第2話 運命?

「は……?」


 クロノは目をしばたたかせた。一体自分の身に何が起こったのだろうか。今の今まで彼女は登校中の朝の街中にいたはずだった。それが今はどうだろう。ここは一体どこなのだ。


 まず目に入ってきたのは大勢の兵士達……それも現代的な兵士ではない。中世風の鎧兜に身を固めた、何とも古風なロマン溢れる戦士達である。騎士というべきか。彼らもクロノを見て目を丸くしている。


 その向こうには、これまたテーマパークに建っていそうな(いや、それよりはもう少し武骨で堂々たる風格の)中世のお城がそびえ立ち、城壁がぐるりと巡っていた。すなわち、なぜかは解らないが、お城の中庭に立っていたのである。こんな場所に来るまでの記憶はまるで無い。


「一体何がどうなってんの……!?」


 クロノは困惑しつつも、すぐに自分の傍らに立つ男の子の姿を認めた。彼はなぜか全裸であった。それで、すぐに自分も一糸もまとわぬ素っ裸である事に気付いて、慌てて両足を閉じ、腕で胸を隠した。


 兵士達はというと、そんな彼女の様子を見て、ニヤつく者、驚愕の表情を浮かべている者、また何か有り難い神様でも見るような視線を向けて来る者……反応様々であった。そこへ……


「おお……我らが救世主よ、お待ちいたしておりましたわ。ようこそ我がエーテルランド王国へお越しくださいました」


 声を掛けられたのでそちらを向くと、そこに居たのはドレスに身を包み、頭にはティアラを戴いた、いかにも姫ですよといった姿の美しい乙女であった。


「あ、あんたが私らをこんな所に連れてきたの?」

「いいえ、あなた方を召喚したのはこちらの宮廷魔導師ハリオストラで……」


 見ると、大きな杖を持ってゆったりとしたローブを身にまとった女性がいた。いかにも魔法使いといった雰囲気で、落ち着いた大人の雰囲気の美人。ちなみにローブの上からでも判る大ぶりな胸元。クロノのそれよりも大きいかと思われる。姫は続ける。


「……申し遅れました。私はフェリザベータ、我がエーテルランド王国第一王女にして摂政の宮です」


 摂政とは王や女王が幼少や高齢、もしくは病気などでまともに政務が執れない場合に補佐する役目だが、クロノと少年にはそんな事は知った事ではなかった。


「あ、あの……」


 ここで少年が初めて口を開いた。


「召喚って、何で僕らを……?」

「そこに疑問を持たれるのは当然でしょうね。ご説明いたしましょう……」


 王女フェリザベータは話し始めた。


「話せば長い事ながら、なるべく手短に申し上げましょう……実は今、我がエーテルランドは危機に見舞われているのです。隣国ガロディア帝国との戦争がもう一年も続いていて、戦況は一進一退、あちらの都市を奪ったと思ったら、こちらの要塞を落とされ……といった具合でして……」

「へえ……それは大変な状況ですね」

「けど何でそれで私らが救世主なのよ? 勇者にしか抜けない聖剣で悪の魔王を打ち倒せとか言うんならともかく、国同士の戦争なんて、そんなのアンタらが頑張って何とかしてよ。私ら関係無いじゃん」

「まあ、話を聞いてくださいよ……」


 話の腰を折られたフェリザベータは気を取り直して続ける。


「……私達も戦争の一日も早い終結を望んではいるんです。前線の兵や民達の苦しみを思うと胸が痛みます。あと単純に戦いが長引くと、最終的に国力の劣る我が国が負けるのは目に見えてますし……」

「確かにそうでしょうね」

「……そこで思い切った賭けに出る事にしたのです。兵力・国力を一挙に投入し、現状打開・起死回生の大攻勢に出ようと……」

「へえ……思いきったじゃん」

「……で、作戦決行前に神官を呼んで戦いの神に神託を問いました。その神のお告げによるとですね……異界より召喚せし生け贄を戦いの前に天に捧げれば、我が軍の勝利は間違いない……との事でした」

「「……っ!?」」


 それを聞いたクロノと少年は硬直した。とんでもない。何で突然召喚された世界の縁もゆかりも無い国のために犠牲にならなければならないのだ。


「作戦決行は明日。儀式は明朝に執り行います。それまではあなた方の身柄は丁重に扱わせていただきます。兵達にも指一本触れさせはいたしませんから、どうぞご安心くださいませ」


 そう言って微笑むフェリザベータ。クロノと少年は青くなって顔を見合わせる。冗談じゃない。突然見ず知らずの世界に召喚され、しかも明日の朝までの命だなんて……。

 一言も発しなかったが二人の心は一致していた。こんな運命到底受け入れられる訳がない。何としてでも明日の朝までにここから脱出する手立てを考えるのだ。

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