第139話 巨人の進撃 五
『異界の騎士』ルウは叫ぶ。
「おい小僧! こいつら、キリがないぞ!?」
すでにサトコも戦場に合流し、ルウを放っていた。
梅雪、単身駆けて来たゆえに仲間たちの合流が遅れていたのだ。
とはいえ、戦力として役立ちそうなのは、同行者にはサトコ(のボールの中身)のみ。それも、この状況で明らかに妖魔妖魔した妖魔を出して場をますます混乱させるわけにもいかないので、サトコが切れる手札はルウぐらいのものであった。
その代わりにたっぷりと
だが、その影から自然と軍勢が漏れ出すことはなく、意図して招こうとしてもできなかった。
このメカニズムはなんとなくの想像は及ぶところだが、正解はわからない。
ルウの分析では、『今、自分は死んでいる扱いであり、あの軍勢は生者の影からのみ出てくるものなので、出てこないのだろう』ぐらいのものである。
なので単身で巨人どもを相手取るしかないのだが……
「さすがにここまで終わりが見えないならば、撤退も視野に入ると思うが──っておい小僧! 待て! 敵陣に突っ込んで行くなァ!」
しかし高笑いを繰り返す梅雪、特殊なハイ状態になっているらしく、言葉が届いている様子がない。
ルウは舌打ちした。
「ああもう! わかった! 城壁の穴は私が庇う! もう貴様は好きなだけ暴れろ!」
いつもの苦労人仕草である。
さて梅雪、巨人どもの大軍を掘り進んでいく。
その様子は高笑いしながら踊り狂うように敵を凍らせ粉砕していくというもので、到底正気には見えない。
しかし、頭は不思議と冷えている。体と頭、別々の人物が動かしているかのような不可思議な感覚さえあり、肉体の熱狂とは裏腹に、頭脳は書見台に置いた書物に没頭するがごとく、冷静にして俯瞰的であった。
(確かに『終わり』が見えん。巨人どもは小食──というより、食事をとらないと言われているが、それにしても関東平野の面積にこれだけの巨人がひしめきあっていたという情報はない)
巨人。
ゲーム
そのデータは、『関東平野が平野になった原因であり、そこで生息し、滅多にそこから外に出ることはない』『集団行動はせず、たまに奇行を行う種が散発的に小田原城方面に攻め寄せるのみ』といった具合であった。
小田原城が抜かれる巨人の進撃イベントが起こったあと、軍勢となった巨人どもを主人公で倒すことによりイベントは終了。そうして小田原城ロボが味方になるのだが……
(巨人の軍勢、アタックするたびに兵力が最大値になっていたなァ?)
剣桜鬼譚はストラテジーゲームでもあるので、各陣営がいちいち徴兵などを行い、兵力回復を図る。
そうしないと兵力は削られたままであり、だからこそ主人公は複数回に分けてアタックすることで、だんだん相手兵力を削っていくという戦法も使えるのだが……
この『兵力が減るのみ』という条件に該当しないユニットも存在する。
たとえば『
連中は戦闘のたびに兵力上限最大までの
また、
これはその神威から『異界で倒した兵ども』が湧き出すという設定があり、兵力はそれでまかなう。
加えてクサナギ大陸への侵略者でもあるので、クサナギ大陸内で徴兵しても誰も応じないという、ようするに海神の信者と同じく、通常の手段で徴兵ができないという特性を持っている。
この二つのユニットの共通点は──
(なるほど、こいつら、神威生命体……なのか?)
