3-5
「さて館山くん、何をしていたのかな?」
「あ、えっと、知り合いから連絡が来ていたので…」
「そうかい。それは失礼な事を言ったね」
「いえ、俺が悪いので……」
診察室での”研修”を前に、先程の出来事を問い詰められる。
「じゃあ今日も”研修”を始めようか」
「はい」
診察室にアロマの香りが漂う。
(この香り嗅ぐとなんか頭ぼやけるんだよなぁ)
「館山くん、僕と君の関係はどういうものか説明できるかな?」
「関係、ですか?先生と実習生、です…」
その答えに、富山は納得していない様子だった。
「……聞き直そう。僕とみのるの関係は?」
「恋人、です…。ずっとお付き合いしてて。えっと…一年前から俺、先生が好きで。俺、先生のものになるって約束して、それで……」
「うん、よく出来ました。」
頭を撫でられ、キスをされる。
「あ、先生、好き……ん、もっと……」
「さ、お仕置の時間だよ。覚悟しなさい」
「はい、せんせぇ……」
(幸せ……先生に、触られるだけで、幸せ……)
***
『みのる?』
「兄さん、どうしたの?」
帰宅してすぐ、兄である宝から連絡が来た。
『すいません、今忙しいですか?』
「ううん、今家着いたところ。ごめん、ちょっと手一杯で、スピーカーにするね」
『はい。今一人ですか?』
「兄さん何言ってんの、俺ずっと一人暮らしだよ?」
電話越しの宝が返答に詰まる。
来夢も似たような反応をしていたが、どうしたのだろうか。
「……兄さん?」
『ああ、すいません。ちょっと電波が悪かったみたいで』
明日会えないか?と聞かれ、ちょうど明日は休みだから会える、と一言伝えた。
時間と場所を教えて貰ったが、誰にも言わないでくれとの事だった。
「なんでだろ?ま、いっか」
みのるは無意識の内に”先生”に連絡をしていた。
***
来夢の方は鬼々に連絡を取ろうとしていた。
宝との作戦で、二人を会わせてみようというものだ。
みのるの方はおそらく上手くいくが、鬼々の方が面倒だった。
なんせあの女の家に居るのだ。
バレないように何とか女の部屋に侵入し、直接鬼々と会って話をしようと考えたが。
「どうすっかなこれ…」
例の結界は以前より強度を増していた。
この姿で侵入することは不可能であると判断した来夢は、猫に化けて他の住民が入る隙を狙いマンションに侵入した。
(あとは、あの女の部屋が分かれば……)
あの女――美沙と呼ばれていた女が、エントランスに入ってきた。
どうやら誰かと電話をしているらしい。
話を聞こうと近づくが、相手の声は聞こえない。
「もう最悪だったんだからぁ。とりあえず、鬼々さんの弟さん何とかしてよぉ」
(俺にも何かするつもりか、となると宝も狙われる可能性があるな)
なるべく早く事を済ませないと、面倒な事になりかねない。
しかし情報を集めるのも大事だ。
来夢はもう少し会話を聞いてみる。
「うん、うん、そっちの子はどうでもいいしぃ。お兄ちゃんにあげるぅ。美沙はぁ、鬼々さんがいればいいのぉ」
話しながらポストに手を伸ばしていたところを覗き見し、部屋番を確認した。
まだ何か話すかもしれないという可能性を考え、美沙の様子を伺う。
「はぁ~い、おやすみぃ」
通話が終わってしまい、やってきたエレベーターに美沙が乗った。
(まずい、ここで逃がしたら終わる……!)
猫の姿のまま透明になり、エレベーターへの相乗りに成功した。
(ほんと吸血鬼って便利~)
何があってもいいようにと、家を出る前に宝の血を少し多めに吸ってきて正解だった。
透明になってしまうと、物体には触れないのでついて行く事しか出来ないが、それだけで十分だ。
(可能なら兄さんを連れ出したいけど…上手くいくかな)
エレベーターが止まり、女が降りていく。
(ここ、この女の家の階じゃねぇよな)
と思ったが、何故部屋でないところで降りるのか気になり、来夢は慌てて女の後ろをついて行く。
女はある部屋で立ち止まり、チャイムを鳴らす。
するとその部屋からは見知らぬ男が出てきた。
「お兄ちゃ~ん」
「美沙、入りなさい」
来夢はもちろん部屋にもついて行く。
とある一室に入ると、そこはアロマの香りが充満していた。
(何だこれ、キツ…)
部屋を満たす強烈な香りに、来夢の頭が痛み出す。
「これ、もう少し強めにしておいたから。いくら異種族とはいえもう完落ちすると思うよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!うふふ、これから鬼々さんに使うの楽しみー」
男が美沙に何かをを渡していた。
(こんなので兄さんがあんなことに…?まさか…)
「そうだ、うちのも見ていくか?」
「ええ~うーん、まぁ暇だし見ていこうかな」
そして二人が別室に移動した。
そこには。
(嘘だろ……)
みのるが、拘束されていた。
しかもただ拘束されているだけではない。
「ん゛ん゛ん゛ーーッ」
全裸で手足を拘束され、性器にはローターを付けられ、イかないよう栓とコックリングを付けられていた。
「うぇーお兄ちゃん悪趣味ー」
「いいんだよこれで。明日休みだからうちに招くつもりだったんだけどね」
カチ、とスイッチが聞こえた。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ーーッ!う゛ーーッ!」
「何かご予定があったみたいでキャンセルさせたんだ。誰かに勘づかれたら面倒だろう?だからこの2日で完全に俺のものにするつもりでね」
(嘘だろ…みのるが…)
来夢は戸惑いを隠せず、その場から動けずにいた。
「さて、君はどうしてやろうかな、弟さん?」
パチンと男が指を鳴らした瞬間。
「うおっ」
変身と透明化が解け、床に放り投げられる。
「えっ嘘!なんであんたが!?」
「バレないと思っていたんですね、可哀想に」
「……」
なぜ自分がここにいるのがバレていて、術を解かれたのか、来夢には分からなかった。
しかしそんな事はどうでもよかった。
みのるだけでも助けなければ。
「私は君には興味ないんですが…美沙は?」
「やだぁ、いらなぁい。美沙こいつ嫌いなのぉ」
「じゃあ、殺しますか」
「はっ、人間ごときが勝てると思うなよ?」
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