魔法を現実に落とし込むと意外としょぼいかも!
ゼルビア、ゼルビア、ゼルビア。
やばいなぁ。俺の頭からこの名前が離れない。
せっかくメイドちゃんが俺に魔法の訓練を熱心に体を押し付けながら教えてくれているのに他の女の事を考えてしまう。なんという浮気者だ。俺。
「あのぉ、大変失礼ですが……」
「ん?」
「先程から新垣君の集中力か散漫になっているのは何か理由がありますでしょうか?」
「特にないけどないこともないです」
「それはつまりあるということですね。はぁ……、お客様にこれを言うのは言語道断なのですが新垣君は邪念が多いですね」
「マルチタスクが出来ると言って欲しいな」
「そうだとしても出来ておりません。しかし邪念というのもそれはそれで魔法適性アリの証拠ですね」
メイドちゃんはそう言うと棚から一冊の薄汚れた本を取り出す。
「こちらは天界に伝わるかの有名な魔導書です。本来天使というものは生まれつき魔法が使えるので必要のないものですが、新垣君などの人間からの種族変更をおこなった方は魔導書で勉強しないと魔法が使えません」
「なるほど。……最初からそれで勉強すればよかったんじゃぁ」
「魔導書を使って魔法を学ぶ前にそもそもの魔法の概念を勉強する必要があります」
何とも難しいもんだなぁ。人間界でも数学を学ぶ前に小学校で算数を学ぶ――とは若干違ったニュアンスか。その算数を学ぶ前に算数はどういうものなのか何に必要なのかどうやって出来た科目なのかを勉強すると言った方が近い。
天使でも人間でも知識を吸収するには努力は必須。この事実は俺の魔法への欲を少しだけ下げてしまう。
「面倒くさい。今そう思いましたね」
何で分かるんだ?!
俺は結構ポーカーフェイスで頭のいいフリをするのが得意なはずなのに! いいフリなのかよ!
「知ったかぶりな態度をとるのは謙虚さを失うということ。いつまで経っても魔法を使えるようにはなれませんよ」
「何でもお見通しってか……、天使って凄いんだな」
「凄いと言われる程ではありません。これも一種の魔法ですから」
「なるほどな。日常生活でも有効に使えそうだな」
「……何か企んでいますか?」
「そんなことねぇよ! うん! 決して断じて神に誓って!」
「魔法の使い道に口を挟むつもりはありませんが、その結果が罪に問われた時は私にはどうすることも出来ませんから。賢者の使い方をしてください」
罪に問われるような事を考える奴だと思われているのか。凄く傷つく。
だが相手の思考を読む魔法は本当に使えそうだな。
俺みたいな純粋な天使ではない人間はいくら戦闘用の魔法をおぼえても身体能力の差や経験でどうやっても差がつくだろう。俺に何か一つでも才のある魔法があれば話は変わってくるのだが、さっきのメイドちゃんとの勉強でその可能性がないことは十二分に分かった。
だから真正面から戦うよりも裏を回ってこそこそと。カッコよく言えば暗殺者的な。現実的に言えば小賢しいネズミのように。
「俺はそういう裏ワザ的な魔法をおぼえた方がいいと思うんだ。戦闘で純粋な天使に勝てる訳がない」
「はい、それは最初から私も思っておりました。今までやっていたことは魔法の概念を学ぶだけで特段これから必要な知識ではありません」
「さっき魔導書の前にどうのこうのとか言ってたのは気のせいなのか……?」
「そういうことではありません。私が必要ないと言ったのは魔法の中身についてだけです。魔法という枠の中の要素はこれから一切必要ありませんが枠自体は必要です。新垣君は気づいていないようですがこの時間で脳の中に自然と魔法を受け付ける枠が出来ましたので今からはそこに非戦闘用の魔法を注ぎ込みます」
よくわからんという意見は出さないようにしよう。
「新垣君におぼえてほしい魔法は三つあります。まず一つ目は思考を読む魔法。二つ目は危機感地。三つ目は……」
「ん? 三つ目がなんだ?」
「いえ、やはり二つだけにしましょう。あまり詰め込み過ぎてもかえって逆効果ですから」
思考を読む魔法と危機感地の魔法。
前者はさっき聞いたが後者も魅力的だ。きっと背後から迫る魔の手を感覚的に捉えるとかそんなとこだろう。
「ちなみに危機感地は天使は全員持っているので魔法というよりも常識というイメージです」
魔法やめよっかなぁ……。
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