2-1

それからみのるの生活に更なる変化が訪れた。

鬼々の食べられるもの、食べられないものの把握、家電の使い方、外出時の注意点(ツノと翼は隠す事、耳は人間と同じ形にすること)、文字の読み書きの勉強など、現代の世間のルールを叩き込んだ。

鬼々は覚えるのが面倒だ!と匙を投げようとしたが、血の供給禁止を前に出されると逆らえない鬼々は、嫌々従うしかなかった。

今までより早く起床し食事を作り、鬼々を起こしてからの血の供給。

昼ごはんの話をして学校へ行き、終わったあとは鬼々の分の食費を稼ぐためのバイト。

今までよりバイトの日数を増やさないと、生活費が足りなくなる。

学生には正直しんどい生活だった。


「まずい」

「え?」


夜の血の供給の時だった。


「みのる、最近疲れておるじゃろう。メシは兎も角、血も精液もまずい。たまにはゆっくり休め」

「や、休んでますよ…?」

「嘘つけ」


トン、と軽くおでこを小突かれただけなのに、体がベッドに沈んでいく。


「貴様の体力がないとわしの供給の時間が無駄じゃ。明日もばいと?とかいうのがあるのかもしれんが休め。わかったな?」

「あ、でも…」


大丈夫、と言おうとしたが、意識が薄らいでいく。


「命令じゃ、わかったな?」

「あ…」


おでこに鬼々の唇を感じたが、それに反応することも、返事をする事もできずに、みのるは完全に意識を手放した。

みのるが目を覚ますと、外は夕闇に染まっていた。

体を起こし、リビングに向かうと、聞きなれた声が聞こえた。


「もう切るぞ」


鬼々がみのるのスマホで誰かと電話していたようだった。


「起きたかみのる」

「おはようございます」

「今日は、ばいととやらは休め。電話がかかってきたから、休ませると伝えておいた」

「ありがとうございます」


鬼々なりに気を使ってくれていたらしかった。


「このすまほというのもすごいな!これで遠くにいる他人と話ができるのか…!」


目をキラキラさせてみのるのスマホを眺めている。


「スマホ、欲しい?」

「……!いや、これにも金がいるんじゃろう。ならいらぬ」


用が済んだと言わんばかりにポイッとみのるにスマホを投げる。

時々、いや常日頃思うのだが、鬼々はどのくらい眠っていたのだろうか。

本人から長らく眠っていたとは聞いているが、スマホをはじめ、車やテレビすら知らない。

そんな人、今の世の中に居ないのだから、昭和以前から眠っていたのだろう。

ただ、本人がその辺の話をしたがらないので、聞くことはしないし、聞けることはないのだろうけど。


「何じゃ、わしのことをジーッと見よって」

「あ、いえ、別に深い意味は」

「ほれ、お主は寝ておれ」

「寝ておれって、俺、たくさん寝ましたよ?」

「……わしの命令が聞けんのか」

「わかりました、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」

「分かれば良い」

「鬼々さん、あの、食事は…」

「1日くらいなくても死にはせん」


ぷい、とそっぽを向いてしまう。


「鬼々さん、寝るから昨日みたいにキスして?」

「な゛………ッ!!貴様覚えて………ッ!!!」


あんな事されて、忘れないわけが無い。


「ね、だめ?」


少しだけ駄々をこねてみると、鬼々は深くため息を吐きつつ、みのるの側へ向かう。


「め、目を瞑っておれ」

「はい」


ちゅ、と口を当てるだけのキスが降ってきた。


(鬼々さん、かわいいなぁ。こんなので済むわけないのに)


みのるは鬼々の頭をがしっと掴んでそのまま深い口付けをする。


「~~ッ!ふ、ふうっ!!ん゛ん゛~ッ!!」

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