3-6

「来夢くん、大丈夫でしょうか…」


来夢が出ていってから1時間が経とうとしている。


『なんか大変そうな予感がするから血ィちょうだい』


そう言っていたが、まさか本当に何かあったのではないかと不安になる。

現に今も連絡がなく、こちらから連絡をしても反応はない。

自分にも何か出来ることがあるのではないか。


(そうだ…)


突然明日の予定をキャンセルしてきたみのるに、事情を伺うべきなのではと思い、みのるに電話をかけてみる事にした。



***



プルルルル

みのるの鞄から電話音が鳴る。

その場にいるみのる以外の3人がその音に反応する。


(宝だ!)


俺が家を出て一時間ほど経ったか。

心配になって来夢に電話をしたが繋がらず、みのるに電話をかけてきたのだろう。

スマホの電源を切っていた自分に感謝する。


(ナイス宝!家帰ったらめっちゃ可愛がってあげるからね!!!)

「ちょっと本気出しちゃおっかなー!!」

「「!?」」


来夢が声を張った瞬間、部屋全体が真っ赤な血に染まる。


「お兄ちゃん!前見えない!!どこ!?」

「クソ!何だこれは!!」

「じゃーねー!!!」


窓をぶち壊して、みのるを抱え部屋を出る。

来夢はみのるの奪還に無事成功した。


「くそ!あいつ!!!覚えておけよ……!」



***



「みのる、どうしたんだろう…まさか何かあったんじゃ…!!」


来夢同様、電話が繋がる気配がない。

心配していると、玄関が開く音が聞こえた。


「たーかーらー!」

「!!この声…!来夢くん!って…」


来夢が血まみれでみのるを連れて戻ってきた。


「悪い、遅くなって。みのるのこれ、何とかしたげて」


来夢がリビングにみのるを連れていく。

見ると、みのるは裸で手足を拘束されていた、だけではなく…。


「酷い、一体誰がこんな……みのる、すぐ外すからね」

「ん゛、ん゛ん゛ん゛ッ」


ぺり、ぺり、と付けられていたものを外していく。


「っあ、あ、はぁっ」

「ごめんなさい、痛いですよね。頑張って…っと、みのる、大丈夫ですか?すぐに服を持って来ますから」

「あ、あ…っ、に、さん……」


きゅっ、と服を掴まれる。

みのるの手は震えていた。


「みのる、怖かったね。大丈夫だから。来夢くん、私の服を持ってきて貰えますか?」

「はーい。あ、これタオル。ごめんね、ちょっとだけ血ついちゃったけど」


来夢がタオルを渡し、宝はそれを受け取り、みのるの体を拭く。


「もう、大丈夫ですから」

「んっ、あ、ふぅっ…俺…」


カタカタと震えるみのるを抱きしめる。


「大丈夫です。ここには来夢くんがいますから、ね。」

「……ありがとう…。でも俺…」


(みのるをこんな目にあわせて…許さない)


宝の中に憎悪が生まれる。


「宝、駄目」

「来夢くん?」


服を持ってきた来夢が宝の眉間をつんと突く。


「顔怖いよ。復讐してやろうって気持ちは分からなくもないけど、それは宝がする事じゃない」

「でも…」

「とりあえず宝はみのるの傍にいてあげて?今日はあの弁護士先生呼んで何とかするから」


ね?と言われ、宝は何も言えなかった。


「……わかりました。後はお願いします。ですが!今日みたいな無理は絶対しないでください、次やったら怒りますからね!」

「はぁーい!」


来夢は宝とみのるを部屋に連れていき、二人の部屋に結界を張る。


「さて、と。もうひと仕事しますか」


来夢は草間に連絡を取った。



***



「あーもう最悪ッ!!!」


ガシャン!と何かを投げる音がヘッドホン越しに聞こえる。


「ねぇ鬼々さぁん、あなたの弟さん何なのアレ」


鬼々に付けられていたヘッドホンが外される。


「ん……あ…おとう、と……」

「あぁそっかぁ、もうほとんど覚えてないんだっけぇ?覚えてるぅ?弟のことぉ」


ぼやけた頭をフル回転させようとするが、アロマの香りがそれを拒否させようとしてくる。


「らい……む…に、なにし…たッ」

「まだ覚えてるの?!何で!!!てかしたんじゃないの、されたの!!」


美沙が地団駄を踏む。


(あいつ、何をしたんじゃ…)


「ねぇ鬼々さぁん、わたし考えたの。もうあなたはわたし以外の事忘れて生きていこぉ?わたし以外みーんな敵。ね?それがいいよぉ」


美沙がとんでもない事を言っているのは分かる。


「な、にを……」

「ね?そうしよ?ね?してくれるよね?ね?」

「ックソ、ふざけるな…ッ!!」

「口が悪いよぉ」


鬼々は再び美沙にアロマの匂いを嗅がされる。


「ふふ、これ原液なの、凄いでしょお」

「う゛ッ、あ、……」


早くこの部屋からでなければ。

でも、何故出なければならないのか。

そんな考えは徐々に薄れていく。

美沙は鬼々の口に指を入れる。


「いい子ぉ。わたしの指吸ってねぇ」

「ん、ちゅ、ちゅううっ、んぁ……んむぅっ」


美沙の命令を簡単に受け入れ、言われた通りに指を吸う。


「こちらは上手くいっているようで羨ましいよ」

「ふふ。鬼々さんはぁ、わたしのもの。ねぇ?鬼々さぁん?」

「んぁ、あぁぁっ」


鬼々の記憶は、思い出はどんどんと薄れていき。


「わしは、美沙の……」



***



「ん……。ここ…は…」

「私の家ですよ。みのる、おはようございます」

「兄さん…」

「もう少し寝ておきなさい。まだしんどいでしょうし」


みのるはなぜ自分がここにいるのか分からなかった。

先程まで富山の診療所に居たはずだ。

何があって兄の家にいるのか分からない。


「あの、俺…」

「実を言うと私も詳しくは知らないんです。ただ、来夢くんがしばらく寝かせておけと言っていたので。明日仕事お休みでしょう?今日明日はうちでゆっくり休みなさい」

「そっか…うん、ありがとう」


何か食べるものを持ってきますね、と言って宝は部屋から出ていった。

ここはおそらく兄の部屋なのだろう。

整理整頓されていて、清潔感もある。


(実家の部屋もこんな感じだったなぁ。懐かしい)


本棚には、何だか難しそうな本がたくさん並んでいて、勉強熱心なのが伺える。


(…でも、なんで俺兄さんの家に居るんだろう。記憶が……)


そう、先程から思い出そうとしても出てこない。

頭にもやがかかったような感じがするのだ。

大切な記憶の一部分をかき消されているような、そんな感じがする。

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