十六年目の真実4

 秀一郎さんの推理を聞いた数日後の朝、私は御厨さんの自宅マンションまで来ていた。インターホンを押して名前を告げると、御厨さんが出てきた。出勤の支度をしていた途中のようで、ネクタイは締めていないが一応スーツを着ている。

「どうした?」

「事件の真相がわかりました。……今回の事件についても、十六年前の事件についても」

御厨さんが目を瞠った。


「これから、逮捕に向かいます。一緒に行きませんか?」

「……いいのか?」

「はい。課長を脅し……説得したので、大丈夫です」

「……二分待ってくれ、準備する。……小川」

「はい」

「恩に着る」


 私達を乗せた警察車両は、池田隆行の自宅前で停まった。そう、彼が犯人だ。

 彼が他の捜査員達に連行されて玄関から出てきた。ふと隣を見た私はぎょっとした。御厨さんは懐から拳銃を出し、池田の方に銃口を向けていた。

「ひっ」

池田が声を上げたが、銃弾が飛び出す事は無かった。よく出来たモデルガンだった。

「誰が殺すか、馬鹿野郎」

御厨さんが、小さな声で吐き捨てた。


 翌日、会議室には私、御厨さん、花音さん、堀江先生がいた。

「今回も、秀一郎さんのおかげで事件が解決しました。ありがとうございました」

御厨さんが礼を言う。

「いや、私だけでは解決出来なかった。小川君のおかげだよ」

花音さんは今、秀一郎さんモードだ。


 秀一郎さんは、池田が紬さんの左腕に注射の痕があったと知っていた為、十六年前の事件の犯人が池田ではないかと思った。十六年前、腕に注射痕があったとは報道されたが、左腕だとは報道されていなかった。

 そして、今回の事件の動機が十六年前の事件の真相を隠す為なら、今回の事件の犯人も池田という事になる。


 私が事件解決に貢献したというのは、由香里さんの殺害現場に落ちていたアルパカの縫いぐるみに録音機能があると伝えた事を指している。

 池田は事件当日、昼休みに学校を抜け出し、由香里さんの自宅に向かった。由香里さんに呼び出されたからだ。由香里さんは何か思うところがあったのか、アルパカの録音機能を起動させてから池田を招き入れた。

 由香里さんを刺し、池田が逃走した後、由香里さんは朦朧としながらもまだ意識があり、アルパカの録音を終了にしたと思われる。起動したままだと変に壊れると思ったのかもしれない。

 秀一郎さんの推理を聞いてからアルパカを調べると、録音した音声を聞くことが出来た。

「先生、出頭してください。紬を殺したの、先生なんでしょう?先生が言わないなら、私が……」

「待ってくれ!」

といったような会話が残されていた。


 池田は昔、何と麻薬の密売で小遣い稼ぎをしていたようで、バーに入り浸っていた由香里さんは、薄々その事に気付いていた。しかし、池田を尊敬していた由香里さんはその事を警察に伝えていなかった。

 そして、由香里さんを連れ戻す為に何度かバーに来ていた紬さんも、何かのきっかけでその事に気付き、池田に自首するよう勧めた。

 池田は密売の事実が露見しないよう、紬さんを亡き者にした。紬さんが麻薬を使用していたように見せかけて。


「しかし、池田をモデルガンで脅すだけに留めるとは。喫茶店で由香里さんの話を聞いた時も、彼女を責める事をしなかったようだし、君は大人だな」

「あなたよりは子供ですよ」

秀一郎さんと御厨さんが呑気に話をしている。あの場には私と御厨さんの他にも警官がいたから、モデルガンの事を無かった事に出来るか、私は冷や冷やしていたのに。


「……本当に、ありがとうございました」

御厨さんが、穏やかな表情で私達三人を見回した。

 お姉さんを失った悲しみは消えないけれど、少しでも御厨さんの心が救われるといいなと、私は思った。

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