2-5

キン!と金属と何かがぶつかる音がした。

そこには。


「鬼々さん!?」

「貴様、何者じゃ」


志々怒が自分の身を守るために鞘から刀を少し出し、鬼々の攻撃を受け止めていた。


「おっと、危うく殺される所だった」

「そのつもりじゃったが」


鬼々からものすごい殺気を感じる。

鬼々は長く伸びた自身の爪で、志々怒を殺そうとしていた。

みのるは、そんな鬼々を知らない。


「鬼々さん、危ないよ!何して…」

「そうそう危ないよー」

「黙っておれ」


鬼々の低い声にみのるの体は硬直した。

なぜ怒っているのか、みのるには分からなかった。

志々怒が笑いながら鬼々に話しかける。


「どうせやるなら外でやろうよ。ここじゃ狭くてやってられないし」

「賛成だ」

「ちょ、2人共!!」


2人はみのるの制止など聞きもせずに外に出た。


「ここ、二階………」


みのるは走って2人を追いかける。

2人はあの高さから降りたはずなのに、怪我ひとつせず、除雪されている道に立っていた。

鬼々は相変わらず、目の前にいる志々怒を睨んでいる。

対する志々怒は、サングラスをかけているため表情は分からないが、少なくとも殺気立ったりはしておらず、これから起こることを楽しみにしているようだ。


「僕より強い人なんて滅多にいないから楽しみだよ。本気、出させてくれる?」

「たわけ。そんなことを考える暇も無いほどすぐに殺してやる」


ザッ、と互いの足が開く。

瞬間。

再びキン!と刀と爪が再び交わる音がした。

2人の力は互角なようで、お互いピクリとも動かない。


「凄いね、その爪。どうしたらそんな強度になるの?」

「黙れ小童」


2人が距離を取る。

そして今度は力での押し合いでなく、速さ比べが始まる。


「異種族って凄いね。パワーもスピードも段違いだ」

「笑ってられるのも今の内じゃぞ」

「ふーん」


志々怒は鬼々の動きをどのように止めようかと考えていた。

瑠架を"出して"隙を作るのも面白いが、そんなことをしたら瑠架が不機嫌になるのは目に見える。


(僕も慣れちゃいないけど、雪の力を借りるか)


近くにあった雪を掴み、鬼々目掛けて投げる。


「目くらましか、卑怯な」

「そっちじゃないよー」

「なッ」

(フェイクか!?)


志々怒が連続して投げた雪は、鬼々の足元を掬うには十分な量だった。

それに足を取られた鬼々は地面に倒れ込む。

もちろん志々怒がそんな隙を見逃すわけもなく、鬼々を刀で抑え、組み敷く。


「僕の勝ちね。話聞いてもらえるかな?」


にっと笑う志々怒に、鬼々はため息をつき両手を上げた。


「認めたくは無いが、わしの負けじゃ」

「2人とも大丈夫!?怪我とかしてない!?とりあえず部屋戻ろう!」


みのるが促すと、2人は立ち上がり、みのるの部屋に戻った。

そして2人は部屋へ戻るなり、揃ってくしゃみをした。


「寒かったー!」

「おいみのる!背中が冷えて仕方ない!!服とシャワーを用意しろ!」

「わかりました」

「しかし人間よ、貴様強いな」

「僕、志々怒皇って名前があるので名前呼んで欲しいんですけどー、って上脱ぐの!?エッチ!!ハレンチ!!きゃー!!!」

「うるさいぞ!!」


(うるさいのはこっちなんだけど……)


と言える訳もなく、みのるは二人にお茶を、鬼々にはシャワーと服の用意をするのだった。

鬼々がシャワーを浴び終えてから、これまでの話をまとめる。


・鬼々を保護すると言う、異種族保護団体とやらがみのるの家に来ていたこと

・その後志々怒が異形の調査でみのるの家に現れたこと

・志々怒はみのるに対して何もしていないこと

・志々怒の目的は異形を退治すること

・異種族保護団体については志々怒が調査中であること


「という訳で、僕とみのる君が分かっていることはここまでかな。あってる?」


みのるはこくんと頷く。


「で、鬼々さんの方は?」


志々怒が問う。


「わしから話すことは何も無い」

「無い事ないでしょー」


鬼々が志々怒を睨む。


「はいはい。ま、とりあえずみのる君に何かあったら危ないから鬼々さんはみのる君のこと守っててね。それじゃあね!!」


志々怒はそう言って窓から出ていった。


「………」

「………」


二人の間に沈黙が流れる。


「あ、あの、鬼々さん、おかわりいりますか?」

「いらん」

「そっか……」


何か話をしなければ、鬼々が目の前からいなくなってしまうのではないかと不安に駆られる。


「久しぶりだね、元気そうでよかった」

「そうじゃな」


素っ気ない返事。

もしかしたら、やっぱり自分よりも上質な“エサ“を見つけたのかもしれない。

自分は必要なくなったのかもしれない。

こんな苦学生よりも、もっとお金も余裕もある人の方がいいに決まっているだろう。

みのるの心は不安に押しつぶされそうになっていた。

心がキュッと痛むのを感じる。

しかし、それはみのるがどうこうした所で解決するものでは無かった。


「何も無いのならわしはもう行くぞ」


その一声にハッとした。

嫌だ、行かないで。

ここにいて。

そばにいて。

居なくならないで。


「あ………」


言いたいのに、どうして言葉が出てこないのだろうか。

兄が家を出ていった時もそうだった。

兄はみのるが駄々を捏ねても止めても何をしても、無駄だった。

むしろ逆効果で突き放されたのだ。


『お前のことが一番嫌いだった』


その言葉がフラッシュバックする。


「………」


そんなみのるを見て呆れたのか、鬼々は何も言わずに出ていってしまった。


「鬼々さん、嫌だ、行かないで…なんで……」


みのるは1人になった部屋で泣いていた。

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