3章 - ドキドキ★ 試着室の危険な秘密


 放課後、キサラ、ミナミ、タクミの三人は街へ買い物に出かけた。

 キサラが女の子が着るものをなにひとつ持っていないと知ったミナミが、

「そんなの女として絶対許せないわ! 絶対ダメ! 今すぐ買いに行くわよ!」

 と言って放課後ショッピングが決定したのだった。

 春の陽気に誘われるように、街は賑わっていた。

「わぁ~! 可愛い服がいっぱい!」

 女の子のキサラ(※でも服は男子の制服のまま)は、ショーウィンドウに飾られた春物の服を見て目を輝かせた。

 その姿は、まるで宝石箱を見つけた子供のよう。

「キサラったら、本当に女の子みたいね」

 ミナミは呆れたような、でもちょっと嬉しそうな目でキサラを見つめた。

「えへへ、だってミナミちゃんと一緒にお買い物できるなんて楽しいんだもん♪」

 キサラは無邪気に笑いながら、ミナミの手を取った。

「おい、二人とも……」

 タクミは少し困ったような表情を浮かべていた。

 街中で手を繋ぐ二人の姿に、周囲の視線が集まっているのが少し気になったのだ。

「じゃあタクミも一緒に来て~」

 キサラは、もう片方の手でタクミの腕を引っ張った。

「わっ! ちょっと、キサラ……」

 三人は連れだってお店の中に入っていた。

 キサラは早速目を輝かせながら、次々と服を手に取っていく。

「キサラ、落ち着いて。全部は買えないわよ」

 ミナミが呆れたように言うが、その目には優しさが溢れている。

「えへへ、わかってるよ~。でも、どれも可愛くて選べないよ~」

 キサラは無邪気に笑う。

 その笑顔が眩しくて、タクミは思わず目を逸らしてしまう。

「あ! これ、絶対試着したい!」

 キサラが手に取ったのは、パステルピンクのブラウス。

 胸元には小さな花の刺繍が施されていた。

「おっけー。じゃあ、試着室行こうか」

 ミナミが優しく促す。

「うん! ミナミちゃんも一緒に来てよ」

 キサラはミナミの手を引いて、試着室へと向かう。

「お、おい、おまえら……」

 タクミが慌てて声を上げるが、二人はすでに試着室のカーテンを閉めてしまっていた。 試着室の中では、キサラとミナミが楽しそうにおしゃべりしながら服を試着していた。

「ねえねえ、ミナミちゃん。このブラウス、胸のところがきついんだけど……」

 キサラが困ったように言う。

「ほんとだ……あ、キサラもしかして、ブラジャーつけてないの?」

 ミナミが驚いた声で尋ねる。

「え? ブラジャー? って何?」

 キサラの無邪気な質問に、ミナミは一瞬言葉を失う。

「まあ……キサラは男の子の時が多いから、知らなくても当然よね」

 ミナミは深呼吸をして、優しく説明を始める。

「ブラジャーは、女の子が胸を支えるために付ける下着よ。今のキサラには、必要かもしれないわね」

「へぇ~、そうなんだ! じゃあ、付けてみたい!」

 キサラの目が輝く。

「わかったわ。じゃあ、一緒に選んであげる」

 ミナミたちは試着室を出て、ブラジャーのコーナーへ向かう。

 タクミは複雑な表情でおそるおそる二人の後をついていく。

 ほどなくして、ミナミが可愛らしいピンクのブラジャーを選んで持ってきた。

「はい、キサラ。これを試してみて」

「わぁ、可愛い! でも……どうやって付けるの?」

 キサラが首を傾げる。

「大丈夫、教えてあげるわ」

 二人はまた試着室に入ってカーテンを閉めた。タクミは正しく蚊帳の外だ。

 ミナミは優しく微笑みながら、キサラにブラジャーの付け方を説明し始める。

「まず、カップの部分におっぱいを入れるの……って、キサラ、思ってたよりおっきい!」

「そうなの?」

「そうよ! (……なによ、あたしより大きいじゃない、ぐぬぬ……) これはもうワンサイズ上の方がいいわね……じゃあ、はい、これ」

「ありがとう! あ、これなら入りそう!」

