小さなギルドの大きな救助隊

柴崎源太郎

プロローグ

剣士は、手に持った大剣を闇雲に振り回しつつ、魔法使いの呪文詠唱が終わるまでの時間稼ぎをしている。


しかしながら、手と足の異様に長いアウムは、ニタニタと彼らを嘲笑いながら、飛び跳ねていた。


バカにされている。


それでも二人は、一縷の望みにかけて命を燃やしていた。詠唱が最終節にさしかかった、その刹那、魔法使いのうなじに矢がささる。


それは貫通し、喉元から血潮が溢れはじめた。魔法使いは声を出そうと藻掻くも、気道に血液が流れ、不気味な音が鳴るばかりである。



剣士はその場にくずれおれた。もはや戦意なそ消えたのであろう。項垂れている。



そのとき、不意にアウムが騒ぎはじめた。剣士は勝利を喜んでいるものと考えていたが、どうやら様子がおかしい。むしろアウムの叫声が響く。


やおら顔をあげると、アウム特有の青い血が飛び散っている。


一人の男がアウムを斬りつけていたのだ。それも慣れた手付きで、一匹また一匹と殺してゆく。


袈裟斬りにすると、間もなく横へ薙いで胴体を切断、後ろから襲いかかるアウムを蹴り飛ばして……


すべてが流るる川の如く進んで、いつしか立っているのは、その男だけになっていた。


彼は腰の抜けている剣士に近寄ると「救助隊だ」と言った。


「一人で帰れるか」


剣士は安堵したのか、いきなり顔を紅潮させながら怒鳴り散らした。


理路整然としておらず、あちらこちらに飛んで分かりにくいけれども、つまるところは


「お前のせいで皆が死んだ、どうしてくれるんだ」ということであった。




冒険者ギルドには普通、救助隊というものが置かれている。


この物語の主人公であるルキーノも、救助隊の一人である。


彼らの主な任務は、帰らない人々の捜索ないし救助である。そのため部隊は精強な人々で構成されていなければならない。


しかし貧しい小さな街のギルドで、それは叶わない。加えて、救助隊はそもそも人気がない。


ドラゴンやら魔王やらを倒したならば絶大な名声を得られる冒険者、それを助ける仕事をするくらいなら冒険者になる。


あったりまえの話だ


そしていま目の前で起こっていることも、その一因である。


ようやくの思いで助けても、大抵の場合、このように罵られたり、時折は殴られるものもあるという。


理不尽な話ではあるが、しかし、助けるという状況が発生するには、ある人々が危機に瀕さねばならぬし、そういう折は誰かが死んでいても不思議はない。


かつ、この世界は連絡手段が少ない。救助部隊を呼ぶには現状、救援の狼煙をあげるか、魔法でギルドに助けを乞うか、それくらいのものである。


咄嗟の判断では、これらの方法も忘却の彼方に沈められてしまうケースが多い。


結果的に行くあてのない悲しさは、救助部隊に向かう。彼らの仕事のせいにしてしまえば楽である。



だから救助部隊に良い人材は集まらないのであった。



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小さなギルドの大きな救助隊 柴崎源太郎 @yutoka

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