3-10
時は少し遡る。
飢えた獣状態の鬼々の体力を消耗させる為、来夢は鬼々から逃げ回っていた。
少し動きが鈍ってきていたをところで、鬼々に声を掛ける。
「兄さん本当にほんとーーーに、みのるの事覚えてないの?」
「知らん、そもそもお主は何者じゃ」
「なんか悲しいな。俺、二人が仲良しなの見るのが好きだったのに」
(即答かよ…あいつら俺の事まで忘れさせやがって)
鬼々のわがままを受け止めるみのる、という絵面を外から眺めるのが好きだった。
鬼々が恋愛事で酷く傷ついているのを来夢は知っているから、他人に心を開く日が来るとは思っていなかった。
でも、みのるは違った。
どんなにワガママを言っても何をしても、みのるは鬼々を受け止めてくれていた。
だから、ずっとこんな日が続けばいいなと思っていたのに。
なのになぜ、こんな事に。
「わしは知らぬ相手に心を開きはせん」
「知ってるよ、知ってるからこそ……嫌なんじゃん、バカ兄貴」
言いながら、涙で目が滲む。
「わしに弟がいるという記憶はないが?」
「知らない!俺は現にバカ兄貴の弟なの!!バカバカバカ!!」
こんなに感情的になるのは久々、いや草間の時以来だ。
でもこれはまた違う感情で、長年兄弟としてやってきたのに忘れられているという怒りと悲しみだ。
「あいつらまじで許さない。あとまんまと洗脳されてるバカ兄貴も絶対何とかしてやる」
「何者かは知らんが、出来るものならやってみろ」
「やってやるよ、バカ兄貴」
来夢の指先からポタポタと血が滴る。
「【血術(けつじゅつ)・拘束】」
来夢の血が、まるで自我を持っているかのように鬼々を襲う。
鬼々が避けても尚、血は鬼々を追い続ける。
「なかなかやるな」
「どうも。でも今日は本当に容赦しないから」
(だって兄さんはほとんど血を飲めてない。体は小さくなってないけど、あの女の血を飲んでやっと動けてるような感じだし。勝機はある)
来夢のソレは、触手のように地面からも伸びてくる。
(クソ、血が、血が足りん)
先程美沙から貰った血だけでは、あの男の技を避けるのに精一杯だった。
血を使うにしても、ここえで使ってしまえば二人に何かあった時に対応が出来ない。
だが今ここで捕まってしまえばそれも出来なくなる。
(どうすれば…)
鬼々は必死に頭を働かせるが、血が足りないせいか頭も回らなくなってきた。
ならば、自分の命を使っても二人を守る、そう決断した時だった。
「考え事してたらだめだよ」
「なっ!?」
「捕まえた~」
「クソ、離せッ!」
「離せって言われて離すバカはいないよ。【血術・縛血(ばっけつ)】」
触手によって鬼々が血を吸われる。
「──ッ!あ゛あ゛ーーッ!!」
「あんな女の血なんて入れたくないんだけどね」
その血は来夢の中に入っていく。
(まずい、もう、力が…)
その時だった、銃声と富山の叫び声が聞こえたのは。
鬼々の頭と体は富山を守るということにしか働かなかった。
「【血術・脱血(だっけつ)】」
自身の血を使い、自身がどのような場に居ても脱出できる術だ。
「え、嘘!?まだ使えんの!?」
(クソ!油断した!)
来夢は必死に鬼々を追いかけたが――。
***
血術を使い、弾を自身で受けた鬼々に、もう体力はない。
(ここで死ぬのか…しかし、十分生きた)
もう、自分はここまでだ。
そう思った時、どこからか声が聞こえた。
知らないはずなのに、懐かしくそして愛おしく感じる声が。
(誰じゃ、わしはこの声を知っている……)
「……!鬼々さん!!」
「………」
「鬼々さん、鬼々さん!!あぁ、血が……鬼々さん、俺の血を飲んで」
「血………」
血、という言葉にかすかに体が反応する。
だが差し出された首筋を噛める程の力はない。
すると目の前の人間が腕を切り、鬼々の口に直接血を飲ませてきた。
(血が……久しぶりの、血………)
だが自分の流血の方が飲んでいる血の量よりも多く、力が戻らない。
「大丈夫、大丈夫だから。来夢くん!流血、なんとかならないかな?」
「余裕余裕、任せて」
先程来夢が鬼々から吸い取った血を流血箇所に宛てがい、流血を止める。
「これで何とかなるかな」
「来夢くんありがとう!鬼々さん、口、もうちょっと近づけられる?」
鬼々がこくりと小さく頷く。
そして、みのるからの血を必死に飲み込む。
その最中に、宝の怒号が聞こえた。
しかし鬼々はそれどころではなかった。
(血が、血が……わしはこの血の味を、知っている……)
何かが鬼々の記憶を阻害している。
しかし血が体に入って来たことにより、頭も鮮明に、閉じかけていた瞼も少し開くようになってきた。
(この、顔は……)
「みの、る……?」
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