真夏の悪夢9
「それで、秀一郎さん、何か気付いた事はありますか?」
私が聞くと、秀一郎さんが言った。
「まだ何とも……ただ、四谷氏の台本を桜田さんが借りたというのが気になるな。その台本を見てみたい」
「分かりました。岡崎君に見れるかどうか聞いてみます」
それから私はすぐ岡崎君に電話をして、台本を見る許可を取った。
事情聴取に利用している会議室で台本を見せてくれるという話だったので、私と秀一郎さんは、部屋に堀江先生を残し会議室に向かった。
会議室に向かう途中、私達はエレベーターホールでキャリーケースを運ぶ砂川さんとすれ違った。砂川さんは今、水色のワンピースを着ている。
「あ、先程はどうも、砂川さん。そのキャリーケースはもしかして……?」
私が話し掛けると、砂川さんは嬉しそうに答えた。
「どうも、刑事さん。実は、無事にマロンが見つかったんです」
「良かったですね。どこにいたんですか?」
「このホテルに併設されているプールの側にいたみたいです。ホテルの方が保護してくれたみたいで」
「そうですか……」
何故そんな所にいたのかは不明だが、無事見つかって良かった。
「……でも、おかしいんですよね……」
「何がですか?」
私が聞くと、砂川さんは不思議そうな表情で言った。
「このキャリーケース、無理矢理鍵をこじ開けた形跡があるんですよ。つまり、誰かがわざとマロンを逃がした事になります。でも、マロンは血統書付きの猫でも無いし、マロンを売る目的で盗んだのならどうしてプールの側でマロンがうろついていたのか……盗んだ犯人がうっかり逃がしてしまったんですかねえ……」
成程。砂川さんが疑問に思うのも不思議ではない。
「キャリーケースに第三者の指紋は付いてないんですかね」
私が言うと、砂川さんが首を横に振った。
「キャリーケースは団長の殺害現場にあったので、警察の方が一応調べてくれたみたいですけど、私の指紋も含めて拭き取られていたそうです」
「はあ……」
そんな話をしていると、私の後ろから「くしゅん」というくしゃみの音が聞こえた。振り返ると、そこには小鳥遊さんがいた。小鳥遊さんは昨日と一転、カジュアルなTシャツとジーンズといういで立ちをしている。
「あ、小鳥遊さん、どうも」
「どうも、刑事さん……あ」
小鳥遊さんは、砂川さんの持つキャリーケースを見ると困ったような顔をした。
「あ、小鳥遊さんは猫アレルギーでしたね」
私が思い出したように言うと、砂川さんが慌てて言った。
「え、そうだったんですか?すみません!猫アレルギーだとは知らずに……」
「い、いえ、私が猫アレルギーだとは話していなかったので……」
小鳥遊さんも慌てて手を振る。
「じゃあ、私、急いでマロンをペットホテルに預けて来ますね。この辺りに、短時間でもペットを預かってくれるペットホテルがあるみたいで、今丁度空きがあるみたいなんです」
そう言って、砂川さんはその場を後にした。
「あの、刑事さん、そ、捜査は進んでいますか?」
三人だけになると、小鳥遊さんが聞いてきた。
「詳しくは言えませんが、鋭意捜査中です」
私が言うと、小鳥遊さんは困ったように言った。
「そうですか……私、仕事があるので、早く東京に帰りたいんですけど……」
「申し訳ありません。もうしばらくこちらに滞在して頂けると助かります」
「はい……そう言えば、そちらの木下さんは捜査協力者なんですよね。まだ十代なのに、凄いですね。早期の解決、期待しています」
小鳥遊さんがそう言うと、秀一郎さんは無言で頭を下げた。
「それでは、私はこの周辺を散歩しに行こうとしていた所なので、失礼します」
そう挨拶すると、小鳥遊さんも姿を消した。
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「そうだな」
そして、私達は会議室に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます