キサラとミナミとタクミの絆 ~性別なんて関係ない!~
藍埜佑(あいのたすく)
1章 - 新しい学校、新しい始まり
春の朝日が差し込む中、キサラ、タクミ、ミナミの三人は、中学校への初登校に胸を躍らせていた。
「わあ、ミナミちゃん! 制服、とっても似合ってるよ! 可愛い~!」
キサラが目を輝かせる。
「ありがとう、キサラ。あなたの制服もって……えっ?」
ミナミは目を丸くした。
キサラは男子の制服を着ているが、明らかにサイズが大きすぎる。
ブレザーの袖が長すぎて、手のひらの半分が隠れてしまっている。
「キサラ、その制服、大丈夫なのか?」
タクミが心配そうに尋ねる。
「うん、問題ないよ! パパとママがわざわざ海外から送ってくれたんだ。ちょっと大きいけど、これでいいんだ!」
キサラは屈託なく笑う。
「「ふ、ふーん……」」
おじさんとおばさんは一体何を考えているんだろう……タクミとミナミは同時に同じことを考えた。
まあ、ちょっとだぶだぶで可愛いっちゃ可愛いんだけど……。
ともあれ、学校に向かって歩き出す三人。
キサラはタクミとミナミの間を楽しそうに歩いている。
「ねえねえ、二人とも。中学校生活って楽しみだよね!」
キサラが弾むような声で言う。
「ああ、勉強に部活に、色々あるからな」
タクミが頷く。
「私、吹奏楽部に入ろうかなって思ってるの。キサラは?」
ミナミが微笑みながら尋ねる。
「キサラはねー、どうっしよっかなぁー……わわっ!?」
キサラが小さく叫び声を上げた。
小石につまずいた拍子に大きくバランスを崩し、体が前のめりに傾く。
地面に顔を打ちつけるのは時間の問題だ。キサラは目を閉じ、痛みに身構えた。
しかし、予想された痛みは訪れない。
代わりに、キサラの体を力強く支える腕の感触があった。
「キサラ、大丈夫か?」
タクミの心配そうな声がする。キサラは目を開けた。
タクミがキサラを抱き留めていた。
そのたくましい腕に抱かれ、キサラはタクミの胸に顔を埋める。
鼓動が聞こえる。タクミの心臓の音だ。まるで安心させるように、リズミカルに脈打っている。
「タ、タクミ……」
キサラが顔を上げる。タクミの瞳が、優しくキサラを見下ろしていた。
その瞬間、キサラの体が煌めき始めた。
「「!?」」
まるで魔法少女アニメの変身シーンのように、キサラの体が光に包まれる。
風が巻き起こり、キサラの髪が舞い上がった。
キラキラと輝く光の粒子が、キサラの周りを踊る。
「キサラが……変身してる……!」
ミナミが息を呑む。
光が収まると、そこにいたのは、女の子のキサラだった。
美しい髪が風になびき、優雅に揺れている。
顔の造形は同じなのに、さっきまでの男の子の面影はない。
もともとキサラは中性的でよく女の子にも間違えられていた。
しかし今はまるで、魔法をかけられたかのように、キサラは本当に美しい女の子に変身したのだ。
「キサラ、お前……」
タクミが驚きに目を見開く。
「タクミ、ありがとう。助けてくれて……」
キサラはタクミに微笑みかける。その笑顔は、まるで天使のようだった。
「あ、ああ、ど、どういたしまして……?」
タクミは思わず赤面してしまう。
初対面か! いや、ある意味確かに初対面ではあるんだけど。
キサラはブレザーのボタンが締まらず、胸元が少しはだけている。幸いなことに(?)だぼだぼの制服のおかげ胸がすべて露出するようなことはなかった。
ズボンの裾から少しだけ見えるのはすらりと伸びる白い脚。まるで別人のようだ。
「キサラ、お前……」
タクミが震える声で言う。
「あれ? 知らなかった? ボク今までも、結構女の子になったり男の子になったりしてたんだよ。なんかドキドキするとなっちゃうみたい★」
キサラは平然と言う。
「えっ!? そ、それって……」
ミナミが絶句する。
「まさか、第二次性徴が来たから、私たちがやっと気づいたってこと!?」
ミナミが叫ぶ。
「それより問題なのは、俺たちが今までキサラのそういうことに全然気づいてなかったってことだよ! 幼馴染なのに!」
タクミがツッコミを入れる。
「だって男の子でも女の子でもキサラってば可愛いんだもーん☆」
キサラが無邪気に笑う。
「そういう事言ってんじゃねえよ!」
タクミが思わずツッコミを入れた。
「別にいーじゃなーい、よっと!」
キサラはタクミに近づき、その腕にしがみつく。
柔らかな胸が、タクミの腕に押し当てられる。
「ねー、なんで逃げるの、タクミ? ちゃんとお手々つなごうよー?」
キサラが妙に甘えてくる。
「や、やめろ、キサラ! お前、む、胸が! おっぱいが当たってるから!」
タクミが真っ赤になって叫ぶ。
ミナミは二人のやり取りを見て、複雑な表情を浮かべる。
(女の子になっても、キサラってば全然変わんない……)
そう思うと同時に、ミナミの心臓は早鐘を打っていた。
「でもキサラ、綺麗……」
「ほらほら、このペースだと学校に遅れるぜ!」
照れ隠しにタクミが二人を急かす。
「あ、そうだね! よーし、今日から中学生だーわーい!」
キサラは元気よく声を上げ、再び歩き出した。タクミとミナミも慌ててそれに続く。
キサラにはまだ小学生の面影が残っている。
でも、その歩く姿は、少しだけ大人びて見えた。
男の子から女の子へ。女の子から男の子へ。
変化し続けるキサラと、その変化を受け入れる二人の親友。
彼らの中学校生活は、今日から始まるのだった。
季節は春。新しい学校、新しい生活、新しい自分。
キサラ、タクミ、ミナミの三人は、期待と不安を胸に、中学校の門をくぐった。
これから始まる、彼らの青春物語。
性別の垣根を越えた、三人の絆の物語。
それは、まだ誰も知らない、奇跡のような冒険の始まりだった。
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