消えない絆3
衝撃の展開がありながらも、私達は捜査を続けた。捜査二日目の今日も、私と御厨さんは大学病院の関係者やら瀬尾教授の友人やらに話を聞いたが、何も収穫は無かった。
そして、私が昼に捜査一課の部屋でお弁当を食べていると、デスクの電話が鳴った。
「はい、小川」
「相談窓口の栗橋です。あの……大学教授が殺害された件で、話したいという方がいらっしゃるのですが、電話をお繋ぎしても宜しいでしょうか?」
「はい、お願いします」
数秒機械音が流れた後、頼りなげな男性の声が聞こえてきた。
「あの……俺、岸本良平です……。瀬尾先生の患者だった……」
「ああ……こんにちは、良平さん。どうなさいました?」
「俺の母親……岸本厚子が、もしかしたら疑われてるんじゃないかと思って……百パーセントのアリバイじゃないけど、少なくとも午後十一時頃は、母は家に居ました……証明できます」
話を聞くと、良平さんはその時間帯、自分の部屋でゲームの実況配信をしていたらしい。そして配信中、厚子さんの声が流れてしまったとの事。
「……生配信だから、アリバイになると思って……刑事さん、母は瀬尾先生に文句を言っていたかもしれないけど、人を殺すような人じゃないんです。でも、身内の俺の言葉じゃ信じてくれない事も分かってて……ああ、もう、何を言ってるのか自分でも分からなくなったな。……とにかく、よろしくお願いします!動画サイトで『ブルースコーピオン』の名で検索すれば出てくるはずなので」
そう言って、良平さんは電話を切った。
急いで昼食を終え、ノートパソコンで検索してみる。すると、『ブルースコーピオン』という配信者が、午後十時半頃から十一時半頃までゲームの実況配信をしていた事が分かった。これが良平さんか。
動画を再生してみると、ブルースコーピオンがゲームの面白さを話しながら順調にゲームを進めていく姿が目に映った。ちなみに彼は、素顔がバレないように戦隊もののヒーローのような仮面を着けている。
そして問題の午後十一時頃、画面から「りょうちゃーん、いつまで起きてるのー、寝なさーい」という声が流れた。厚子さんの声だろう。
良平さんは、「う、うるさい、引っ込んでろ!」と狼狽えた声を出す。チャットの欄には、『りょうちゃんだって、ウケる』『早く寝ましょうねー、りょうちゃん』といった言葉が流れている。
私は、笑いをこらえながら動画をストップした。
そして、先程の良平さんの頼りなげな声を思い出す。良平さんは、あまり他人と会話するのが得意では無いようだ。それでも、こうやって警察に電話を掛けてきた。画面の中では強がっていても、やはり母親を大切に思っているのだ。
そして夕方、私、御厨さん、花音さん、堀江さんの四人は、会議室に集まった。
「捜査が進展しませんね」
私は、溜め息を吐いて言った。
「とりあえず、今まで集まった情報を整理しよう」
そう言って、御厨さんは捜査資料やらメモ帳やらを机に広げ始めた。四人集まってそれらを見直す。
「ん?御厨君と小川君は、瀬尾教授のところの助手にも話を聞いていたのか。知らなかったな」
あるメモを見て、秀一郎さんが言葉を発した。
「ああ、そう言えば、お二人には話していなかったですね。でも、大した話は聞けなかったですよ。瀬尾教授が禁煙を始めたとか、昼に教授室の模様替えをしたとか、ついでに掃除をしたとか……」
更に詳しく話す私の言葉を聞いて、秀一郎さんは目を見開いた。
「……犯人がわかった」
秀一郎さんの言葉に、今度は私が目を見開いた。
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