第15話 これから向かう先に
「見えたな。到着までは――、後三十分と少しだ」
空賊との戦闘後、敵船からの
約八時間飛び続け、時は既に夕刻。
飛行船の先端部分の大きな窓から外を眺めていた一葉にも、ようやく何かが見えてきたところだ。
強い西日の方向、地平線の彼方にぼんやりと建造物らしきものがある。
「おー、見えた見えた! どんな所かなー。楽しみー。ねー、シオン」
一葉の隣で目をキラキラと輝かせ、自身の肩に乗せたシオンに話しかける緋色。
対してシオンは何も返さず、ただまっすぐと前を見つめたいるだけなのだが、それでも構わないのか、一方的にあれやこれやと話しかけ続けている。
(旧ユーセロイ、だっけ)
ルーガから教わった、現在向かっている場所の名前とその情報を、一葉は頭の中で反芻する。
旧ユーセロイ。そこはかつてはこの辺りの交易の中心として栄えていた大きな都市だったという。
過去には多種多様な種族と交易品で溢れかえっていたその場所は、現在は人が住んでいない。
長い間繁栄を続けていたその都市の終わりは、ある時唐突に訪れたらしい。
ソレが起きたのは約二百年前。襲来した巨大な〝
その際、都市の崩壊を憂いた当時の魔法使いが、苦肉の策として都市を丸ごと封印して守ったとか。
その封印の力により以降、その都市は何物も寄せ付ける事がない強固な力に守られ、〝
「あれ? 三和切君、なんか暗くない? 楽しみじゃないの?」
シオンと楽し気に会話をしてた緋色が、こちらの顔を覗き込んでくる。
どうやら考えていたことが顔に出ていたようだ。
「いや、旧ユーセロイってなんだか悲しい所だなって思って」
「うーん、確かに。『〝
そう、旧ユーセロイは封印により守られた。
しかし、同時にその力の影響でその都市で暮らすことは不可能となり、結局は見捨てられることになったらしい。
それも当然。その封印によって〝
そんな場所は都市として機能するわけもなく、放棄するしかなかったのだろう。
「うん。守れたことは良かったことなんだろうけど、そんなに守りたかった所に入れなくなるなんて、僕だったらな、と思って」
封印を行ったという魔法使いの狙い通りなのか、それとも予想外だったのか。
いずれにせよ守りたかったはずの都市が自分の力によって失われてしまうというのは、なんとも侘しい結果だと一葉は思う。
「でも、楽しみではあるよ。だって、今は入れるようになって、そして不思議な事が起こるって書いてあったし」
だが、都市を守り続けたその力も二百年という年月で綻びが生じたらしい。封印は次第に弱まり、近頃では中に入ることはできるようになったとの事だ。
しかし、それでも強力な魔法の名残なのか、現在旧ユーセロイではおかしな事象が起きることが報告されていた。
「そう! 一日が繰り返すって、どんな感じなのかなぁ?」
一葉の疑問を、緋色が口にする。
『一日が繰り返す』
『その街では日の入りと共に、一日がリセットされる』
宙に浮くスクリーンに映し出された旧ユーセロイの情報には、調査を行った人物たちのコメントが、そう記されていた。
「ねー、ルーさんはどう思う?」
「さあな。今も調査しているやつはいるらしいが、上手く進んでないのかあいつらもその事象については有益な情報を持ってなかった」
「そっかー。じゃあ、いつも情報貰ってる、あの――」
「情報屋もこれ以上の情報は持ち合わせていないそうだ」
ルーガが肩をすくめて言う。
今一葉が読んでいる情報は空賊たちから得た物だった。どんな仕組みなのか一葉には理解が出来なかったが、墜落した船から情報が記録された機械を丸ごと持ってきて、アルキメデスに解析させたらしい。
ちなみに文字は日本語ではないのだが、何故か一葉には完璧な日本語として読めている。
最初は気が付かなかったがよくよく考えれば日本語が普通に通じていたのだ。文字がなぜか読めるこの現象も、
「不安要素には違いないが、あいつらも害はなかったと言っていた。それに、都市一つを二百年以上も封印し続けたんだ。十中八九、強力な魔法具の類か何かが残されている。その影響だろう」
都市の封印を可能とした何か。
どんなものであれそれなりの価値になるのは間違いがないらしく、可能であれば入手することが現在の行動指針となっていた。
「他にも狙っている奴はいるだろうが、その場所まで把握してるのは少ないだろう。思わぬ報酬だったな」
何故、旧ユーセロイの情報を彼らが持っていたのか。ミサが術中に落とした空賊や、ルーガに脅された別の空賊たちはその理由を次のように語ったらしい。
彼らは都市に眠る宝を狙っていた。そして、その隠された場所まで明らかにした。だが、その場所はまだ封印が残っており、中に入ることは叶わなかった。封印を破る術を見つけるため、一旦出直しとした所で夜空に煌々と輝く謎の光の玉を見つけたのだそうだ。
これらの話を引き出した結果、今朝空賊たちと戦った場所と旧ユーセロイはさほど離れていなかったこともあり、とりあえず行ってみよう、となったのだった。
「ま、なんにせよせっかく情報が入ったんだ。十分行ってみる価値はあるだろう。手に入らなくても大した損はない。……もしかしたら、お前らが元の世界に帰る手助けになるかもしれんし、使い道のない何かでも、金にはなるだろう」
封印に関する何かだから望みは薄いがな、とルーガは小さな声でそう付け足した。
「もうすぐ着く。出る準備を。ヒイロはミサを起こしてきてくれ」
「はーい。じゃ、三和切君、シオンよろしく」
ポン、と左手にシオンが置かれる。
とっさのことで反応が鈍くなっていた一葉をしり目に、シオンは自分でぴょん、と跳ぶとそこが自分の定位置だと自分で胸ポケットに収まった。
一葉はその一連の動作を他人事のようにボンヤリと見終えた後、
「あると、いいなぁ……」
誰にも聞こえぬよう、ボソリと呟いた。
(あと三十分……。中に入ったらどうなるんだろう)
あまり期待するな、と言われたことは分かっている。
それでも僅かに生まれた感情。
一葉は淡い期待を胸に、少しずつ近づく廃都市を眺め続けた。
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