2-2

じたばたする鬼々を逃がすまいと、鬼々の体を抑える。

ちゅ、くちゅっ、じゅるる


「ふぁ……はぁ…っ」


口を離すと、鬼々の顔はとろんと溶けていた。


「みのる……貴様………甘やかしてやったら調子に乗りおって…………」


この後思いっきり殴られ、ありとあらゆるものを吸い取られたのはいうまでもなかった。



***



「わたし、ただのセフレだったの…」


近くの席の女子生徒が悲しそうに友人に話していた。


(セフレかぁ…)


ふと自分と鬼々の関係を考えてみる。

鬼々はみのるのことを"エサ"としか思っていないに決まっているが、はたしてみのる自身は鬼々のことをどう思っているのか、と。

恋愛ごとを思い返してみれば、過去に付き合った女の子たちも皆、あちらから告白してくれるが、別れ話もあちらからだった。

みのるはみのるなりに彼女たちを好きになろうと努力はしたし、セックスだって不満のないようにしたつもりだった。

しかし歴代彼女達には、


『本当に私の事好き?』

『なんか距離置かれてる気がする』


と言われてばかりだった。

だからみのるはこれから先自分が誰かを好きになるまで付き合うという行為をしないと決めていた。

それにみのるは知っている。

何かをしたい、ほしい、と思ってしまえば、失った時の悲しみが大きいという事を。

だからみのるは日々、欲を出さぬ様に心がけて生きてきた。

しかし、鬼々が来てから、欲が抑えきれていないような気がする。

何故かは分からないが、可愛いといった感情や、鬼々を犯したいという雄の本能を掻き立てられる。

初めてセックスをしてから、(鬼々の機嫌の良い時だけだが)血液補給の後にセックスをねだると、ヤらせてくれるようになったからだろうか?

ただ、その関係に名前を付けろと言われると思いつくのは、やはりセフレなのか?と考えるとため息が零れる。


「ため息ついてたら幸せが逃げるぞー」


友人がみのるに声をかける。


「お悩み事ですか、聖人よ」

「はは、聖人じゃないってば」


みのるには自分よりも他人を優先する癖がある。

自分はどうなってもいい、他の人が幸せなら、という考えが気づけば行動として現れており、周りには"聖人"などと呼ばれよくからかわれている。


「実はさ…」


鬼々が吸血鬼である事は伏せつつ、現在の2人の関係性について相談してみた。


「それってみのるにメリットあんの?」

「メリット…」

「そ、メリット。だって話聞いてる限りさ、ヒモじゃんその同居人。家事はしない、メシは食うだけ、仕事もしないって、世の中はそれをヒモって呼ぶんだぜ。いくら聖人って言っても度、越えすぎだと思うけど」

「うっ…。別に、俺はそんなつもり…」

「でも実際、バイト増やした訳だろ?まあ、みのるがしんどくなけりゃいいけどさー、他所から見たらヒモとヒモを支える苦労人だよ」

「私もそう思うなー。みのるくんは優しいから言えないかも知れないけど、働いてもらうか家事してって言った方がいいんじゃない?」


いつの間にか他の友人もやってきて、みのるの悩みに答えてくれていた。


「はーい、俺それに1票ー」

「俺もー」

「そ、そうかな…」


そうだよ!!と3人が声を合わせて言う。

3人の圧に負けたみのるが言ってみるね、と言いかけた時だった。


「みのる」

「鬼々さん、なんでここに?」


聞きなれた声。

振り返るとそこには、人間の姿をした鬼々が立っていた。


誰あのイケメン!

めっちゃ綺麗ー!

聖人の知り合い?


などと色んな声が飛び交う。


「みのる、あれがお前の同居人?」

「うん……」


しかし、なぜここに。

普段、あまり外に出たがらないのに。


「おいみのる」

「はっ、はい!」


グイッと腕を捕まれ、鬼々の傍に寄せられる。


「みのるはわしのモノじゃ、気安く触るでない」

「「「!?!?」」」

「あっ、え、鬼々さん…?」

「いくぞ」

「ちょっ、待って…!」


鬼々の発言に、みのるを含むその場にいた全員が驚いた。

そんなみのるを鬼々は無視し、掴んだ手を離さず、そのまま人気のない所へと消えていった。


「あれはなんだったんだ……?」


友人たちはただただ唖然としていた。

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