2章 - 揺れる心、響く歌声 ~キサラの輝きに包まれて~
教室に差し込む陽光が、窓際の席に座るキサラの美しい髪を優しく照らしていた。春の柔らかな風が、カーテンをゆるやかに揺らす。
「はぁ~、お昼ごはんおいしかったなぁ」
キサラは満足そうに伸びをしながら、隣の席のミナミに向かって笑顔を向けた。
「キサラったら、いつも食べることばっかり考えてるんだから」
ミナミは呆れたような表情を浮かべながらも、その瞳には優しさが溢れていた。
「だってぇ、美味しいものを食べるのは人生の楽しみなんだもん!」
キサラが屈託のない笑顔で言うと、ミナミは思わず吹き出してしまった。
その時、教室の後ろの席からタクミの声が聞こえてきた。
「おい、キサラ。次の授業、音楽だぞ。譜面持ってきたか?」
「えっ!?」
キサラは慌てて机の中を探り始めた。
「あれ~? どこいっちゃったんだろ?」
「もう、キサラったら。ほら、これ貸してあげるから」
ミナミが自分の譜面を差し出すと、キサラは嬉しそうに飛びついた。
「わぁい! ミナミちゃん大好き~!」
突然抱きつかれたミナミは、顔を赤らめながらも嬉しそうな表情を浮かべた。
「ちょっと、キサラ! 人前でそんなことするなよ」
タクミが慌てて二人を引き離そうとする。
「えー? なんで? ミナミちゃんが可愛いから抱きしめたくなっちゃったんだもん」
キサラが無邪気に言うと、タクミとミナミの顔がみるみる赤くなっていった。
「お、おい……」
タクミが言葉に詰まっていると、チャイムが鳴り響いた。
「あ! 音楽の時間だ!」
キサラは元気よく立ち上がると、ミナミの手を引いて教室を飛び出していった。タクミは慌てて二人の後を追いかける。
音楽室に到着すると、すでに多くのクラスメイトが席に着いていた。キサラは楽しそうに歌の練習をしている友達に手を振る。
「みんな~! 今日も楽しく歌おうね~!」
キサラの明るい声に、クラスメイトたちも笑顔で応える。
音楽教師の藤原先生が教室に入ってくると、生徒たちは一斉に席に着いた。
「はい、みなさん。今日は新しい曲の練習をしましょう」
藤原先生がピアノの前に立ち、生徒たちに向かって微笑んだ。
「では、まずは模範演奏を聴いてください」
藤原先生がピアノを弾き始めると、教室に美しいメロディーが響き渡る。キサラは目を輝かせながら、その音色に聴き入っていた。
演奏が終わると、藤原先生は生徒たちに向かって問いかけた。
「さて、誰か先生の後に続いて歌ってみたい人はいますか?」
教室が静まり返る中、キサラが勢いよく手を挙げた。
「はい! ボクがやります!」
「そうですか、キサラくん。では、前に出てきてください」
キサラは元気よく立ち上がると、クラスメイトたちの視線を浴びながら教室の前方へ歩み出た。
「準備はいいですか?」
藤原先生の問いかけに、キサラは力強くうなずく。
ピアノの音が鳴り始めると、キサラは目を閉じ、深呼吸をした。そして、歌い始めた。
♪春風そよぐ丘の上で
僕らは夢を語り合う
明日への希望を胸に抱いて
どこまでも続く青空の下……♪
キサラの透き通るような歌声が教室中に響き渡る。
その美しい声に、クラスメイトたちは息を呑んで聴き入っていた。
タクミとミナミは、キサラの姿を見つめながら、胸がキュンとなるのを感じていた。
♪友情の絆で結ばれた
僕たちの心は一つ
どんな困難が待ち受けても
乗り越えていける 君となら……♪
歌が終わると、教室は一瞬の静寂に包まれた。そして次の瞬間、大きな拍手が沸き起こった。
「すごい! キサラちゃん、素敵な歌声!」
「まるでプロの歌手みたいだよ!」
クラスメイトたちの称賛の声が飛び交う中、キサラは照れくさそうにほっぺをかく。
「えへへ、ありがとう。みんなと一緒に歌えて楽しかったよ」
