真夏の悪夢7

 翌朝、私と花音さんがホテルのレストランで朝食を取っていると、私のスマホが鳴った。岡崎君からだった。

「はい、小川。……え!?……わかった、すぐ行く」

 私がスマホをバッグに仕舞うと、花音さんが問い掛けてきた。

「どうしたんですか?小川さん」

「それが……桜田小春さんが、自室で亡くなっているのが発見されたって……」

「え……!!」

「今、現場検証しているそうです。花音さん、一緒に来ますか?」

「はい」

 私と花音さんは、急いで現場に向かった。


 桜田さんの部屋に入ると、異様な光景が広がっていた。Tシャツ、スカート、ストッキング等、様々な衣類が切り裂かれ床に散らばっている。そして、その衣類にはどれも血が付いているようだ。私達が眉根を寄せながらその光景を眺めていると、岡崎君が声を掛けてきた。

「お、二人共来たか」

「状況は?」

 私が聞くと、岡崎君は手帳を見ながら答えた。


「今朝七時頃、中根みのりさんがこの部屋を訪ねた所、ノックをしても返事が無かったらしい。不安になった中根さんがフロントに行って部屋の鍵を開けてもらった所、床に倒れて亡くなっている桜田さんを発見したそうだ。ちなみに、今朝は劇団員皆で今後の公演について相談をする予定だったそうだが、桜田さんが姿を現さなかった為、中根さんが部屋まで呼びに来たらしい」

「凶器は?」

「部屋にあった金属製の置物で頭を殴られたらしい。血痕が付いた置物が落ちていたから、被害者の血液と照合中だ」

 四谷さんが殺害された時は、劇の小道具であるスカーフが凶器だった。元々現場にあった物を凶器にしているという事は、どちらも計画性のない犯行だろうか。


「死亡推定時刻は、昨夜の十時頃から今朝の二時頃の間。これから事情聴取をする予定だ」

「そう……花音さん、事情聴取に立ち会いますか?」

「はい、お願いします」


 事情聴取でまず会議室に呼ばれたのは、第一発見者の中根さん。彼女は、少し疲れた様子で岡崎君の質問に答えた。

「昨夜の十時頃から今朝の二時頃ですか……。自室で台本を読んだ後寝ましたが、証人はいません。……どうして桜田さんまで……少し性格のキツい人だったけど、殺される程の事をするようには見えなかったのですが……」

「桜田さんと特に仲良くしていらした方はどなたでしょう?」

 岡崎君が聞くと、中根さんは考え込むような表情で言った。

「さあ……桜田さんは、砂川さんの事をライバル視していましたから、砂川さんや彼女と仲良くしていた大野君とは、プライベートではあまり話していなかったようですし……。ああ、でも、最近は団長と二人きりで何かを話し込んでいる姿を時々見かけましたね」

「桜田さんと四谷さんが二人きりで……ですか……」

 岡崎君は、そう呟くと手帳にペンを走らせた。


 その後も個別に事情聴取が行われたが、死亡推定時刻が夜中なだけに、またもや完全なアリバイのある方はいなかった。大野さん、砂川さん、小鳥遊さんはそれぞれ自室で寝ていたとの事だ。


「また捜査に行き詰ってしまったな……。小川と木下さん、気付いた事は?」

 事情聴取が終わった後岡崎君が聞いてきたが、私と花音さんは首を横に振る。

「……そうか。動機の面からコツコツ調べていくか……」

 そう言って、岡崎君は溜息を吐いた。

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