1-1
「また明日ー」
深夜0時前、館山(たてやま)みのるは、大学の友人との飲み会を終え、これから帰路に着くところだった。
明日の学校遅刻しないようにしないと、と思いながら家までの近道である公園を通り抜けようとした時だった。
─そこに、男の子が全裸で倒れていた。
「ちょっと大丈夫!?」
声を掛けても反応がない。
唇は真っ青で、顔も顔面蒼白。
幸い脈と心音はあるので辛うじて生きてはいるみたいだ。
(とりあえず体を温めてあげないと…!)
みつるは自分の着ていたジャケットとマフラーを少年の体に被せ、急いで自宅へ向かった。
家に着いてすぐに暖房を付け、ベッドに寝かせた。
急いでいたので気づかなかったが、少年には角が左右2本ずつ、生えていた。
(鬼なんているんだ…ファンタジーの世界にしかいないと思ってた…)
みのるたちの住む北海道には、異種族と呼ばれる人間とは違う種族が存在している。
見た目が人間とはかけ離れた者、見た目は人間だが異種族の血が混ざっているものなど、多種多様である。
みのるは後者で、父が人間・母がインキュバス(つまり淫魔)のハーフであるが、みのるは人間の血を濃く受け継いでいる。
人より性欲がある事以外は、至って普通の人間だ。
土地が土地だけに、今更異種族を見ても驚きはしないのだが、鬼や吸血鬼というのは現代にはほとんど居ないと言われていたので、驚くのも無理はなかった。
1時間もすると、やっと唇の色に血の気が戻ってきた。
顔色も少し良くなってきたみたいだ。
(俺はコタツで寝よう…)
流石にあの状態の少年を押しのけてまで眠ろうとする程冷酷な人間では無い。
明日も学校だし、とみのるは眠りについた。
***
みのるは首筋に謎の痛みを感じて目を覚ました。
寝起きのみのるの目に入ったのは、長髪の青年がみのるの首筋に噛み付いているところだった。
「!?!?」
あまりの事に、驚いて声も出ない。
するとその青年はみのるが起きたことに気づいたのか、首筋から口を離し。
「やっと起きたか。貴様の血は美味かったぞ」
と、みのるの上に跨ってドヤ顔を披露していた。
「だ、誰…っ!不法侵入!?ていうか、あの男の子は!?」
辛うじて動かせる首を動かすと、みのるは知らないうちにベッドにいて、その周りには昨日助けたであろう少年の姿はなかった。
「誰、とは失礼な。昨日わしを助けたのは貴様じゃろう」
と、その青年は言い放った。
困惑するみのるを他所に、その青年は続いてこう言った。
「わしは吸血鬼である。お主、名はなんと言う」
「み、みのるです…」
「みのるか。よし、みのる!お主は今日からわしの”エサ”じゃ! 一日三食、わしに血を提供しろ!」
ぽかんとするみのるを無視し、青年は再びみのるの首筋に近づき、指で何かを描いた。
「これがお主がわしの”エサ”である証拠じゃ。有難く思え」
そう言って青年はみのるの首筋をなそりつつ、再びドヤ顔を披露した。
夢だと思いたいところだが、残念ながら首筋への痛みはしっかりと感じていたので、現実であることには間違いないようだった。
と、今起こっていることが現実であることを理解した時、みのるはあることを思い出した。
「今何時!?」
がばっと起き上がってきたみのるに驚き飛び跳ねた青年を無視し、みのるは携帯の時計を見る。
「…10時…俺の、皆勤賞が……」
大学の一コマ目開始は8時30分、今はちょうど二コマ目が始まったというところだろうか。
「カイキンショウ?何か知らんがもうすぐ昼刻じゃろう。メシを寄越せ」
言うやいなや、首筋に噛み付こうとする青年を押しのけて、みのるは急いで学校の準備を始めた。
「貴様!何をする!」
怒る青年を他所に、歯を磨き、髪の毛を整え、家の鍵と自転車の鍵、鞄を持ち急いで家を出た。
***
「すいません!遅刻しました!!」
学校についてからも懸命に走り、教室に到着した。
教室にいる全員が、遅れてきたみのるに注目した。
先生は、君が遅刻なんて珍しいですね、と笑いながら席に座るようみのるに言った。
「みのるが遅刻なんて珍しいじゃん」
「ほんとだね、どうしたの?」
いつもの席に座ると、大学から仲良くなった友人達
が、遅刻してきたみのるに声を掛けてきた。
事情を説明したい所だが、昨日助けた少年が青年になってる?とか、吸血鬼を拾った、などと言える訳もなく、ちょっとね…と濁す他なかった。
一日が終わり、自転車に乗りながら帰路につく。
みのるは大きなため息を吐いた。
(うちに帰ったらあの人いるのかな…)
あの人、とは今朝みのるの首筋を噛み、自身を吸血鬼であると名乗った青年だ。
居ないことを願いつつ家の鍵を開けると、玄関にあぐらをかき非常に機嫌の悪そうな青年が座っていた。
「貴様、どういう了見でこのわしの”エサ”という職務を放棄しよった」
「放棄と言われても…」
と思っていたのが声に出てしまったことで、更に機嫌が悪くなったのか、みのるの腕をぐいっと引っ張り、マフラーを千切られ、首筋に噛み付いてきた。
そして、みのるにはある感情が芽生え始めていた。
噛まれて痛いはずなのに、ずくずくと腹の底から湧き上がってくる快楽。
自分は今まで普通に女性と恋愛をし、女性とお付き合いをしてきたし、こう言ったアブノーマルな性癖もないないはずなのに。
気のせいだとひたすら自分に言い聞かせ、青年が血を吸い終わるのを待った。
3分程が経っただろうか。
口端の血もしっかり舐めとった青年は、みのるに向かって言い放った。
「貴様の事情など知らぬ。貴様は”エサ”らしくわしに血を与え続けろ。わしが欲しい時に血を寄越せ。わかったな?」
みのるには拒否権など無いというような言い草だ。
「返事は?」と聞かれ、みのるははい、と言うしかなかった。
それからというものみのるは毎朝血を吸われることで目を覚まし、昼休み中に家に帰り血を吸われ、夜はバイト前後に血を吸われる、というとんでもない生活を送ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます