第13話 厄介ごとも突然やってくる

「てか、なんで俺がいるって知ってるんだ?」

「あぁ、ちょうど外事課の高瀬さんから連絡受けてな。せっかくやし、手伝ってもらうことになったんよ」

「ほーん」


 要は最初から良いように利用されてたってわけか。あの大家め……。せっかくの休日なのに面倒事に巻き込みやがって。次会ったら、しばき倒してやろう。


「で、その問題ってのはなんだ?」

 

 俺が問いかけると、海希は人差し指を立てながら話し始める。

 

「5年前に御所内の石碑の封印が解けて、結界が貼り直されたんは知っとるやろ?」

「あぁ」

「……何だよそれ?」

 

 隣で話を聞いていたちゅうじんが不思議そうに首を傾げる。

 俺は当時その件に関わっていたから知っているが、当然4月に地球へ来たばかりのちゅうじんは知らない。この際だから、ちゅうじんも話しておいたほうがいいだろう。ということで、俺と海希とで過去に起こったことを説明をする。


「簡単に言うたら、5年前にも葵祭があったんやけど、その数週間前に六条御息所を封印しとった石碑が脆なってしもて、周囲に貼っとった結界が破られたんよ」

「六条御息所ってこのパンフレットに出てくる生霊ってやつか?」


 ちゅうじんは持っていたパンフレットを開けて、「葵祭と六条御息所」のページを指さした。そこには源氏物語の中でも有名な車争いと六条御息所のその後について描かれている。

 六条御息所は葵祭を見るための場所取りで、光源氏の正室・葵上に負けて悔しい思いをさせられ、その恨みで生霊と化した女性だ。

 海希はちゅうじんの問いかけに頷きつつ、続きを話す。

 

「で、六条御息所が女人役の1人に取り憑いて、当時斎王代やった女性を襲ったんよ。幸いにもその場に居た俺と多田を含めた代報者が祓ったから怪我は無かったんやけど、六条御息所が消えた今も石碑に瘴気が纏わりついとってな。ほんで今、その石碑を守っとった結界が何者かに破られて、石碑から瘴気が漏れ出とるんよ。やから破ったやつを俺らが探してんねん」

「……なるほどな。大体の事情は分かったぞ!」


 ちゅうじんは少し間を置いてから、返事をした。ここら辺の話はややこしいからな。これまでのことを鑑みても、ちゅうじんは偵察隊長だからか、状況を理解して適応するのが早いらしい。日本語も1週間でマスターしてたしな。ちゅうじんの適応能力には毎度驚かされる。


「けど、俺はともかくちゅうじんまで良いのか?」

「一応、高瀬さんから戦闘経験はあるって聞いてるし、ここの現場指揮官は俺や。なんかあった場合はちゃんと責任取る覚悟はできとるよ。で、ちゅうじん、実際のところはどうなん?」

 

 海希はそう言いながら、ちゅうじんの方を見る。


 確かに光線銃を所持してるあたり、ありそうなのはありそうだよな。座談会の時には的確に俺の方を狙ってきやがったし。偵察隊長なんて肩書持ってるんだ。一通りの訓練は受けてそうだが……。

 

「高瀬さんの言う通り、これでも偵察先で結構やり合ってるからな。戦闘に関しては慣れてるぞ。ほら、武器も持ってるし」

「そら心強いわ。ほな、石碑の方に案内するから着いてきてんか」

 

 ちゅうじんが懐から光線銃をチラッと見せる。おいおい、こいついつも携帯してるのかよ……。物騒だな。

 俺は呆気に取られながらも、席を立って海希の後をついていく。

 

 5分ほど歩いたところにある猿ヶ辻という場所に件の石碑はあった。本来は結界が貼られてるため、危険もなく観光名所として知られているのだが、今は結界の代わりに警備員が石碑の前に群がっていた。

 霊眼で結界を見てみると、見事に一部が破損しており、そこから瘴気が漏れ出ている。これは自然になった物じゃないだろう。現に、誰かが壊した痕跡があるし、海希によれば結界が破られる直前に爆発音が聞こえたらしいからな。

 

「こりゃ見事にやられてるな……」

「にしても、強力な結界を意図も簡単に破れるなんて何者なんでしょう……」

 

 夜宵とジュリアが破られた結界を見ながら呟く。確かにそうだ。少なくとも並大抵の人間に破れるものではないし、貼られた結界には強力な力が宿っている。到底、低級祟魔如きに破れるものではない。

 

「なんにしても葵祭が始まるまでに何とかせんとな。中止にする訳にはいかへんし」

「だな」

 

 海希の言葉に俺は頷く。中止となれば、ニュースになるのは間違いない。それに今年は両陛下も参列している。もし、両陛下の身に何か起これば、只ではすまないだろう。火種が大きくなる前に対処しないと、下手すりゃ首が跳ぶ。それだけは絶対にごめんだ。


「ちなみに結界が破られたのはいつ頃だ?」

「つい1時間前や」

「1時間前……。となると、もうここには居ないんじゃないか?」

 

 海希の回答に夜宵が反応する。だが、海希はその可能性は低いと話す。

 

「もうその時間帯には、警備の配置は完了してたからな。祟魔を含めた怪しい者は内側から出られへんように結界も貼っとる。抜け出すのは無理やろう」

「ならまだここにいるってことか……。って、それじゃあちゅうじんが出られないじゃないか」

「それに関してはちゅうじんが出るときだけ解除するから大丈夫や。てか、お前ちゅうじんのこと異常者やと思とんのか?」

「異常者というか異端者というか……。まぁどっちでも良いや」

「良いわけあるかコラ!」

 

 海希の問いに目を逸らしながら答えていたら、ちゅうじんが何処から持ってきたハリセンで後頭部をバシンッ! と叩いてきた。突然降ってきた痛みに頭を抑えていると、遠くの方から甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「何だ?」

「あっちの方からだぞ!」


 浮ついた空気が一変、周囲に緊張が走る。と、即座に場所を突き止めたちゅうじんが先走った。ストップをかけようにもあっという間に悲鳴の聞こえた場所へ行ってしまったので、俺たちは置いて行かれないよう、ちゅうじんの後を追いかける。

 葵祭開始まで後、30分。

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