海魔と、氾濫四天王の兵。ともに、指揮官の神威によって発現するといった共通点がある。
無限湧きというのはすなわちそういうことなのだろう、が……
しかし、巨人は生物である。
梅雪の目から見ても、連中はイノシシとかクマとかと同様に野生動物に見えた。
梅雪は記憶を探る。
他に兵力無限湧きユニットはいなかったか……
考えて、
「…………なるほど」
おぞましい記憶にたどり着いた。
剣桜鬼譚。
R-18ゲームである。
それゆえに、いるのだ。R-18要素。
モブ、時にはユニットでさえも、女性であるならばなんでも捕らえ……
兵力を生産させる生物が。
いわゆる触手要素、苗床要素。
ルートによってはボスになる異界生物の一種。
(つまり、巨人の湧き出て来る根幹たる方向、そこに『生産プラント』があるのか)
苗床要素の生産能力、当然ながら苗床化した生物の生態を完全無視する速度で生産させる。
そして本体に危機が迫ればその速度を上げるのだ。
(確かに巨人どもの姿、ナリが大きいが、苗床要素の生み出す『なりそこない』と共通する部分がある。生殖機能がなく、母体と似た姿で、しかしおぞましく違う生き物。生産プラントの周囲をうろついて警戒するだけという行動パターンも酷似している、か)
梅雪──
中の人がそういうの苦手すぎて、苗床要素の情報だけは片目を薄めにしてチラッと見ているだけであった。
NTRは平気で触手もまあ平気だが、触手NTRヒロインエネミー生産プラント化まで行くとダメというバランスの性癖である。
なんか生理的に無理で。特にヒロインが延々とエネミーを生まされ続けるというあたりの要素が……
(無限湧きする経験値──とはいえ、いつまでもここで足を止めて狩り続けるのもあまり効率的ではないな。そろそろ斬り飽きてきたところでもある。さっさとボスを倒してシメといきたいところだが……)
梅雪の肉体が進んでいる方向、たまたま、巨人どもが進んでくる方向と同一であった。
……否。思考と肉体が完璧に切り離されているようなこの状態ゆえに、思考が正解にたどり着く前に、肉体が正解を察し、そちらに向けて動いていた、ということでもあるのだろう。
自分の体そのものに動きを完全に任せるまま、俯瞰的に状況を見下ろし思考する……
梅雪が知れば渋面を浮かべるであろうが、それは剣聖シンコウと同じ状態であった。
(やはり、進むごとに敵の密度が上がる、か。
梅雪にとってこの戦い、あくまでも旅の途中のつまみ食いである。
凍蛇の初陣を飾るにふさわしい強度・数の敵が出てくるイベントではあった。だが、ここで全力を出し切るような戦いをするつもりはまったくない。
……剣聖にコピーされ昇華された神喰亜種を使うことができれば、もっと柔軟に力を出せるのだろう。
だが梅雪、あの技の逆輸入がまだ完了していない。あれは、恐らくシンコウであろうとも、神喰状態の梅雪とルウとが戦ってあたりの神威濃度が高まっていたからできたことではないだろうか?
まあ、見ていないあいだにさらに発展させられている可能性もあるが……
(手詰まりではないが、やや千日手めいてきたな。さて、状況を強烈に変える何かはないものか──)
梅雪の俯瞰的な視野は、その時、背後で起こる震動に注目した。
背後にも相変わらず巨人どもが大量にいる。
ルウなら押し付けてやれば勝手に守るだろうと思って置いてきたが、何か今のルウでは対処しきれない変化があってはまずいと思い、背後に視線を向けた。
そして、見た。
背後で立つ、巨人。
否──
巨大人型兵器。
四重に減った城壁を両腕、右脚、胴体にそれぞれつけ、二足で立つ巨人。
西洋兜を思わせるデザインの頭部に、三つの三角が合わさったような穂先を持つ超巨大槍を身に着けた、その、目にまばゆい黄金の巨体──
「ほォ……起動したか、超巨大対巨人用人型兵器、小田原城ロボ。……いや」
小田原城ロボというのは、プレイヤー間で使われていた俗称である。
ゲーム内での名称は、小田原城ロボではなく──
「──超兵器
黄金龍。
巨人の群れを薙ぎ払いながら、出撃。
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