4-2
深夜0時。
鬼々はみのるの家から遠く離れた繁華街へと足を運んでいた。
「兄さんお待たせ」
「遅い」
ごめんってば、と謝るのは鬼々の弟である来夢だ。
血は繋がっていないが、お互い父親の血を貰った義理の兄弟である。
こんな時間に二人がこんなところにいるのには理由があった。
「今日はこの辺りか」
「あぁ、わしらをおびき寄せるかのようにだんだん匂いが強くなっておる」
「だね」
この”匂い”というのは父親である蓮華という男の放つ"血の香り"の事だ。
一週間前、突如匂いを感じ取った二人は、こうして深夜に父親を探す日々を送っていた。
「それよりもこの事は言っておらんだろうな?」
「言ってないよ」
(ごめんね兄さん、宝には言ってるよ)
来夢は心の中で鬼々に謝罪した。
何故二人がこうして互いの恋人(宝は妻になるが)に内緒で、父親を探しているのか。
父親の匂いを感じ取った翌日、鬼々は来夢を呼び出した。
『アレがみのるに近づくのを防ぎたい』
そう言い出したのは鬼々だった。
来夢としても、宝に近づいて欲しいとは思っていない。
というのも、父は人間が嫌いだからだ。
人間はただの餌、それ以上でも以下でも無い、情を持つなという父の教えを丸っきり受け継いだ鬼々は、みのるに出会うまで、いや出会ってもずっとそんな態度だった。
そんな父が、もし自分達が人間と暮らし、恋愛関係まで発展していると知れば、すぐに殺しに来るだろう。
鬼々はそれを阻止したいと言うのだ。
『兄さん、気持ちは分かるけどさ、俺たちで父さんに適うかな』
『…まあ、来夢がそう言いたいのは分かる。正直わしもあの男に適うとは思っておらん』
『じゃあどうすんのさ』
父である蓮華は強い。
一度力合わせをしたいと蓮華に頼まれた2人だったが、全く歯がたたなかった。
自称最強と名乗る蓮華だ、相手が何者であろうと力でねじ伏せられるだろうし、自分達が刃向かったとしても、何の躊躇いもなくやられる事は容易に想像出来る。
『ここから出ていくように言うだけじゃ』
『あのねぇ…それでどうにかなると思ってんの?』
『やってみなければ分からんじゃろ。それとも貴様は宝が殺されても良いと?』
『いい訳ないじゃん!』
当たり前だ。
最近結婚して幸せ絶頂期だと言うのに、そんな事許せる訳もない。
『これから毎日、夜…そうじゃな12時前後から日が昇る前まではあやつを探す。もちろん二人には言うなよ?』
『言うなって…ちょっと無理が……』
『今日はそれだけじゃ、また明日』
唖然とする来夢を他所に、鬼々は去っていった。
『嘘でしょ……』
それから更に一週間と少しが過ぎたが、相変わらず蓮華が見つかる気配はない。
しかし先程鬼々が言ったように、少しずつ匂いが強くなってきている。
恐らく自分から居場所を分かるようにしているのだろうが、何故か姿を現さない。
「いい加減姿を現せばよいものを……」
「なんか企んでたりして……」
「何か、じゃと?」
鬼々が来夢をギロッと睨みつける。
(おーこわ。何だかんだみのるのこと大事に思ってるからこういうことできるの、気づいてなのかな。自覚あるなら言えばいいのにな)
言えばきっと鬼々にボコボコにされる未来が見えるので、口にはしない。
「ほらあの人、人間嫌いだし、みのるに何かあったら……」
その一言を発した瞬間、鬼々はハッとした。
完全にその可能性があるという事を忘れていたからだ。
「おわっ!」
来夢の腕を掴み瞬間移動し、みのるの家へと向かった。
「みのる!」
鬼々がみのるを呼ぶが、反応はない。
まさか、と二人に嫌な予感がよぎる。
なぜならここにあるはずの無い、みのると鬼々以外の匂いがしたからだ。
「おいみのる!どこじゃみのる!」
寝室も風呂もトイレも、更には押し入れも全て探してもみのるの姿はない。
「みのる、みのる………!」
鬼々の不安は募っていくばかりだった。
「兄さん、落ち着いて……」
「落ち着いていられるか!!」
その時だった。
玄関の扉が開いた音がして、二人は警戒態勢に入る。
「二人共どうしたの?」
そこには片手にコンビニのレジ袋を持ったみのるが立っていた。
みのるが無事だったことへの安心と勝手に(?)いなくなっていた怒りで、鬼々はみのるに詰め寄った。
「貴様どこに行っておった!?」
「えっ?いや、甘いものが食べたくてコンビニに行ってただけだけど……?」
「はぁ…貴様という奴は……ところでみのる、この部屋に誰か来たか?」
唖然としているみのると違い、二人はごくりと息を飲む。
「誰も来てないけど?何で?」
その回答に二人はほっとした。
「いや、なんでもない。まあこれで決まりじゃ。みのる、わしは暫くの間お主と共に行動する」
「はい?」
「何度も言わせるな。返事は、はい以外受け付けんぞ」
強引な、とみのるは思ったが、鬼々に何を聞いても答えないのは分かっていた。
「…ハイ、ワカリマシタ……」
と答えるしかなかった。
(相変わらずみのるは大変だなぁ、かわいそ)
来夢はまるで他人事のように二人のやり取りを眺めていた。
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