第28話 幽霊狩り

「思ったより多いな」

 

 結界の貼られた森林に潜む数十体の幽霊を前に俺は呟く。

 

「今の時期はお盆が近いのもあって、祟魔が多くなるのは当然だろう。さっさと片付けるぞ」

 

 夜宵が身の丈サイズの大鎌を出現させ、指を鳴らす。すると、青い炎が大鎌の刃に纏わりついた。彼女の祓式は大鎌に炎を纏わせることで、生命や物質の死までの回数が視えるというもの。本人の話だと纏った炎は熱くはないが、炎症効果もあるらしい。


「で、これを投げればいいのか?」

 

 斜め前のちゅうじんが大量のヨーヨーを片手に訊いてきた。

 

「えぇ。今回の祟魔はそんなに強くないですから、通用すると思いますよ」

「分かったぞ!」

 

 ジュリアが祓式の矛を手に出現させながら返す。

 彼女の言った通り、数は多い分、強さの方は大したことなさそうだ。こいつらを始末した分だけ報酬が貰えるんなら安い。

 全員の準備が整ったところで、俺たちは一斉に駆け出した。真っ先にジュリアが矛で白装束の幽霊を貫いていく。今回は祓った分だけ報酬金額が増える。俺も負けじと襲い掛かってくる幽霊に斬撃を与える。夜宵も大鎌を振り回して敵を一掃。

 

「そらよっ!」

 

 輪投げでは最下位だったちゅうじんもヨーヨーを着実に幽霊へ当てており、風船が割れると同時に水が掛かって消滅していく。

 

「お、ちゃんと祓えたぞ!」

 

 ヨーヨーでもちゃんと祓えることが判明し、ちゅうじんは嬉しそうな声を上げる。はしゃぐちゅうじんの背後に迫っていた幽霊の首を落とし、俺は刀を払う。

 

「どんどん来るからじゃんじゃん投げろ~。今回は早いもの勝ちだからな」

「おう!」


 ちゅうじんは右手にヨーヨー、左手に光線銃の二刀流で次々と祟魔を祓っていく。一方、俺は祓式で足を強化。木と木の間を駆け抜けながら歯向かってくる幽霊を斬り捨てる。

 

「これはアタシも負けてられませんね!」

 

 掃討スピートを上げたちゅうじんと俺に感化されたのか、ジュリアは自身の周囲に十数本の矛を出現させる。彼女が手を上から下に振り下ろすと同時に、矛は1本残らず周りにいた幽霊へ突き刺さっていく。

 

「あいつら、うちの管轄領域で好き勝手やりやがって……」

 

 少々不満げな夜宵はそう言い放つと、手を真上に上げた。すると、青い炎が現れみるみる大きくなっていく。

 

 ヤバい、怒らせた……。

 

 目の前の光景に自分の顔が青ざめる。俺はすぐに刀を仕舞い、その場を退こうと踵を返す。


「全員退避だ! 丸焦げになっても知らんぞ!」

「あわわわ……! すいません調子乗りました!」


 血相を変えたジュリアは慌てて矛を消し、隅の方へ走る。周りの代報者たちも退く中、ちゅうじんが目をキラキラさせて球体上に膨れ上がる炎を見ていた。

 

「おぉ~! あれが噂の元〇玉か⁉」

「にしては元気ありすぎだろ。もうメラメラ燃えちゃってるよ。じゃなくて、早く逃げるぞ!」


 ちゅうじんの浴衣の襟を掴んで、俺もジュリアたちの元へ急ぐ。全員退避し終わったところで、夜宵が森林にいた祟魔目掛けて炎を放つ。恐れをなした幽霊たちが逃げようとするも、あえなく炎に焼かれて消滅していった。

 

「森林内に祟魔の気配はなし。これで討伐完了ですね」

「はー、すっきりした」

「こっちはヒヤヒヤもんだっての」

 

 ぐっと伸びをする夜宵に呆れながらツッコむ。そっちは日々のストレスを発散できたのかもしれんが、こっちは危うく死にかけるところだった。どうか夜宵様には金輪際、このような真似はしないでいただきたい。

 

「動いたらお腹空いたな。帰りにコンビニ寄っていこうぜ」

「お、良いですね」

「どんだけ食うんだよお前らは」

 

 ちゅうじんとジュリアの発言に口角を引き攣らせていると、花火の上がる音が見晴台の方から響いた。空を見上げてみると、絶え間なく夜空に色とりどり花火が上がっていく。火薬の匂いが鼻を掠める中、ちゅうじんは初めて見る花火に興奮気味。ジュリアと夜宵も笑みを浮かべながら眺めている。最近は仕事で忙しかったからこういうのは久々だな……。感傷に浸りつつ、花火が打ち上がる様子を見ること5分。最後の一発が上がり切ったところで、夜宵が俺たちに向けて口を開く。

 

「報酬の方は後日振り込まれるだろうから、また確認しておいてくれ」

「了解。それじゃあ帰りますか」

「だな」


 報酬も手に入れることができたし、花火も見られたから一石二鳥。明日からまた仕事ってのが悔やまれるが、仕方ない。夜宵に武器を返却して、俺とちゅうじん、ジュリアは伏瀬大社を後にした。




☆あとがき

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