3-7

「みのる、入るよ」


ノックと共に、来夢が入ってくる。


「どうも初めまして」

「どうも…」


来夢の後ろには、みのるの知らない人物がいた。

みのるは軽く会釈をする。


「みのる、この人ね、弁護士兼悪魔」

「えっと、え?」

「言い方が悪いですね、あなたは。改めまして私こういう者です」


名刺を渡される。


【弁護士 草間集】

「弁護士さん……」

「あ、ちなみに悪魔というのは本当ですよ、ほら」


すると、頭には角が、背中からは羽根が、そして尻尾が生えてきた。


「ね?」

「本当だ……」


みのるはとんでもない世界に住んでいるのだと改めて実感した。


「で、なぜ私がここにいるのかと言いますとですね。みのるさんに何かをした人物が、みのるさんを取り返しに来るのではと予想しているんです。私たちはそれを阻止するためにここにいる、という訳です」

「はあ…」


みのるは現状を全く理解出来ていなかった。

そもそも誰に何をされ、自分自身になにが起こっていたのかも知らないのだ。

困惑するのも無理は無い。


「あの、誰が…」

「それは秘密…と言いたい所ですが私にも分からないんですよね。一人は見当が付いているのですが、その方はあなたには興味なさそうだとの事だったので。吸血鬼くん、写真を」


草間が来夢に視線を移す。


「みのる、聞きたいんだけど。こいつのことわかる?」


そう言って来夢がみのるに写真を見せてくる。

そこには見知った顔が写っていた。


「先、生……」

「知ってるんだね、こいつの事」

「知ってるも何も……」


その写真に写った人物は、実習で世話になっている富山だった。


「何で……」

「みのる、もう一個聞きたいことがある。この香り、覚えない?」


来夢の服についた香りを嗅ぐ。


「これ…診察室のアロマと同じ…」

「やっぱりね。兄さんからも同じ香りしたんだよな。あいつらまじで許さない、殺す」


来夢から殺意が溢れ出ているのがわかる。

それを草間が落ち着かせる。


「みのるくん、私は君がコレでなにかされてたんじゃないかと思っています。実習があるのは承知ですが、事が片付くまで診療所には行かせないつもりです。ご容赦くださいね?」

「で、でも…」

「君は自分が何をされたか分かっていますか?手足を縛られあろう事か性の道具にされかけて。君のために頑張ってくれた二人よりも、実習やその男を優先するつもりですか?」

「それは……」


草間の言う通りだった。

もしも、もしもだ。

富山がみのるに何かをしていたとして、それを助けてくれたらしい宝や来夢を見放す事は出来ない。

しかし、なぜ富山がそういう事をしたのかが分からない。

その理由を知りたい。

みのるは自ら富山のものになると言っていたのに。


「なぜそんなことをしたのか気になるって顔ですね。理由なんて単純ですよ。あなたを気に入ったんでしょう。あなたを自分だけのものにしたい、取られたくない。だから邪魔者は消す。ただそれだけです」

「そんな…」


唖然とするみのるに、来夢が続けざまに話す。


「俺もそうだと思う。多分、いや絶対兄さんもそうなんだ。俺、兄さんも助けたいんだ。だけど今日はもうそんな力なくて…。今はみのるを守るのだけで精一杯なんだ。だからお願い、ここにいて。宝も同じ気持ちだから」

「来夢くん…」


来夢の必死のお願いだ。

断る訳にはいかなかった。


「分かりました。来夢くん、草間さん、ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いします」

「かしこまりました」

「りょーかい」


二人が揃って返事をし、部屋を出る。


「来夢くん、血を」

「宝、大丈夫?」

「私は平気です。これくらいしか出来ることはありませんから。だからどうかみのるのことを…」

「分かってるって。絶対守るし兄さんも取り返す。やり合いたくはないけど、そうなっても絶対勝つから」


来夢は不安がる宝を抱きしめる。


「ゴホン、イチャイチャは終わりましたか?彼らには私からコンタクトを取りました。明日にでもこちらに来るとの事です」


みのるが眠ってすぐ、富山から返信があった。

しかし直ぐではなく、翌日にそちらに伺う、との事だった。


「余程みのるくんを取られたのが悔しいんですね。気持ちの悪い人間だ」

「ホントそう。宝、みのるのこと頼んだよ」

「お2人共、無理をさせますが、どうかお気をつけて」


草間が今日奇襲されても面倒だからと、新たに家に結界を張る。

そして翌日。


「ここか」


そこには、来夢の兄でありみのるの恋人であった鬼々がいた。

富山と美沙、2人もその場にいた。


「兄さん、こんな事になるなんて残念だよ」

「……誰だか知らんが、ここにいるみのるとやらを渡せ。すぐに取引に応じるというなら怪我はさせん」


ついに弟である自分も忘れさせるように洗脳されたのか、と来夢はため息をつく。


「言っとくけど今の兄さんに勝ち目ないからね。俺のラブパワーには勝てないよ」

「ふん、何を気持ち悪い事を。こちらとて」


そう言うと鬼々は美沙の首筋を噛む。


「ふぇ!?いた、痛い痛い痛いッ!!」


鬼々は美沙の声を無視してひたすら血を飲む。

美沙の力で離せる訳もかった。


「お兄ちゃん!早く!何とかしてよ!!」

「全く…」

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