(特別編)動画メッセージの謎3

 約一時間後、私達四人はあるマンションを訪れていた。そのマンションには、現在七十二歳の誠二が住んでいる。


 マンションの一室の前でインターホンを鳴らすと、「はい」という女性の声が聞こえる。私が名前や用件を言うと、すぐにドアが開いた。目の前に現れたのは、五十代くらいの女性。黒髪をショートカットにした、綺麗な女性だ。薄いピンク色のワンピースが良く似合っている。彼女は、私が用件を言うとすぐに中に入れてくれた。


 リビングに通され灰色のソファに腰掛けると、すぐに誠二氏が入って来た。髪はほとんど白くなっているが、清潔に整えられている。誠二氏は今も現役で仕事をしているが、土曜日の今日は休みらしい。御厨さんはソファから立ち上がり、改めて自己紹介をした。花音さんの紹介をすると、誠二氏は目を丸くした。

「いやあ、捜査協力者がいらっしゃるとは聞いていましたが、こんな可愛らしい女の子とは……」

「四人も押しかけて申し訳ないですが、ご協力お願いします」

 御厨さんは、そう言った後ソファに座り直し質問を始めた。


「……確かに彼から手紙を貰いましたが、『大切な人の命を奪って申し訳ない』『一生をかけて償いたい』といったような事が書かれているだけで、事件の細かい流れを窺わせるような内容は無かったですね」

 御厨さんから手紙の内容について聞かれた誠二氏は、何かを思い出す様に視線を宙に彷徨わせながら言った。

「お前も手紙読んだよな?特に事件の詳しい事は書いてなかったよな?」

 誠二氏が隣に座る女性を見ながら言うと、その女性は頷いて答えた。

「ええ、何も詳しい経緯は書かれていなかったですね」

 彼女は、先程玄関でドアを開けてくれた女性だ。誠二氏の後妻で真由美さんというらしい。今は専業主婦だが、以前は看護師をしていたと聞いている。


「……手紙を受け取ったのは一度だけなんですよね?」

 私の質問に、誠二氏は頷いた。

「ええ、事件が起こった一か月後くらいに一度だけ。もしかしたら、裁判での情状酌量を狙ったのかもしれませんが」

「……手紙を貰っても、事件での悲しみや怒りはどうしようもないですよね……」

 私は、目を伏せて呟いた。

「ええ、本当に……事件の前日まで、普通に智香子達と話をしていたのに……」

「あなた、智香子さん達を大事にしていたものね……。事件の前日だって、料理を手伝って右手に怪我をしたんでしょう?」

 真由美さんが口を挟んだ。

「そんな事もあったな」

 誠二氏は、苦笑した。


「奥様は昔からご主人とお知り合いだったんですか?」

私が訪ねると、真由美さんは頷いた。

「ええ、この人がまだ二十代の頃、MRとして私の勤務する病院を訪ねたのがきっかけで知り合ったんです」

 MRとは、製薬会社に勤務する医薬情報担当者の事で、医師や薬剤師等に薬の有効性等の情報を伝えたりする業種だそうだ。奥さんは続けて言う。

「この人は几帳面な性格で、医師とアポイントメントを取ったら必ず五分前に病院を訪ねてきていましたね」

 その後も私達は誠二氏に事件について尋ねたが、何も収穫は無かった。しかし、それは当然の事だとも思えた。事件のあった日、誠二氏は会社で事件の知らせを受け、自宅に駆け付けた時には大勢の警官が捜査していたのだから。

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