11章 新しい出会い、アキラ見参!
春の陽気が心地よい中、キサラ、タクミ、ミナミの三人組は、いつものように仲良く下校していた。
中学二年生になった彼らは、変わらぬ友情で結ばれていた。
「ねえねえ、キサラ。今度の週末、新しくオープンしたカフェに行かない?」
ミナミが明るい声で提案する。
「いいね! ボク、甘いもの大好きだから!」
キサラは目を輝かせて答える。
「お前な、女の子モードのときしか甘いもの食べないくせに」
タクミがからかうように言う。
「えー、だって男の子のときに甘いもの食べるとみんなに笑われちゃうんだもん。そーゆー男女差別、キサラは良くないと思うなー」
キサラは頬を膨らませる。
そんな何気ない会話を楽しみながら歩いていると、突然、真剣な表情の男の子が彼らに向かって走ってきた。フレームの薄い眼鏡をかけ、知的な印象を与える少年だ。制服のバッジから、一年生だとわかる。
少年はキサラの前まで走ってくると、いきなりそこに土下座をした。
「キサラ先輩、お願いです! 僕に女の子のすべてを教えてください!」
「「はあああぁぁぁっ!?」」
タクミとミナミは驚愕の声を上げる。
「女の子のすべてって、まさか……」
タクミはわなわなと震えながらつぶやく。
「ち、ちょっと待って! いきなり何言ってるの!? キサラはあんたには渡さないからね!」
ミナミも頬を紅潮させながら叫ぶ。
一方、キサラはというと、状況が飲み込めずにポカンとしている。それでも無邪気な表情は相変わらず可愛い。
「あっ、すいません、言葉足らずでした! キサラ先輩、お願いです! 僕を女の子にしてください!」
少年は慌てて訂正する。
「「はあああぁぁぁっ!?」」
再びタクミとミナミの再び驚きの声が上がる。
土下座を続ける少年の意図が掴めず、タクミとミナミは困惑した表情で顔を見合わせる。
「ちょっと待って。話が見えないんだけど」
タクミが少年の肩に手を置いて、立ち上がるように促す。
「まずはお前が誰なのか教えてくれ」
立ち上がった少年を見て、ミナミがふと首を傾げる。
「あれ? あなた、もしかして……ネットで見たことある、あの有名な歌舞伎役者の息子さんじゃないの!?」
ミナミが興奮気味に尋ねる。
「「えええっ!?」」
今度はキサラとタクミが驚く番だ。
少年は観念したように肩を落とし、ゆっくりと話し始めた。
「はい、その通りです。僕は歌舞伎役者・十代目
「雪華咲家って、歌舞伎界で代々名だたる
ミナミの目が異様に輝く。
「そうなんです。だからこそ、僕も家の跡を継いで一流の女形になりたいんです。でも……」
アキラは言葉を詰まらせる。
「でも?」
タクミが促す。
「僕には二人の弟がいて、その二人はもう見事に女形の技を習得して舞台に立っているんです。対する僕は、長男でありながら未だに女形としての才能を開花できずにいます。父からは『お前には才能がない』と言われ、舞台に立つことすら許されていないんです……」
アキラの瞳が潤み、握りしめた手の甲に涙がこぼれ落ちる。
「だからキサラ先輩に、女の子になる
必死に訴えるアキラに、キサラも戸惑いを隠せない。
「う~ん、女の子になる術って言われても、ボク、別に何か特別なことをしているわけじゃないからぁ~」
「そうだよ。キサラは自然体で女の子にも男の子にもなれるんだ。誰かに教わったわけじゃない」
タクミが補足する。
まあ、そもそもキサラは男でも女でも別にどっちでもいい……というか変わらないって感じでいるけど。
「第一、女形は女性を演じるのではなく男性から見た理想の異性を演じるんだから、キサラから女の子を学ぶのは筋違いな気がするわ」
ミナミが冷静に分析する。どこぞの芸能評論家のような口ぶりだ。
ショックを受けたようにうなだれるアキラ。
しかしミナミは、彼の肩に優しく手を置いた。
「アキラくん。あなたは本当に女形になりたいの? それとも、単に弟たちに負けたくないだけなのかしら?」
「え……?」
アキラが顔を上げる。
「女形になるのが本当の夢なら、他ならぬあなた自身の言葉で、お父さんにその思いを伝えるべきだと思うの。自分の人生だから、自分で切り拓いていかなきゃ」
ミナミの言葉に、アキラの瞳が輝きを取り戻していく。
「ミナミ先輩……そうですね、僕、もう一度父と向き合ってみます!」
「そうだね。アキラくんの夢なら、きっと叶うよ」
キサラも微笑む。
「俺たちも応援してるからな」
タクミがアキラの背中を叩く。
「キサラ先輩、タクミ先輩、ミナミ先輩……ありがとうございます!」
アキラは涙を拭うと、力強く頷き、駆けていった。
「大丈夫かな、アキラくん」
キサラがちょっぴり心配そうに呟く。
「平気さ、アキラならきっと大丈夫。あの目を見ればわかるよ。アキラは自分の人生をちゃんと切り拓いていけるはずだ」
タクミは空を見上げながら言う。
「そうね。私たちにできるのは、アキラくんを信じて見守ることだけだけど、それが何より大切なのかもしれない」
ミナミも優しい表情で頷く。
三人は、遠くへと消えていくアキラの背中を見送った。彼の夢が叶うことを、心から願いながら。
こうして、新たな仲間・アキラとの出会いを経験した三人。
彼らの日常は、また一つ、色づいていくのだった。
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