3-9
みのるが目を覚ますと、外からパン!パン!と何かの音が聞こえた。
体を起こし外を見る。
「……!鬼々さん!!」
外には血まみれで倒れている鬼々の姿があった。
「みのる、だめです!外に出ては…!」
「ごめん兄さん!でも鬼々さんが…!」
宝の制止を振り切り外に出る。
裸足なのも気にせずとにかく鬼々の元へ向かった。
「本当に人間とは醜い」
草間は富山が取った行動に呆れていた。
銃声が鳴ったと同時に富山が鬼々へ【俺を守れ!】と指示を出し、洗脳下にある状態の鬼々はそれに従い、富山を守ったのだ。
「あらまあ、大丈夫ですか、吸血鬼さん」
「──ッ、う゛ッ、は、ぁ……ッ」
弾を受けた箇所からばたばたと血が流れる。
「や、やだ、鬼々さん、鬼々さぁん!ちょっとお兄ちゃん何してくれてんのよぉ!?てかアンタも何してくれてんのよぉ!!」
草間が無慈悲に弾を打つ。
それはまたも美沙を守ろうとする鬼々の左足に命中した。
「逃、げろ……美沙……ッ」
血を流しながらも美沙に避難しろと命令する。
「でもぉ……!」
「い、から……」
血を流しすぎて、鬼々の体は限界を迎えていた。
立つことが難しくなり、地面に膝をつく。
「はっ、は、……」
(まずい、このままではわしの体力が持たん……血、血が………)
意識が朦朧としてきた。
もう一発食らえば、死ぬ。
そう覚悟した、その時。
「鬼々さん!!」
どこかから、鬼々を呼ぶ声が聞こえた。
「鬼々さん、鬼々さん!!あぁ、血が……鬼々さん、俺の血を飲んで」
みのるが鬼々に首を差し出す。
「血……」
「ちょ、アンタ何よ…!」
「黙ってろ!!」
みのるの怒号が響き、その場にいた全員が固まる。
「鬼々さん、ここ、ここから飲んで、飲めますか?」
みのるが鬼々の口に首筋を当てる。
鬼々は軽く歯で首筋を噛もうとするが、噛む力もないようだった。
(何か、俺の血が出せるもの……)
みのるがそう考えていると、後ろから腕を切られる。
「痛ッ…」
後ろを振り返ると、草間がニコニコ笑っていた。
「これで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。鬼々さん、口開けて」
鬼々は精一杯の力で口を開ける。
みのるの傷口から血が溢れ出てくると、鬼々はそれを必死に飲み込んでいた。
その光景を見て、美沙が引いている。
「な、何よあれ……気持ち悪い………」
「あれが吸血鬼と共に生きていくって事だよ、わかる?」
来夢が美沙に問いかける。
「ひっ!」
「アンタが好きになった相手は吸血鬼なの。だから少し血を吸われて痛いだの怖いだの言ってたらやってけないよ、諦めな」
「な、何よアイツ!美沙のこと騙してたってこと!?ふざけないでよ!!」
「騙してた…?」
来夢が美沙に詰め寄る。
「ふざけんなよ!お前らが何したか分かってんのか!?」
「ちょ、痛い、痛いぃ!お兄ちゃん!助けてぇ!」
美沙は兄に助けを求める手を伸ばすが、それを草間が阻止する。
「直ぐに人を頼る癖を治しなさい、お嬢さん」
「何で、何でよぉ、美沙、悪くない!何も悪くないのにぃ…!」
美沙は尚自分は悪くないと言い続ける。
来夢は怒りのあまりにこいつを殺してやろうと、美沙の首に手をかけようとした。
しかしそれを一人の人間が阻止し、パシン!とかわいた音が響く。
その音の主は、宝だった。
「いい加減になさい!!貴方の私利私欲で、鬼々さんとみのるがどれほど辛い思いをしたか分からないんですか!!来夢くんや草間先生がどれほど苦労をなさったか!貴方にはわからないのですか!!いえ、分からないでしょうね。こんなことをしても尚、自分が悪くないと仰っていらっしゃいますし」
宝が怒りを露わにし、兄である富山へも話を振る。
「お兄様、貴方もです!このような姑息な手段で想い人を手に入れて何が楽しいのですか!!自分たちが良ければ何でも良いという考えはお捨てなさい!!」
一通り話し終えて、宝ははぁはぁと息をつく。
「とにかく、今後私たちに近づかないで頂きたい。もし少しでも近づくのなら、私は容赦なく貴方たちを殺します」
「宝……」
ここまで怒っている宝を見るのが初めてで、来夢はただただ唖然としていた。
宝が話し終えたところで、草間が話に割り込んでくる。
「宝さん、この二人の処罰はこちらに任せて頂けませんか?」
「どういう事でしょうか?」
まだ少し怒りが収まらない宝をまあまあとなだめる。
「こんな事、ただの人間が簡単に出来ることではありません。裏で糸を引いている輩には目星がついてますので、そいつも含めてこちらで対処します」
「それで私が納得するとでも…?」
「納得して欲しいのですが…そうですね、今回私たちが出てきた分の報酬という形で、いかがですか?結果は必ず報告しますから」
宝が押し黙る。
「賛成賛成!俺はこんなのと二度と関わりたくないし、正直、悪魔呼び寄せるのも結構いい値段したんだよね。ね、宝?だめ?」
「……みのるは、どうして欲しいですか?」
鬼々に血を与え続けているみのるに宝が問いかける。
「俺は…鬼々さんが無事だったから、それでいいかなって。関わりたくないって意見には賛成」
「…わかりました。草間先生、お願いしてもよいでしょうか?」
宝が了承すると、草間はニコッと微笑んだ。
「かしこまりました。ではお二方、私に着いてきて頂きましょう。では皆様、また逢う日まで」
「や、やだ!離して!!ちょっと!お兄ちゃん!!」
草間はそう言って二人を連れて地面の中へ消えていった。
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