やはり人間というのはすぐには決心出来ないものである



 疲れたなぁ……。

 どうしよっかなぁ……。


 ベッドに倒れるように潜り込み、考えたくもない事を考える。


 さっき提案された内容は「僕と一緒に母を倒さないか?」ということ。

 普通に考えれば生みの親を殺すだなんて言語道断なのだが、彼の話を真に受けるとすれば俺にも殺す動機が生まれる。なんてったって俺という存在はゼルビアという母親を辞めた人間……、天使によって生み出された膿のようなもの。しかもゼルビアは恐らく俺やもう一人の俺のこともとうの昔に忘れている可能性があると聞いた。


 今はもう天使の心は一切持たず悪魔を殺し、強くなり、そしてまた悪魔を殺す。自分の力に溺れてしまいいまや天界を守りたいという目的は頭の片隅にもないだろうとのことで、そうなれば俺を作ったことに対する恨み。このまま「アナタは負の受け皿ですよ」と言われるのは少々癪だからやり返したいというか何と言うか……、という思いもあるし、よくある王道展開の堕天使を倒して天界を守るという二つの理由が出来る。


 つまり俺とアイツは互いに手を組むきっかけにはなるのだが正直今すぐゼルビアを殺すという決断はしかねる。やはり実の母親を手に掛けるのはいくらなんでもすぐに首を縦に振る事はデキないのが人間だ。



「新垣様……、いやそれもおかしいですね……」

「ん? どうした?」

「いえこちらの事情なのですが新垣様が二人となるとどうお呼びすればよいのか分からなくて……、最初は戸惑いながらも新垣様とお呼びさせて頂いていたのですが……」


 

 ベッドの側で俺が寝るまで待つという召使いちゃんは俺の呼び方について疑問があるらしい。別にこだわりはないし、せっかくメイドみたいな召使いがいるのならば「新垣様」と呼んでほしいのだがそれはもうヤツに取られてしまっている。



「あっちのほうは新垣様なんだから俺は普通に新垣なりご主人様なりダーリンなり好きなように呼んでくれればいいだろ」

「ダーリン……というのはいささか疑問ですが、ご主人様とお呼びするのは少々難しい点がございます」

「何でだ?」

「その……、私事で恐縮なのですが新垣様の事をご主人様とお呼びする時は……、その……」



 手を前に組んでモジモジする召使いちゃん。

 


「お呼びする時が何か問題でもあんのか?」

「問題というか……、『ご主人様』という呼び方は本来特別な時というか……、ご奉仕の時にしか……」

「そういうことかよ――」



 ほんとクソッタレの権力者だなぁ! アイツは!

 ご主人様って普段は呼ばせてるくせにニャンニャンタイムの時は『ご主人様』って呼ばせるなんてとんだ変態野郎だ!



「じゃあ適当に……新垣君と呼んでくれよ」

「そんな! お客様に向かって君付けなんてとても!」

「お客様がそうしてくれって言ってんだからそうしてくれよ」

「……、はい。お客様がそこまで仰るならばそうさせて頂きます。お気遣い感謝致します」



 召使いちゃんはスカートを両手で軽く上げてお辞儀をする。 

 本当にメイドってのはそういう挨拶をするんだな。



「おう! それじゃあ俺はもう寝るから電気だけ消してくれ!」

「かしこまりました。ちなみにこの部屋は電気ではなくによって灯りがついておりますので……、いえこのことについてはまた明日お伝えします」



 魔法か……。


 そういえばアイツも禁忌魔法とか言ってたな。


 もしかして俺にも魔法が使えたりすんのかな?!

 手から炎なり水なり出して魔界を蹂躙して、そして……。



「いや、それじゃあ駄目なのか」



 これじゃあゼルビアと一緒だ。

 ゼルビアは自分の力に酔いしれて命を喰らうだけの化け物になってしまった。だからもし俺に魔法が使えたからといってあくまでもそれは何かを守るために使うべきだ。

 


「とりあえず今日はもう寝るか……」




 


 

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