをしないために、創世神がルディにひとの心を育てさせたのに。

私も、裁神さまの判断には賛成だ。


「そして、裁神さまの言葉は判決となり、俺に適用された。裁神さまの下した判決は裁神として絶対的な力を放つから、誰もその意見に反対できなかった。それを……女神は利用しようと思ったが、裁神さまは頑として首を縦には振らなかった」

そりゃぁ、司法神が好き勝手に判決を決めたら大変なことになる。女神はそんた大切な倫理観よりも自分の欲を優先したのだ。


「当時力を持っていた女神は、地上で裁神さまが邪神であると言う教えを説き、自分が告げることこそが正義だと説き、裁神さまを邪神としたんだ」

「自分の思い通りにいかなかったからってそんなこと……ひどすぎるわよ」

「そうだな。創世神も女神が勝手に司法神を語ったことには怒り、女神も表立って司法神の真似をすることはなくなった」

「それで裁神さまはどうなさったの?」

「裁神さまは、自分の司法を強制はしなかったよ。何を信じるかは個々の自由だと」

あの方らしいわね。


「だからかな……俺があの方が邪神となるきっかけを作ってしまったから……」

「罪滅ぼしってこと……?」

「それも……あるかもしれない。いや、多分最初はそうだったんだろう。でも、俺にとっても女神一強の世界は、居心地が悪くて、どちらにせよ俺がいる場所はここにしかなかった」

もしかしてとは思うけど、裁神さまはそのために自身が邪神と呼ばれても構わないとしたのだろうか。

そして自身がルディにとっての最大の防波堤だから、ルディが凶行に走らないように、抑える立場についたとしたら……。


「でも、ここにレティシエラも来てくれたから」

何だかんだで居着いてしまったものね。


「俺も所詮は……半分がひとだから」

裁神さまの周りには眷属神もいるが、ひとではない。ひと寂しくなってしまう理由も……分からなくはないわね。


「レティシエラも、ひと寂しくなってしまうかもしれない」

「あなたがいるじゃない」

それに外は……衝撃的なことが多すぎて、今さら出たいとは思わなくなってしまった。

けど、ここにはルディがいる。


「レティシエラは、ずっとここにいてくれる?」

「もちろんよ。私もここにいたいわ」

「良かった……レティシエラ、2人で……ずっと一緒にいようね」

「いいわよ」

ルディと一緒なら、私も生きていけると思うから。

裁神さまによって残された、最後のチャンスを生き延びたいのだ。


「レティシエラ」

ルディが腕を回し、私を抱き寄せて来る。いつの間にかこの場所が心地よい……そう、感じているのだ。

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