 キサラは真剣な表情で、ミナミの指示に従う。

「次に、後ろのホックを留めるんだけど……これが少し難しいかもしれないわ」

「うーん、確かに難しいー……」

 キサラが苦戦している様子を見て、ミナミは後ろに回り、優しくホックを留めてあげる。

「こうよ。慣れれば自分でもできるようになるわ」

「ありがとう、ミナミちゃん!」

 キサラが嬉しそうに言う。その笑顔に、ミナミの頬が少し赤くなる。

「次は、ストラップを調整するのよ。肩に食い込まないように、でも緩すぎないように……」

 ミナミの細やかな指導に、キサラは真剣に聞き入っている。

「最後に、前かがみになって、胸をカップの中で整えるの。これで完璧よ」

「わぁ~! すごい、ミナミちゃん! とっても詳しいね」

 キサラが感心したように言う。

「ま、まあ……これでも一応、女の子だからね」

 ミナミは少し照れくさそうに答える。

「ねえねえ、タクミ! 見てみて、ブラジャー付けたよ! 初めて!」

 突然、キサラが試着室のカーテンを開ける。

「ちょっ、キサラ、お前、それブラじゃ……!」

 タクミの目の前には、可愛らしいピンクのブラジャー姿のキサラが立っていた。レースがあしらわれた繊細なデザインのブラジャーは、キサラの柔らかな曲線を優しく包み込んでいる。

「えへへ、可愛いでしょ♪」

 キサラは無邪気に笑いながら、くるりと一回転した。

「ちょっとキサラ! いきなり開けないでよ、あたしまだ着替えてる最中なのよ!」

 ミナミの慌てた声が聞こえる。

 タクミのそちらに視線が移ると、ミナミは慌てて手ブラで胸を隠していた。

「あ、ごめんごめん♪」

 キサラは何も気にしていない様子で、むしろ楽しんでいるかのようだった。

 タクミは真っ赤な顔で目を逸らそうとするが、キサラの声が引き止める。

「ねえー、タクミちゃんとこっち見てよ、見てってばー!」

 キサラは嬉しそうに胸を張り、タクミの方に体を寄せてきた。

「ば、バカ! 早く試着室のカーテン閉めろよ、キサラ!」

 タクミは慌てて叫ぶと、自ら試着室のカーテンを閉めた。

 カーテンの向こうから、キサラの楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 この騒動に、店員さんが心配そうに近づいてくる。

 ミナミが慌てて状況を説明し、なんとか収まったが、二人の頬はまだ赤いままだった。

「もう……キサラったら」

 ミナミが呆れたように言うが、その目にはやはり愛情が溢れている。

 キサラはどうにも憎めないのだ。

「ごめんごめん。でも、嬉しくって……」

 キサラは照れくさそうにほっぺを掻く。

「まあ……キサラらしいよ」

 タクミも、少し落ち着いた様子で言う。

「じゃあ、いよいよ他の服の試着をしよっかな~♪」

 キサラは嬉しそうに言うと、また新しい服を手に取り始めた。

 タクミとミナミは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。これからも、キサラのペースに振り回される日々が続きそうだ。でも、それはきっと楽しい毎日になるに違いない。

 三人の買い物は、まだまだ続いていくのだった。

 この日の出来事は、三人の心に深く刻まれた。キサラの無邪気さ、ミナミの優しさ、タクミの照れ屋な一面。それぞれの個性が交じり合い、かけがえのない思い出となったのだ。

 そして、キサラにとっては「女の子」としての新しい一歩。これからも、様々な経験を重ねながら、キサラは自分らしさを探していくのだろう。タクミとミナミは、そんなキサラをこれからも見守り続けていく。


 三人の絆は、この日をきっかけに、さらに深まったのだった。

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