2022年12月31日

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 クイールのライブへあなたが訪れたのと同じ年の同じ冬。しかし、その当日ではないことをあなたの服装が証明している。


 磯千鳥凪咲いそちどりなぎさとの初対面の日、あなたは学校帰りであり、制服姿だった。けれど、善行寺の山門をくぐるあなたは、着物に身を包んでいる。あたりはすっかり暗く、深夜と推察できるが、異常なまでに混雑している。


 善行寺、着物、人混み、夜。そして、その日付は大晦日だった。


 長野には、年跨ぎの夜に「一年間ありがとうございました」と「本年もよろしくお願いします」の参拝を同時に行う「二年参り」という文化がある。あなたは二年参りのため、善行寺を訪れているわけだ。それ自体は、決して不自然でない。

しかし、違和感が残る。それは、あなたと磯千鳥凪咲が共にいる、という部分だ。


 だって、辻褄があわないだろう。この時のあなたは十七歳で、磯千鳥凪咲は二十六歳。十歳近くも年の違うあなたたちがライブハウスで出会ってから、たった数日後の出来事。昨今の少年マンガだって、ここまで早い展開はなかなか見ない。


 部活か勉強かバイトか恋か。青春時代で獲得できるのは、その内の二つのみで、あなたは恋と恋を選び取った。そこに間違いはない。あなたの青春は間違っていない。


 しかしだ。二人は年の離れた姉妹のようで、あるいは保護者と子供のようで、まさか恋人同士には見えない。たとえばホテルに戻ったあとで、ベッドの上、素肌と素肌を重ねる関係性だとは、とうてい思えない。



 どうしても思えないのだ────私には、とても。



 二人の間に会話は無かった。いいや、正しく言えば、会話は記録されていなかった。


 着物姿で歩くあなたの背中が映された二分十七秒間の映像。


 それが、磯千鳥凪咲のスマートフォンに残された、最古のあなたの姿だった。

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