藤原先生も感動した様子で、キサラの肩を優しく叩いた。
「キサラくん、素晴らしい歌声でした。君の歌には人の心を動かす力がありますね」
キサラは嬉しそうに微笑んだ。
「先生、ありがとうございます。ボク、もっともっと上手くなりたいです!」
「その意気よ、キサラくん。これからも頑張って練習しましょうね」
キサラが席に戻ると、タクミとミナミが待っていた。
「すごかったぞ、キサラ」
タクミが真剣な表情で言った。
「本当に素敵な歌声だったわ」
ミナミも目を輝かせながら付け加えた。
キサラは二人の言葉に、心から嬉しそうな表情を浮かべた。
「ありがとう、タクミ、ミナミ。二人がいてくれるから、ボク、頑張れるんだ」
三人は互いに微笑み合い、そこにはかけがえのない絆が感じられた。
授業が終わり、昼休みになった。
キサラは廊下を歩きながら、さっきの歌を口ずさんでいた。
「キサラ、ちょっといいか?」
突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには同じクラスの男子生徒、岩清水が立っていた。
「どうしたの、岩清水くん?」
キサラが笑顔で尋ねると、佐藤は少し困ったような、怒ったような表情を浮かべた。
「あのさ……さっきの音楽の時間のこと、なんだけど……」
「うん?」
「お前さ、なんで女の子みたいな声で歌ってんだよ? 気持ち悪いんだけど」
岩清水の言葉に、キサラの表情が曇った。
「え……でも、ボクはただ……」
「いいから、もう少し男らしく歌えよ。あとみんな気ぃ使って言わないけど、お前のこと陰で変な目で見てるぞ」
岩清水はそう言い残すと、さっさと立ち去ってしまった。
キサラは一人、廊下に立ち尽くしていた。
「キサラ!」
後ろから声がして、振り返るとタクミとミナミが駆けつけてきた。
「大丈夫か? 岩清水が何か言ってたみたいだけど……」
タクミが心配そうに尋ねる。
「う、うん……大丈夫……」
キサラは無理に笑顔を作ろうとしたが、それは不自然なものになった。。
「キサラ……」
ミナミが優しくキサラの手を握る。
「気にしないで。何を言われたか知らないけど、キサラの歌声は素敵よ。みんなそう思ってるわ」
「そうだぞ、キサラ。佐藤のやつ、なんか言ってきたら俺が……」
タクミが拳を握りしめる。
「ありがとう、二人とも」
キサラは涙を拭いながら、小さく微笑んだ。
「でも……ボク、やっぱり変なのか…….」
「そんなことないわ!」
ミナミが強く言い返す。
「キサラは キサラよ。男の子だろうが女の子だろうが関係ない。キサラの歌声は、みんなを幸せにする力があるの」
「そうだぞ」
タクミも頷く。
「お前の歌声は、俺たちの宝物だ。なんなら特別天然記念物に指定したっていい!」
キサラは二人の言葉に、少しずつ元気を取り戻していった。
「ありがとう…….二人がいてくれて本当に良かった……」
キサラが笑顔を見せると、タクミとミナミも安堵の表情を浮かべた。
「さあ、お昼ご飯食べに行こう!」
ミナミが明るく言うと、キサラも元気よく頷いた。
「うん! 今日のお弁当、楽しみだな~」
三人は肩を寄せ合いながら、笑顔で階段を下りていった。
その日の帰り道、夕陽に染まる空の下を歩きながら、キサラは小さな声で歌い始めた。
♪僕は僕のままで
歌いたい歌を歌うよ
大切な人たちと共に
明日への道を歩んでいく……♪
タクミとミナミは、キサラの横で静かに微笑んでいた。
三人の心には、これからも変わらぬ絆で結ばれていくという確かな思いが芽生えていた。
夕暮れの街並みを背景に、三人の姿が優しく溶け込んでいく。
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