2-7
「────っ!鬼々さん!鬼々さん!!」
かなり痛めつけられたのだろうか、顔に生気がなく、至る所から鬼々の血が垂れている。
(嘘、なんで…どうして……?)
寝起きの頭では、なにも考えられなかった。
すると、リビングの方から声が聞こえた。
「やはりそうでしたか」
「あなたは……」
「匿っていたのですね、吸血鬼を。嘘をついてはいけませんよ、とご両親に習いませんでしたか?館山みのるくん?」
そう言った男たち井の頭を筆頭に、彼らの持つ刀には血がついていた。
それが鬼々の血である事など、聞かなくても分かる。
「貴方達が、鬼々さんを……」
みのるの中で何かが弾けた。
***
「遅かったか!!」
志々怒はみのるの部屋から異形の気配を感じ、急いで向かったのだが、後の祭り。
そこにはかつて人間だったであろうモノの頭を掴み、首から下をもぎ取られた体を踏むみのるの姿があった。
その顔には紋が現れていた。
「異形…」
『それ見たことか、もう少し速く来ていればなんとかなっていたぞ』
志々怒の中の異形、瑠架が呟く。
「いやー完全にミスったねー」
まさかここまで酷くなっているとは。
みのると出会ったのは、2日ほど前だ。
その時、微かに異形を感じてはいたが、これ程急速に成長するとは思ってもみなかった。
「なんとかみのる君を傷つけないようにしないとな。鬼々さんもかなり出血してるし…」
みのるに気絶させる程度の一撃さえ与えられればと思い、戦闘態勢を取る。
もちろん刀は出さずに。
【……も、アなタモ、鬼々サンを、うばイにキタの…?】
完全に異形に喰われているであろうみのるが、志々怒との距離を詰めてきていた。
「おっと、こりゃあ早く処理しないとまずいかなー」
(完全に憑依されちゃってる。これじゃみのるくんの人格まで食い尽くされるのも時間の問題だ)
【さ、セない、鬼々、サンは、ォレガ…マモる……!!】
「ちょ、ちょいま……!」
ドスン!
防御するのが一歩遅かった。
腹に一発喰らい、ビシャッ、と胃液を吐く。
パワーはかなりのものだ。
「──ッ!いってえなぁ」
『ふざけている場合か?』
「違います!!てかまじで痛いんだけど!!パンチひとつでこんな痛いことある!?」
たった2日でこれ程のパワーを出すなど、普通では有り得ない。
適合率が高いのか、それとも異形の方がみのるに何かけしかけたのか。
考えている間に、再びみのるの拳が飛んでくる。
(避けながら考えるのって大変だなー)
最初の一発は不意に喰らってしまったが、これ以上喰らう訳にはいかない。
(うーん、なんとか隙を与えないと…)
***
「は………っ」
鬼々が痛みを抑えて起き上がる。
が、先程までベッドにいたであろうみのるの姿がない。
「みの、る……どこに………」
時は1時間前に遡る。
あの時、みのるの血を吸おうと思っていた。
これで最後にしようと思っていた。
しかしいきなり、後ろから刀で体を一突きされた。
それは、今朝も昨日もみのるの家に来ていた保護団体の男だった。
「き、さま……っ」
血が止まらない。
しばらくみのるとの距離を置いていたこと、他人の血が不味すぎてろくに血を吸えていないことが重なり、吸血鬼の力のひとつである自身の血で傷を抑える、ということも出来なくなっていた。
血液不足で意識が朦朧とする。
(まずい、このままでは………)
やはり、ここに来るべきではなかった。
(みのる、すまない……)
鬼々出血多量により、意識を手放していた。
そして現在。
なんとか意識を取り戻し、みのるを探しに玄関を出た鬼々は、とんでもない物を目にした。
(何じゃこれは…!)
それは、とても現実とは思えないような光景。
人間の頭と首が引きちぎられたもの、上半身と下半身が分断されているものや、内臓をえぐり取られたもの、何かによって体を食いちぎられたもの。
「う゛っ」
胃液が逆流し、吐きそうになる。
しかし、それよりも。
「血………」
何でも良かった、血が飲めるのならば。
地面にこびりついているものでも、なんでも。
何とか体を動かし、少量ではあるが血を舐めとる。
(みのるのものよりは格段にまずいが今はとりあえず……)
するといきなりガシャン!と大きな物音が聞こえた。
鬼々が音のする方へ顔を向けると、そこには志々怒と。
「──みのる…?」
***
『防戦一方とは情けないぞ』
「仕方ないじゃん!!一般人だし顔見知りだしやりづらいの!!」
『なら早う変われ』
「いいけどさぁ!!絶対引き離せる!?」
『さぁな』
瑠架は明確な返答をしなかった。
(ここまでシンクロされておると引き離すのも至難の業かもしれんな)
過去にそういうものとの戦闘経験はある。
しかしそれは、ここまで精神を侵されたり肉体を支配されていない者の相手、またはもう完全に異形に支配された者の相手だ。
瑠架から見ると、みのるはある程度自我が残っているように見えるが、体の方は異形が操っているのであろう、異形のパワーも上乗せされているように見える。
志々怒が着いた時には、異形としてそこに転がっていた人間を食していたので、更にパワーが上がっているのだろう。
(余程あの吸血鬼が大事なんじゃろうな)
みのるの気持ちを上手く利用しているのだろう。
(隙を作って少しでも異形をなんとか出来れば良いが…そうじゃな、吸血鬼が生きているとでもホラを吹けば可能か?)
しかし、そのトリガーである吸血鬼は恐らく死んでいるのだろうか、生体反応がない。
使い物にならにいと判断した瑠架は、殺したくはないが最悪、そうせざるを得ないかもしれないと考えていた。
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