十六年目の真実3

 昼食を取った後、私達三人は、また会議室に集まった。

「小川さん、真相、わかりそうですか?」

堀江先生が聞いた。

「……いえ、今回の事件も十六年前の事件も、今の所全く真相がわかりません」

私は、正直に答えた。そして、おずおずと花音さんに聞いた。

「……あの、花音さんは、どうですか……?」

「交代してみます」

 そう言うと、花音さんの目つきが変わった。彼女は机に肘を付き、両手の指を絡めた。秀一郎さんの人格になったらしい。


「……犯人の目星はついている。後は証拠だな」

 もう目星がついているのか。

「もう一度、捜査資料を見直してみよう。何かひらめくかもしれない」

 捜査資料を見直していた秀一郎さんが、ふと呟いた。

「しかし、亡くなった由香里さんとやらは、随分縫いぐるみが好きだったようだね。遺体の側にもいくつも落ちているし。……しかし、棚から落ちたにしては不自然な落ち方をしているようだ」

「そう言えば、そうですね。何か事件解決のヒントになるんでしょうか。……落ちているのは犬、猫、ウサギ、そしてアルパカの縫いぐるみ……。あ、知ってます?この縫いぐるみって……」

 続けて言った私の言葉を聞いて、秀一郎さんは目を見開き、その後ゆっくりと口角を上げた。

「……証拠が見つかるかもしれない」


 その日の夜、御厨圭介は自宅のベッドに横になりながら昔の事を思い出していた。

 圭介は小学生の頃は気が弱く、よく同級生に虐められていた。夕方圭介が自室で泣いていると、姉の紬が部屋に入って来た。

「圭介、また虐められたの?」

 圭介より二歳年上の紬は、眉根を寄せながら言った。

「……ほっといてよ。どうせ、『そんな事でどうするの、立ち向かいなさい!』とか言うんだろ?」

 姉は強気な性格だ。きっと自分を叱るのだろう。そう思っていた圭介だが、返って来たのは意外な言葉だった。

「んな事言わないわよ。別に泣いたっていいし、逃げたっていい。でも、虐められたのなら、私に言いなさい。私があんたの代わりに虐めた奴をやっつけてあげる」

 そう言うと、紬はニカっと笑った。


 今から思うと、姉に頼り過ぎるのもどうなのかと思う。でも、あの時の紬の言葉は嬉しかった。優しくて強い姉だった。


 そんな姉が殺された。本当は自らの手で犯人を罰したい。八つ裂きにしてやりたい。でも、それは叶わない。

 それなら、せめて犯人が逮捕されるよう祈ろう。小川はまだ未熟だが、真面目だし、意外と観察力がある。捜査協力者の木下花音も類まれな推理力を持っている。きっと、大丈夫だ。

 そう思いながら、圭介は寝返りを打った。

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