第7話 突然、風が吹いた

 退院前日もいつも通りの時間が過ぎた。病院で食べる最後の夕食も終え、ボクは世谷おばあちゃんとの会話を思い返していた。

 いろいろ考えて、おばあちゃんは家族のために説得を受け入れないんだと思った。自分のためじゃなく、家族のために生きているんだと思いついて、おばあちゃんに確かめに行った。この考えに自信があった。

 でもおばあちゃんに違うといわれた。おばあちゃんは死ぬのが怖いだけだといった。なんか単純すぎて拍子抜けした。人って、どんなに長生きしても怖いものはなくならないのかな。

 ボクの怖いものは何だろう。怖いもの……そこまで考えて、現実を思い出した。そうだ、中間テストが来週に控えているんだ! 少しくらい勉強しておけばよかった。

 ボクは慌てて学校のプリントを手に取った。とりあずこのプリントに目を通しておこう それからしばらくのあいだ、ベッドにプリントを広げて現実を見つめる作業に没頭した。

 学級通信には、これから合唱コンクールがあること、部活では夏の中体連に向けてレギュラー選抜戦が行われることなどが書かれていた。いつも通りの日常が、またボクを待ちかまえている。


 それからしばらくして、病室で不思議なでき事が起こった。それは夜の灯時間が近づいているとき、病院内が静かになるころだった。

 ガタン、バサバサッ! 

 突然、病室に突風が吹いた。天井の蛍光灯がチカチカと点滅し、窓側から廊下に向かって勢いよく風が吹き、ボクのベッドの上のプリントを巻き上げ、隣のお兄さんの点滴台が倒れた。廊下側のおじさんたちはテーブルの上のコップや、新聞が吹き飛ばされる。

 うわっ。なんだ? 病室内のあちこちで驚きの声が上がる。

 チカチカッ、チカチカッ。パチン。

 数秒蛍光灯が点滅すると、蛍光灯は何事もなかったかのように点滅がおさまった。

 しばらくは誰も声を出せず静まり返る。

 「何だったんだ? お、おい大丈夫か?」

 ようやく、向かいのベッドのおじさんが声を出し、お兄さんの倒れた点滴台を起こしに動く。

 ボクもあわてて病室内に散乱したプリントを拾い始める。

 「どうしました? あら、なーに? 誰か暴れた?」

 ようやく看護師さんがかけつけ、いつもの空気が病室内に戻る。

 「コウモリだよ、いまコウモリが入ってきたんだよ!」

 誰かいう。

 「やだ、コウモリ? コウモリなんかいませんよ!」

 「いや、コウモリだって。すごい勢いで窓から入って来たんだよ! ボウズ、窓開けていたんだろう?」

 思いもかけず、ボクに責任が飛び火する。というか、コウモリなんて見なかったけど。

 「えっ、いやっ。窓なんて開けてないけど……」

 おじさんの勢いに押されて、ボクの反論はかき消された。

 結局、ボクが看護師さんに窓は開けないようにと注意されてその場は終わってしまった。窓なんて開けていないし、コウモリなんて入ってこなかったのに……。釈然としないまま、消灯時間をむかえた。とんだ入院生活最終日だった。



その夜、ボクは夢を見た。

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