第30話 帝都
昼はウメ、夜はアシュリーにべたべた……
否。ネトネトされながら、ようやく、
(長い旅路だった……)
騎兵に曳かせた
騎兵というのは馬車を曳きながらだと、たとえ忍者であっても悪路の走破性が低くなる。
それゆえに行商人の通る道を進まねばならず、距離的には遠回りの道を選ばねばならなかったのだ。
移動の際に最速なのは剣士がただ走ることであり、次点で、起伏があまりにも多ければ飛行できるタイプの道士が有利、平坦な道が続くようだと騎兵が有利──といったところか。
馬車は馬車室自体の走破性がどうしても悪いため、使うと遅くなる。
まあ、この旅路は、相手を多少焦らさないといけない都合上、わざわざ馬車で来る必要もあったのだが。
(長い、旅路だった……)
たった二日の外出で梅雪がいたく疲弊しているのは、何も領都から出た経験が乏しいからではないだろう。
馬車とかいう居心地最悪の振動する箱に乗っていたことは無関係ではなかろうが、もっとも梅雪を疲労させたものは、言ってしまえば人間関係である。
アシュリーとウメの間には、いさかいと呼べるほどのものはない。
だが、なんというか、互いに互いを『いないもの』として扱っているような、そういう様子があるのだ。
特に梅雪がどちらかを労ってどちらかを労い忘れると空気が地獄だった。
屋敷ではちょいちょい二人でいるところも目撃されているので、会話がないほど仲が悪いということもないはずだったけれど、どうにもこの旅路においては対抗心みたいなものが、二人の少女のあいだには火花を散らしていた。
この二人が相手でなければキレ散らかしていたところだが、梅雪は未だに『信頼してもいい相手』にどう接していいかわからないところがある。
彼は未だ十歳だが、無邪気に誰かを信用した記憶はとうに忘却の彼方であり、人を信頼する経験にももちろん乏しい。
いかな天才とはいえ、人間関係については……
というより、梅雪の天才性は恐らく、人間関係にだけは発揮されない。だって、そこに発揮できるならゲーム
「ご主人様、馬車と鎧を置いてまいりました」
「……ああ」
帝都は帯剣で入っても許されるが、個人の所有する馬車は帝都門前に留めておくところがあり、そこから先には持ち込めない。
さらに機工鎧も持ち込み禁止になっていた。剣士の刀のほうがよほど兵器なのだが、そちらはお咎めなし。
どうにもこのあたりの価値観には、なじめないところがある。
まあ、普通に『騎兵はデカくて景観の邪魔』みたいな感じなのだろう。帝都内の乗り物も、騎兵の搭乗を想定されていないものがほとんどだし。
(……それに、帝都は騎兵隊が有名だからな……騎兵の方が刀よりも脅威として認識されているのやもしれん)
帝には直属の騎兵隊がいる。
その騎兵隊はなんと、蒸気機関で動くのだ。
というか他の騎兵も蒸気っぽい減圧をしているのだが、ゲーム中で『蒸気機関で動きます!』と明言されているのは、帝都の騎兵だけ──というぐらいが正しい情報になるだろうか。
明らかに何かをパロッたと思われる帝都の蒸気で動く騎兵は、その名も『帝都
角を削った直方体に短めの手足が生えているというデザインであり、パイロットは帝都で人気の芝居一座のトップスタァ、現代風に言えばアイドルである。
そしてこの騎兵だが、ユニット属性剣士の者がいる。
騎兵騎兵とめちゃくちゃアピールするのだが、兵科の区別が剣士なので、有利相性と思って剣士で挑むと互角の戦いを強いられる相手もいるのだ。
騎兵ももちろんいるが、道士もいる。総じて『見た目はいかにも騎兵だが、正確な兵科はちゃんとデータを見て確認してくれ』みたいな連中であった。
帝
たぶん、戦隊ヒーローもパロディしているのだろう。
