2-8

「みのる!!!」

「「!?」」


その場にいた全員が振り向いた。

と、同時に志々怒はみのるへ一発蹴りを入れる。


【─ッ!!】

「瑠架!!!!」


志々怒が左手の黒手袋を取る。

瞬間。

志々怒の髪が全て真っ白になり、顔と首筋には紋が、口には何かを抑えるためか口枷の様なものがついている。


『さて、少年よ。動くなよ?』


カコン、カコンと下駄を鳴らしみのるに近づく。

しかし。


『──貴様、何をしておる』


みのるの前には鬼々が立ちはだかっていた。


「やめろ。こやつを、みのるをこれ以上傷つけるでない」


立つのもやっとであろう。

手足はぷるぷると震えていて、出血も収まっている気配はない。


『自分で何を言っているのか分かっているのか?下手をすれば貴様も食われかねんぞ』

「そんな事はどうでもよい。これ以上みのるに手を出すなら、わしが相手になる」

『わしはあのバカのように優しくはないぞ?貴様をここで殺して食っても構わん。異種族というのがどのような味か試食してみようかの』

「それならみのるに殺される方が1億倍マシじゃ」


押し問答が続く。

耐え兼ねて先に動いたのは、瑠架だった。


【─かハッ!!!!】


鬼々が後ろを振り向くと、触手のような何かがみのるの体を縛り上げる。


「貴様!!!!!」

『黙れ、雑魚が』

「─ッ!」


今の鬼々には、この男に敵わないのはわかっている。

だから、言い返すなど出来なかった。


『安心しろ、殺しはせん。中のを抜き取るだけじゃ』

「中……?」

【ギ……ギザ………】

「み、みのる…っみのる…、みのるなのか…?」

【タ、スけ……】

『流されるなよ吸血鬼。今のそやつはみのるではない、異形じゃ』


鬼々を制し、瑠架の髪の毛から出来た触手のようなものがみのるの口内に侵入する。


【ッ゛ェ゛!!ごっ………!!】

「やめろ…止めてやってくれ…頼む……」

『見つけた』


鬼々は瑠架に縋り付くが、瑠架は全く反応しない。

瑠架は何かを見つけたようで、ニヤッと笑った。

ずろろろろろろっ!

瑠架がみのるの口から何かを取り出そうとしている。


【っぎ!!っォ゛え゛!!!】


みのるが白目を剥く。


「やめろ……」

『諦めて出てこい。でないと腹を裂くぞ』


みのるの中のなにかが、外に出ることを拒む。

しかし瑠架がそれを許す訳もなく。

ぎゅううううううっ!

と更になにかを締め付ける。


【ォ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッ!!!】

「やめろ!!!!!やめてくれ!!!」


じゅぽんっ!!

みのるの口から、本当に体の中に収まっていたのかと思うようなものが出てきた。

それは、年端もいかないような少年。

それが抜けたと同時に、みのるの体は瑠架の髪によってフワッと地面に置かれる。


「みのる!!!!」


鬼々はすぐにみのるの元へ駆け寄った。


『さて、と。貴様何か言いたい事があれば聞くぞ。遺言になるがな』

【ふざけないでよ!!なんで異形の癖に人間を助けるのさ!!!】

『助けている、か。まあ貴様らからすればそう見えるのか』


瑠架はうーんと頭を悩ませる。


『わしのことを知らぬ様じゃから教えておいてやる、ありがたく思え。わしは“異形喰い“と呼ばれておるのを知っておるか?あぁ、ここには殆ど異形なぞおらんから、この地ではあまり有名では無いのかもしれぬな。いや知られていたら…』


ブツブツと呟く瑠架に、異形の少年はガタガタと震えるしか無かった。


【は…?】

『後は分かるな?良い悲鳴を聞かせろ』

【嘘……や、嫌だ……まだ死にたく………せっかく……】


口枷を外すと同時に瑠架が異形を飲み込む。


『人間も喰うておったし、若いし、美味じゃな。うむ、この地はよいな、寒さを除けばじゃが…』

「おーいそろそろいいかなー」


瑠架と入れ替わるように中にいた志々怒が瑠架に声をかける。


『お、忘れておったわ』


瑠架が手袋をはめると、元の志々怒が現れた。


「これどうしようかなー………」


志々怒はそこら中に転がっている死体と記憶処理をどうすべきかと頭を悩ませた。



***



2日後


「ん……」


目を覚ますと、みのるは見覚えのない天井を見つめていた。


「ここ、どこだ…?というか、なんで病院に…?」


みのるの最後の記憶は、鬼々が自分のベッドに血まみれで倒れて来たところで、その後の記憶が一切ない。

うーんと頭を悩ませていると、ノック音が聞こえた。


「はい」


返事をすると、ゆっくりと扉が開く。


「鬼々、さん…?」


愛しくてたまらない、ずっとずっと会いたかった人。

ずっとずっとそばにいて欲しかった人。

パタンと扉を閉め、鬼々が近づいてくる。


「やっと起きよったか、馬鹿め」

「………っ!」


ぼろぼろぼろ。

嬉しくて、涙が止まらない。

ベッドに近づいてきた鬼々を抱きしめる。


「本物だよね?夢じゃないよね!?」

「ああ」

「鬼々さん、鬼々さん!」

「なんじゃ」

「会いたかった……!」

「……」

「もう俺の事なんて要らなくなったんじゃないかって…」

「……」

「俺よりもいい人を見つけたんじゃないかって…!」

「……」

「おれ、俺っ」

「すまぬ。みのるを心配させたな」

「うっ」


みのるは再び鬼々に会えた嬉しさを堪えきれず、子供のように大泣きした。

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