3-2
「鬼々さぁ~ん、香水、どうでしたぁ?」
昨日鬼々に香水を渡してきたモデルの女が、鬼々に擦り寄ってきた。
今日はこのモデルの女が「昨日の香水の感想を聞きたいから会いたい」と言った為、外で会うことになっていた。
「まあ悪くはないぞ」
「本当ですかぁ?今日も…あ、つけてくれてる。嬉しい」
何故かドキッとした。
(こんな何処にでもいる女にこのような感情を抱くとは…みのるに悪いな)
自分を好いてくれているみのるへの罪悪感は多少あるものの、二人は【恋人】という関係ではないと、ずっと自分に言い聞かせている。
どう頑張ったって、人間(と言ってもインキュバスとのハーフだが)と吸血鬼、同じ時を生涯過ごせる訳では無い。
あの時の様に、好きになって裏切られて、そして別れがやってくる。
そのような後悔は、悲しみ苦しみは、二度と味わいたくない。
「鬼々さん?どうしたんですかぁ?」
「ああいや、なんでもない」
「実はこれ、わたしも同じのつけてるんですぅ~」
鬼々の鼻にその匂いが伝わってくる。
(何じゃこの匂いは。血とはまた、違う、体が満たされるような、この感じ………)
「鬼々さん、この後暇ですかぁ?もし暇ならわたしのお家、来ませんかぁ?他にも色んなのあるんですぅ」
どくん、どくんと胸が高鳴る。
(これと、同じいや、それ以上が……)
血よりも欲しい。
この香りが、欲しい。
(待て、わしは吸血鬼じゃ。血が、ないと…生き、て………)
「ね?鬼々さん?」
「あぁ、行かせてもらう」
鬼々の思考は香水の香りに飲み込まれていった。
***
20時。
診療が終わった頃。
みのるが携帯を開くと、鬼々からメッセージが来ていた。
(鬼々さんがメッセージ送ってくるなんて…珍しい)
中身を見ると
『今日は帰らない』
という一文のみの連絡。
(どういう事?)
みのるはすぐに鬼々の携帯に電話をしたが出ないどころか携帯の電源を切っているようだった。
嫌な予感がする、すぐに鬼々の元へ行かなければ、と思ったがみのるは鬼々がどこにいるかを知らない事に気づいた。
来夢ならわかるかも、と思い聞いてみたが分からない、と言われてしまった。
あまり心配をかける訳にもいかなかったので、何でもないと言って電話を切った。
慌てて帰宅する準備をしていたところ、後ろから富山の声がした。
「おっとごめん、取り込み中だったかな?」
「あ、富山先生…」
少し涙ぐんでいるみのるを見て、富山はみのるを抱きしめた。
「何があったか分からないけれど、話だけでも聞こうか?」
「あ、いえ、えっと」
突然抱きしめられた事に困惑しつつ、みのるは何故だか少しだけ不安が取れたような気がした。
「診察室へおいで。今日は”研修”はなしだ。君の話をゆっくり聞くよ」
「………はい」
みのるは急いでいたはずだったのに、富山と共に診察室へ向かった。
みのるの体についた香りを嗅ぎ、富山が不敵な笑みを浮かべているのも知らずに。
***
「大丈夫かなぁ?」
来夢はみのるからかかってきた電話があまりにも不自然で気になっていた。
「さっきの電話、誰からだったんです?」
来夢はみのるの兄である宝に事の経緯を説明する。
「そんな事が…」
「俺とは違って、すぐ血が欲しいって言う兄さんが血を拒むなんてないと思うんだけど」
「でも来夢くんも…」
「ま、それはそれ。俺もギリギリだったの」
(でも兄さんなら言われたら絶対飲むはずなのに…要らないって)
吸血鬼なら、あげると言われた血を拒むなんて有り得ない筈だ。
よっぽど腹が満たされていない限りは。
「もしかしたらみのる以外から貰ってるのかな、それをみのるにも言ってないとか」
「そんな事あるんですか?」
「まあ、なくはないよ。俺らは血さえあれば人間だろうとバケモノだろうと何だっていいから」
しかし何だかんだみのるを大事にしているだろう鬼々が、そういう事をしそうな感じはないし。
原因が全く思い当たらない。
(みのるも心配してたし、ここは俺が一肌脱ぐか)
「俺兄さんのとこ行ってくるね」
「場所わかるんですか?」
「大丈夫。行ってきます、ちゅっ」
行ってきますのキスをあげると、宝は顔を真っ赤にしながらも、行ってらっしゃい、と言ってくれた。
何もなければ、という来夢の予想は簡単に裏切られることになる。
「うわ、何これ」
来夢が鬼々の匂いを辿り、着いた場所は、高層タワーマンションだった。
しかし、入ろうにも対異種族用の結界が張られており、来夢では入れないようになっていた。
鬼々がいるであろう部屋を見ようとするも、近づく事すら出来ない。
「邪魔すんなって事かな、となると俺が吸血鬼ってのも知ってるっぽいかな」
試しに結界に触れてみると、バチバチと体に電流が流れ、少量の血が零れる。
「しかもちゃんと痛いし」
こんな事、並の人間に出来る事ではない。
誰かが裏で糸を引いているのか?と考えたが、来夢にはそんな事をする人物が、意図が分からない。
(どうしたもんかな…まぁ明日兄さんと会うし明日聞くか)
どうせ入れないし、と諦め来夢はその場を去った。
「何あれ」
鬼々のいる部屋の住民は、来夢の存在に気づいていた。
「もっと結界強く張ってもらって、”アレ”も強くしてもらわないと…」
横で眠る男の頭を撫でる。
「もうすぐで美沙のものだからねぇ、鬼々さぁん」
「んん……っ」
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