ノーマルな日常2

 カーテンの隙間からあたる日差しで目を覚ますとそこはリビングだった。そういえば昨日はタバコを吸った後は、シャワーも浴びずにそのまま寝てしまったのだ。


 というかこのままじゃヤバイ。今日はお得意様が融資について、プレゼンがある日だ。

 とにかくこのままだといろいろヤバイ。シャワーだけ浴びて銀行に行こう。






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「おはようございます」


 銀行内の職員にあいさつして今日の準備をしようとデスクに向かう。


「おはようございます。今日はいつもより遅いですね。どうしたんですか?」


「おはよう。ちょっと寝坊しちゃってね。」


「そうなんですか!?今日ってあのいつも来る女性ですよね?間に合ってよかったですね」


「あー、そうそうみやびさんね。あの人目が鋭くてなんか圧迫感あるんだよ」


「わかります。以前見かけたことがあったんですけど、怖すぎて直視できなかったんですよね」


 お得意様の雅さんは仕事をする上での理想の人という感じでバリバリのキャリアウーマンだ。顔は美人でスタイルも整っており身長もあるため威圧感はあるのだが、これまで接してきて別に悪い人ではなかった。

 そういえば雅さんの苗字は「八雲」だ。もしかして隣の八雲さんのご家族かなんかかな。

 そんなわけないのだがなぜか今まで気にも留めなかったことがすごく気になってきた。




 時刻は5:30を過ぎたころだ。融資の話もまとまり今日の業務も終わったので家路についた。




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 エレベーターで自分が住んでいる階まで移動し、部屋の前まで来た。昨日とは違い今日は八雲さんとは合わなかった。

 朝は忙しくていろいろ考えてる暇はなかっけれど普通に考えてあの八雲さんと一緒に煙草を吸えるわけがない。きっと昨日は疲れてリビングで寝落ちして夢を見ていたのだろう。


 部屋に入り電気をつけリビングに向かった。リビングに入るとかすかに漂う重い煙の臭いと、机の上のライター。この二つが昨日のことを確かに裏付けしてくれた。




 それよりライターを借りっぱなしだった。多分八雲さんのことだ予備はあるだろうが、返したほうがいいだろう。

 そう思い帰宅したままの姿でもう一度玄関を開けて隣の部屋へ向かった。


 「ピンポーン」と、呼び鈴を鳴らし、ほどなくしたらけだるそうな声が聞こえた。


「はい、」


「あのー、昨日貸してもらったライターを返しに来たのですが。」


「あー、君か。ちょっと待っててもらえるかい?」


「わかりました」




 ほどなくして、八雲さんはタバコを片手に、いつも通りラフな格好で、いつもとは違い眼鏡をかけて出てきた。


「お待たせ。えっと、それでライターのことだよね?」


「はい。昨日貸してもらってそのままにしていたので、さすがに返したほうがいいとおもいまして」


「うーん、もうたばこは吸わないの?」


「機会があったらですかね」


「じゃあさ、私が機会つくるから一緒にタバコ吸わない?毎日一人では寂しいからさ。どう?」


「・・・わかりました。帰ってきて余裕があったら一緒に吸いましょう」


「ありがと。あと、そのライターは吸うときに使っていいよ。返さなくていいから。じゃ、ベランダで。」


「いや、あの。ちょっ」


 「バタンッ」とドアは閉まってしまった。俺たばこ持ってないのにこの後ベランダで一緒に吸うことになってしまった。


 そんなことより、八雲さんと吸う約束をしたのは、なにもタバコの味を覚えたからではない。タバコの味はよくわからなかった。ただ、煙が肺を侵食していくのは感じられた。それにお金だってかかる。

 だが、八雲さんとの二人の時間という部分にひかれた。


 一緒に過ごす時間が増えれば八雲さんの謎も少しは解けるのではないか?自分自身の、この胸のざわつきも理解できるのではないか?

 そういう思いから八雲さんの案にのかった。それだけだった。






 急いで近場のコンビニに行き人生で初めてタバコを買った。買ったのはもちろん八雲さんのと同じ、12mgのマルボロだ。


 近いとはいえ一度外に出ていたのでさすがに八雲さんでも、もう吸ってないかなと思いながら、ベランダに向かった。カーテンを開ければ部屋の明かりに照らされた煙がうっすらと見えた。


「お待たせしました。すみません今までタバコ吸ってこなくて。買いに行ってたんですよ」


 すると、八雲さんは目を白黒させながらまるで当たり前かのようにこう言った。


「タバコ吸ったことないのは昨日の様子見ればわかるよ。結構むせてたしね。というか、こっちが誘ったんだからタバコくらいこっちで用意するのに」


「いえ、その誘いを受けたのは自分なんで。それにライターだけでなくタバコまではもらいすぎですから」


「律儀だね」


「普通ですよ。このくらい」


「そっか」


 八雲さんはそう言ってこちらに一瞥もくれず曇った空を見上げた。




「じゃあ、自分はそろそろ寝ますね。明日も早いので」


「そっか、おやすみ」


「では、おやすみなさい」


 そう言って部屋に戻った。シャワーを浴びて、インスタントのラーメンを食べて眠りについた。


 少し開いたカーテンからは月が見えていた。




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どうも「ガウテン」です。


タバコっておいしいのかよくわからないですね。






では、また。

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