9章 - 輝きの瞬間II ―キサラ、自分らしさを歌う―

 アンコールの声が鳴り止まない中、ステージが再び暗転する。観客の期待が高まる中、一筋のスポットライトが中央に差し、そこにキサラの姿が浮かび上がる。


 会場からどよめきが起こる。

 キサラの姿が、先ほどまでの真っ赤なドレス姿から一変していたからだ。


 学校の男女の制服を巧みに組み合わせたユニークな衣装。

 濃紺のジャケットに白シャツ、そしてプリーツスカート。

 その姿は、キサラの中性的な魅力を存分に引き出していた。


 キサラがゆっくりと顔を上げる。その瞳には、強い決意の光が宿っている。


♪誰かの期待に 応えようとして

  本当の自分を 見失いそうになった♪


 柔らかく、しかし力強い歌声が会場に響き渡る。

 巨大スクリーンには、キサラの表情のクローズアップが映し出される。


♪男の子? 女の子?

  そんなの関係ない

  大切なのは この心♪


 歌に合わせて、キサラがゆっくりと歩き出す。

 スカートのプリーツが優雅に揺れ、その姿は男女の境界を超越した美しさを放っている。


♪誰かと比べて 落ち込んだ日々も

  きっと意味があった 今の僕を作るため♪


 ステージ上にダンサーたちが現れ、キサラを中心に華麗な群舞が始まる。

 男性ダンサーと女性ダンサーが入り混じり、性別の境界を超えた美しい調和を生み出している。


♪ボクはボクらしく

  君は君らしく

  それでいいんだよ♪


 サビに入ると、キサラの動きが一気に大胆になる。

 ターンを決めながら、ジャケットを脱ぎ捨てる。

 中から現れたのは、キラキラと輝くベスト。

 男性的な要素と女性的な要素が絶妙なバランスで融合している。


 スクリーンには、キサラの笑顔のアップと共に、観客一人一人の表情が次々と映し出される。驚き、感動、共感……様々な感情が交錯する中、キサラの歌声が全ての心を一つに繋いでいく。


♪もう迷わない

  これが僕なんだ

  男でも女でもない 唯一無二の存在♪


 キサラが高く跳躍し、空中でターンを決める。ステージ上から、様々な色のリボンが舞い散る。それぞれが個性を表現しているかのよう。


♪みんな違うって そんなの当たり前

  その違いこそが 宝物♪


 曲がクライマックスに差し掛かる。キサラの動きが更に激しくなり、汗が光を受けてキラキラと輝く。その姿は、まるで宝石のよう。


♪さあ、手を取り合って

  新しい世界へ

  ボクたちだけの 物語を紡ごう♪


 最後の高音で、キサラが両手を大きく広げる。

 その瞬間、会場の照明が一斉に極彩色に点灯し、観客全員の姿が浮かび上がる。


 歌が終わると、一瞬の静寂が訪れる。そして、割れんばかりの拍手が沸き起こる。


 キサラは深く息を整えながら、マイクを握る。


「みんな、ありがとう!」


 キサラの声に、会場が静まり返る。


「ボクね、男の子の時も、女の子の時も、歌うことが大好きなんだ。だって、ボクはボクだからね!」


 観客の目に、涙が光る。


「男の子だろうと、女の子だろうと、関係ないよ! ボクはボク、キサラだよ!」


 キサラの力強い宣言に、会場から大きな歓声が上がる。


「みんなも、自分らしく生きてほしい。それが一番素敵なんだ。ありがとう!」


 キサラが深々とお辞儀をすると、会場は割れんばかりの拍手に包まれる。


 ステージ袖では、タクミとミナミが感動の涙を流している。二人は駆け出し、キサラの元へ。


 三人が抱き合う姿が、巨大スクリーンに映し出される。その瞬間、会場の熱気は最高潮に達した。


 キサラ、タクミ、ミナミ。三人三様の個性が輝きながら、しかし強く結びついている。その姿は、まさに多様性の象徴のようだった。


 この日、キサラは単なるアイドルを超えた存在になった。自分らしさを貫き、多くの人々に勇気と希望を与える、新しい時代のアイコンとして。


 ステージの幕が下りても、キサラの歌声と言葉は、観客一人一人の心に深く刻まれ続けるだろう。これは終わりではなく、新しい物語の始まりなのだ。

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