なお剣桜鬼譚で一度の戦いに投入できるユニットは六人であり、うち一人はだいたい主人公が入るので、わざわざ主人公以外をすべて蒸気騎兵で編成するほどの強さがあるかと言われると……
敵として出てきた時の強さがあればよかったんですけどね、という感じだ。
ゲームではこのようにネタキャラとしての色合いが強いが、実際に帝を弑逆するために帝都を攻めるなら、蒸気騎兵どもは強敵として立ちふさがるだろう。
何せ敵としては強い。設定的には『帝都陥落で互換性のあるパーツなどが手に入らなくなり、整備ができないのでだんだん弱っていく』という……ゲーム剣桜鬼譚においては特殊な、ターン経過で弱くなっていくユニットなのである。
つまり、帝都が万全ならば整備も万全で、今の状態が最強というわけだ。
もっとも、梅雪が蒸気騎兵団相手に何かするわけではない。
が、蒸気騎兵団を謀反人がどのように倒したのかは興味がある。帝都陥落の模様は、さほど描写されていないので。
さてアシュリーが馬車室などを置いてきたので、正面から帝都に入る。
石と金属でできたいかめしい門、番をする槍を持った剣士(生身で肉体依存の攻撃をする連中はだいたい剣士であり、使用武器が剣でなければいけないということはない)のあいだを通れば、広がるのは石造りの街並みであった。
剣桜鬼譚は戦国時代をモデルにしているのだが、領都の中にはこうして『時代そのものが違くない?』といったデザインの都市もままある。
帝都というのがそういった街の一つであり、石でできた建物が規則正しく立ち並び、石でできた道の上には蒸気機関車までもが走っていて、広い帝都をせわしなく動く街の人たちの重要な足となっていた。
なお蒸気機関技術は帝都陥落と同時になくなる。
領都ごとに街並みが違う背景には、そもそも地方自治権が強く、領主が独自の優れた技術を秘匿するといった理由もあった。
帝都が占有し秘匿している技術こそが、蒸気機関なのである。
ほかに特徴的なのは毛利家の『
なおネオアヅチは、帝都との位置関係だと『ドデカ湖』(たぶん琵琶湖モチーフだが、めちゃくちゃデカい。隕石が落ちてきてできたクレーターであり、宇宙人が住んでいる。あと湖ではなく湾)を挟んでけっこう東なので、岐阜あたりにあることになるのだろうか。
(……もしかしたらこの世界は、おかしいのではないか?)
思い当たるものが全部トンチキすぎて、『魔境』がかすむ。
蒸気機関の黒煙があちこちに立ち上る、石造りの帝都……
この梅雪的には『未来的』であり、『中の人』的には『大正
これだけ各都市の技術がまったくバラバラな方向に発展している背景には、剣士の存在が大きいだろう。
単純に数人分、人によっては数千人分のマンパワーとして土木作業に従事できるうえ、けっきょくのところどんな技術もパワーで殴れば壊れるので、剣士の数を増やし強い剣士を増やすことが、他都市の技術を盗むよりも優先される。
よって都市同士の文明がそろうことなく自由に発展している──ということが起きるのだ。
つまり強い剣士は独自文明を担保する意味でも重要であり、そこが『大名は強い剣士でなければならぬ』という価値観にもつながってくるというわけだ。
(そういう世界観で、剣士の才能がなく、粗暴で短慮な氷邑梅雪の婚約者に、帝の妹、か。……しかも、迎えに来させるとは……はたして、本当に俺を舐めているだけかァ?)
自分を侮る者は許さないが、侮っているのではなく特別な事情があっての振る舞いだとしたら、土下座で頭を踏むだけで許してやるかもしれない。
梅雪は物見遊山そのものの足取りで帝都を進んでいく。
彼らの進路の先には、帝都中央の帝の御所……
街全体に影を落とすことで時間を知らせる日時計も兼ねた、蒸気塔がそびえ立っていた。
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