2-4

あれから鬼々と顔を合わせる機会がぐっと減った。

鬼々が帰ってくることが減ったのもそうだが、みのるも鬼々とどう接していいのかわからず、ずっと悩んでいた。

話をしようにも、朝起きても鬼々はいないし、バイトから帰ってきても家の中にいる気配はない。

血液だって、ここ数日吸われた記憶がない。

ご飯は一応食べているみたいだが、完食している様子もない。

一体どこで何をしているのか検討も付かない。


「大丈夫かな、鬼々さん」


バイト終わりに、鬼々を助けた公園でぼーっとしていた。

触れたい、鬼々に会いたい。

そんな願いは、夜の寒空に消えていく。


「帰ろ……」


この時、みのるは気づいていなかった。

みのるの後ろで、何かが蠢いていたのを。



***



ピンポーン、ピンポーン

休みだと言うのに、何度も鳴るチャイムの音で目が覚める。

玄関を開けると、見知らぬスーツ姿の男女が5人、そこに立っていた。


「はい……。ええと、どなた様でしょうか……?」

「私たちは異種族保護団体の者です。こちらに吸血鬼がいるとの情報があり、保護に参ったのですが」


鬼々の事かとすぐに理解した。

しかし何故か分からないが、言うべきでは無い、と感じた。


「生憎ですが、存じ上げません。お引き取りください」

「そうですか。もしお目にかかりましたらこちらまでご連絡ください」


そう言って男が名刺を渡してきた。

そこには【異種族保護団体 井の頭進】と携帯の電話番号が書かれていた。


「わかりました。お寒い中ありがとうございます」


玄関を閉め、『異種族保護団体』とやらを調べてみるが、質素なHPしかなく、それ以外の情報は出てこなかった。


「何だったんだ、あの人達……」

「やっぱり北海道は寒いねー」

「!?」


声のする方を見ると、着物を着たサングラスの男が、そこに立っていた。

顔の左側は髪の毛で隠されており、左は白、右は黒髪という出で立ち。

先程の人達が帰った後に出てきたということは、別の団体の人達なのか?

威圧的な雰囲気ではなさそうだが、怪しさは満点である。


「ああ、大丈夫。さっきの人達とは別件だよ。警戒…しない訳ないよねー」


不審者はへらへらと笑う。


「誰ですか」

「僕?僕はねー」


よいしょ、と立ち上がり、着物の中から名刺を取り出す。


【異形滅師 志々怒皇】


「?あの、失礼ですが…」

「読めないよねー。僕は異形滅師(いぎょうめっし)志々怒皇(ししどすめらぎ)です。よろしくね」

「異形…滅師……?」


北海道は異形という存在があまりいないので、みのるには何を言っているのか全く分からなかった。


「読んで字のごとく如く、異形を退治するお仕事をしてるんだー」

「はぁ…」

「しかし北海道はすごいねー、異形は少ないし、人間と異種族が共存してるんだもん。それに雪!雪がすごいね!!雪だるま作ろうと思ったけど寒すぎて死んじゃうかと思ったよ!!!」


真冬の北海道に、着物に上着一枚で素足に下駄。

凍死しに来ましたと言わんばかりの格好である。

死にかけても仕方ないだろう。


「あの、とりあえず何か暖かいものでも飲みますか?」

「本当!?君はいい子だねー」


なぜこんなにフランクに話しているのかは分からないが、何故か先程の人達よりも不信感はなかった。

暖かいお茶をリクエストされ、それを出す。


「あの、ところで…」

「要件だよね?君さ、この辺で異形見てない?」


まさか鬼々の事を本州ではそう呼んでいるのだろうか?

だとしたら異形滅師と言うこの男も、鬼々を捕らえるために来たのか?とみのるは疑う。


「あー、あの角生えた人じゃないよ。異形ってのは二種類あってね、見た目が化け物みたいなのと、人間みたいなの。人間見たいな方はね、顔とか体とかに紋(もん)てのがあるの。ペイントみたいなものかな、あの人にはそれがないから違うよ。さっきの人達が言ってた吸血鬼ってやつなのかもしれないけど、僕の目的はそれじゃないの」


お茶あったかいよ、ありがとう!なんてお礼を言われるが、みのるの頭の中はそれどころではない。

確かに鬼々にはペイントみたいなものはないが、鬼々がそのペイントを隠している可能性もあるのでは?と。

もし、もしもそうだとしたら…。


「心配しなくていいよ。あの人は100%異形じゃない。吸血鬼?かどうかは知らないけどね。もし万が一そうなら瑠架(るか)のせいだね。僕は悪くない」


この人がさっきから一体何を言っているのか、みのるには全く分からなかった。


「ま、そういう事で。あの人以外に化け物とか顔に変なペイントついてる人とかいてたら連絡くれる?すぐに対処しないと大変だからさ」

「大変、というのは…」

「そいつらはさ、人間を食べちゃうのよ」


人間を、食べる。

そういえば、本州はそういうのしかいないから北海道からは決して出るな、と酸っぱく言われていることを思い出した。


「頭の先から足のつま先までね」


急に声のトーンが落ちる。

おそらく、志々怒は本当のことを言っているのだろう。

脅しでもなんでもなく、真実を。


「なんなら人間にも化けるしねー。知能がある奴は紋を隠せるから厄介なんだよ。一般人にはそんなの見抜けないし、こっちは異形が少ないでしょ?だから人員も少ないし……寒いのに俺が……」


志々怒はブツブツと不満を漏らす。


「という訳で…」


と、志々怒が立ち上がろうとした瞬間。

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