2-6
翌日、鏡を見ると目が真っ赤に腫れていた。
学校に行く気にもなれず、友人に欠席の連絡を入れる。
「はぁ…」
どうして行かないで欲しいと言えなかったのか。
いや、言ったところで無駄だったのではないか。
昨日からずっと同じことを考えている。
考えた所で答えなんて出るわけもないのに、だ。
「俺のばか…」
何もやる気が起きず、ベッドにうずくまる。
ピンポーン
インターホンがみのるの気持ちを無視して鳴る。
(出たくない……)
ピンポーンピンポーン
(うるさいなぁ……)
ピン……
みのるは重い腰を上げて玄関を開ける。
後悔した、誰がいるのかを確認しなかった事を。
「………はい……っ!」
「どうも、昨日はお世話になりました」
昨日、みのるに名刺を渡してきた男だった。
「えーと…井の頭さん、でしたっけ…?」
「そうです、覚えていて下さって光栄です」
「ご要件は…?」
「昨日の夜、こちらに吸血鬼がいましたね?」
ドキッとした。
なぜ、昨日の事を知っている?
誰かが見ていたのか?
いや、あれだけ騒がしくしていれば有り得なくはない。
胸がザワつく。
「何の事でしょうか」
「シラを切らないで貰いたい」
そう言って昨日鬼々と志々怒が戦っている映像を見せられた。
もちろんみのるも写っているため、言い逃れは出来ない。
「彼をお呼びいただいても構いませんか?」
「今は…」
ここにはいない、という事実から目を背けたくて、言葉が続かない。
「いらっしゃらないのですね?ではお戻りになるまで待たせて頂きたいのですが」
「でも…」
いつ帰ってくるかなんて分からない。
もう二度と帰ってこないかもしれないのに。
「館山さんのご自宅周辺にいますので。もしお戻りになられたらご連絡ください」
そう言って井の頭は立ち去った。
「いつ戻るかなんて俺が知りたいよ………」
みのるは再び涙を流した。
***
深夜2時。
部屋の主人が寝ているベッドの上に跨る男が居た。
「みのる……」
鬼々だ。
みのるの元を離れ帰らないと言い、他人の血を飲んでいたが、如何せんそれらの血が不味すぎて、結局みのるが寝ている時間にやってきて血を貰っていたのだ。
鬼々はみのるの泣き腫らした目を撫でてやる。
「すまぬ、すまぬ……」
原因は自分にあるのは重々承知している。
みのるはおそらく、いや、確実に鬼々の事を恋愛的に好いているが、鬼々にはそんな気はなかった。
情など抱いてしまうと、別れや裏切りは起きかねない。
人間は生きて精々百年程度、それに比べて吸血鬼は人間の何百倍も長生きする。
(体を重ねるべきではなかったのだ…)
後悔したところでどうにかなるわけが無い。
再び眠りにつくことも考えた。
しかし、異種族保護団体とやらが鬼々の保護を目的に、みのるに接触してきているのであれば、なんとしてでもみのるを守らなければならない。
だが鬼々がみのるに近づけば近づくほど、保護団体はみのるへの接触を増やしてくるだろう。
志々怒からの情報では、異種族の保護というのは表向きで、裏では異種族の力を奪い、高値で売り捌いているということを聞いた。
しかもその力を悪用しているという話もある。
その力がもしみのるに降りかかるとなれば……。
(わしには耐えられん。こやつが、みのるが死ぬなど……)
こんなことを思う程、鬼々自身がみのるに抱く感情の答えを知っている。
だから、だからこそ。
(これで、最後じゃ…)
***
(………どこだここ……夢?)
眠りにつくためベッドにいたのだから、夢なのは間違いないはずだ。
先の見えない暗闇に、行くあてもなく、とぼとぼ歩いていると、突然目の前に見知らぬ年が現れた。
『ねぇ、君は大切な人を助ける力が欲しい?』
「えっと…どなたでしょうか?」
『知ってるでしょ。僕のこと』
とん、と少年が自分の頬を指さす。
志々怒が言っていた。
顔にペイントみたいなものが着いているのが“異形“だと。
「あの、俺、食べられるんでしょうか?」
『あはははっ!!なに言ってんの?僕さ、今君の中にいるの。だから“君のことは“食べないよ』
「なら、他の人は食べるってこと?」
『そう』
少年はニマッと笑った。
「だめだよ、そんなの」
『なら、現実を見てみたら?そんな事言えなくなるよ』
少年がパチン、と指を鳴らす。
その音とともに目が覚めた。
(何だったんだ一体……)
体を起こし、周りを見回す。
「嘘………」
みのるの上には、血まみれの鬼々が覆いかぶさっていた。
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