黄金の都にて
第143話 黄金の都の大武丸 一
黄金の都、
ここは帝の祖に縁深い場所である。
建物、道、並ぶ品物、あるいは空と大地に木々までもが黄金で出来たこの土地で帝の祖は生まれ、育ち、危機に陥った際には避難をし力を蓄えたという伝説が残っている。
そもそも帝の祖は、当時力を持っていた『朝廷』という組織を形成する二つの高貴なる血筋、その片方の出自であった。
九男坊であったことから『九郎』という名のみがかろうじて伝わっており、本当の名は厳重に隠され、現代には伝わっていない。
名を伝えぬことでの神格化を企図したものであり、ただ単に『帝の祖』ということにすることによって、その威光と力を後世の帝にも背負わせるという──クサナギ大陸においても実際の力を持っているかどうか疑わしい、
彼の出身は御三家である。父祖の
とくれば、帝の祖のゆかりの地である黄金の都の景色はさぞかし特別に映る──
というわけもなく。
(
という感想であった。
かなり真っ直ぐ、相当なペースで進みはしたのだが、どうしても徒歩であるのと、主に
何より時間がかかったのは関東平野を抜ける時だ。
巨人どもの脅威はひょんなことからなくなったものの、関東すべてすなわち平野、そして巨人どもが住まう土地であったので、途中に宿場がない。
それゆえにあらかじめ補給し東北まで一気に渡らざるを得ず、整備されていないただひたすら広い土地を進むというのは、逆に素人には難しかったようで……
太陽の位置などで方向を確認したり、シナツの加護を利用して上空から確認したりもしたのだが、奇妙に迷い、時間を食ってしまった。
加えて現実で言う福島県あたりから、クサナギ大陸の様子ががらりと変わるのも、平泉までの足が遅くなった理由である。
クサナギ大陸、帝のおわす
かつて、
この乱は東北全土を妖怪どもが練り歩き、打ちこわし、蹂躙し、東北から人間の一切合切を追い出そうとしたという、妖怪と人間との生存競争であった。
この生存競争は最終的に人間側が勝利し、妖怪どもは『とある場所』に封じ込められた。
しかし妖怪どもの残した爪痕は深かった。
東北地方はあらゆる場所に『妖怪どもが封じ込められたとある場所』に続く穴が空いてしまう。
妖怪本体が出られるほど大きい穴ではないが、そこから流れ出る妖怪の神威が、時空をゆがめたり、不思議な現象を起こしたりするのだ。
また、百鬼夜行にかかわったすべての妖怪を閉じ込められたわけではなく、そもそも妖怪のすべてが百鬼夜行にかかわったというわけでもないので、封印を免れて潜み活動する妖怪も多い。
クサナギ大陸東ルートから入る東北の入口たる福島。そこだけでも代表的な妖怪関連の騒ぎとして『福島桃園』『会津全土一切合切スキー場』『なんだか奇妙に猫まみれ通り』『爆走する赤べこの群れ』『雪中南国スパリゾート』に『メヒカリ』などが存在する。
また黄金の都に近付くにつれて『迷い家』『座敷童』などのメジャーな妖怪が影響を及ぼすようになっていき、次元は歪むし道は迷うし不思議な家が次々に道端にポップするし道中に住宅販売営業の幼女がダース単位で出てくるなどの怪奇現象が頻発するのだ。
この妖怪というのはようするに妖魔のことである。
ただ関東平野で文化の分断が起こっており、平野以南では『妖魔』、以北では『妖怪』と呼ぶことが多いのだ。
そういった数々の怪奇現象を乗り越えているうちに、出発から数えて
そうしてたどり着いた黄金の都を進んでいく。
黄金の都は芸術家たちの聖地とも呼ばれていた。
無限に発生する黄金を求め、黄金関連の細工師たちがまずは集った。
そうして腕のいい細工師がたくさんいるということで多くの商人がこの土地に注目し、そういった商人の目に留まろうと他の分野の細工師や芸術家たちも集い、一大芸術都市が形成された、というわけだ。
この土地に黄金を発生させているのが『藤原黄金林檎』というマテリアルであり、巨大な神威の塊とされるそれの正体は諸説ある。
神器の一つであるとか、異界の生物の心臓であるとか……ひどい話だと『狸の金玉である』といったものまであった。
その『藤原黄金林檎』のすぐそばに、目指す細工師の
「……なるほど、これが『藤原黄金林檎』の力か」
進んでいくにつれ、だんだんと、人の気配がなくなっていく。
『藤原黄金林檎』。
あらゆる物体を金に変えてしまう波動を常に出し続けている。
この黄金の都の入口付近はまだ『やや黄金混じりのものが多い』程度であったが、進むにつれてあらゆるものの黄金含有率が上がっていき、ここまで来るともう、木々も大地も空も区別なく、一塊、一度溶かして一切合切癒着させたような、それぞれの境目のない黄金と化していた。
そしてこの『藤原黄金林檎』だが、生物も黄金に変える。
このぐらいの深度になると鳥や虫などが黄金と化して地面に落ちているのも見受けられた。
当然ながら人間も例外ではなく黄金にされる。それを回避する方法はただ一つ。神威を巡らせて身を守ることのみである。
ただし『藤原黄金林檎』は神器ではないかという話さえ出るほどのマテリアル。通常の神威量では抵抗しきるのも難しく、織やサトコなどは途中までついてきたはいいが、すでに離脱せざるを得なくなってしまった。
梅雪が帯びている業物さえも、注意して神威で守っていないと黄金と化してしまう……
「……このような場所に住んでいるのが、大武丸、か」
いったいどのような外れた者なのか──
見た目とキャラクターについては知っているが、この平泉もまたゲーム的にはショップでしかなく、聖地扱いのようなものでもあるらしく、イベントはあっても攻め込むことはできない土地だった。
正しくは仕様上攻めることはできる。
だが、攻めると軍勢が黄金に変えられてしまうという強制イベントが発生し、戦いにさえならずに負けるのだ。
この現象をどうにかするために、平泉を支配するには藤原黄金林檎にまつわるイベントをどうにかしなければならない。
そこまでの力を持つ黄金林檎のすぐそばに
相当な変わり者には違いないが──
「……来客を値踏みでもしているつもりなのか。……面白い。だが勘違いするなよ。値踏みするのは貴様ではなく、この俺だ」
神威の防護をまといながら、進んでいく。
すると、すべてがどろどろに溶け合って一塊の黄金と化した場所の最奥、そこに表面が黄金となった庵があった。
間違いなく大武丸の工房である。
梅雪は神威で守った紹介状を握りしめ、黄金色の扉を叩く。
だが、返事はない。
よくあることだ。職人という連中は何かに没頭していたりすると、周囲の音が聞こえなくなる。
ゆえに梅雪、勝手に扉を開けて中へ入った。
すると、そこで見たものは……
「…………おいおい」
黄金となって不自然なポーズで停止する鬼。
その見た目、間違いなく大武丸。
黄金林檎の近くにあえて庵を構えていた細工師、なんのひねりもなく普通に黄金に変貌していた。
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