第25話

 マコンデ人形のある部屋の床に魔法陣を描いた。それから根のついた切り株を天上に吊し、風の魔法で老人を魔法陣の中央に据えた。

「よし」

「始まりにして、終わり。終わりから、始まりへ。神よ、悪魔よ、我は求め、訴えたり。精霊の宿りし人形、生命の木、拠り所として、彼の者に再び時を与えたまえ、永遠の命をポポリナぺーぺルト」

 刀身に文字が刻まれた短剣を床に突き刺した。

 どこからともなく風が吹いた。

 刀身の文字が光りだし、魔法陣が輝く。何かの嗤い声。周りにあったマコンデ人形はねじ曲がり、全てが中央に集まってゆく。切り株の根が伸び、老人の遺体を包み込んだ。木の根からは色とりどりのバラが咲く。嗤い声が大きく、風も強く、そして二つはピタリと止んだ。根と花が氷となりガラスのように割れた。

 そこには闇があった。

 それが、一つに凝縮した。

 闇からぬっと現れた。

「旦那様!」

 シャーリーは歓喜した。老人が生き返ったと。

 現れた人物は、白い道化師の服を着て、欠損した仮面をつけていた。割れた部位からは宇宙と思われる、渦が巻いている。

 シャーリーは駆け寄って抱きついた。

 しかし、その人物は、なにも応えなかった。

 シャーリーは顔を上げた。

 その仮面を、深淵を見た。

 離れて、一歩、一歩、後ずさる。

「誰……ですか?」

 道化師はなにも答えなかった。

 仮面の欠損部位から覗く宇宙から、黒い影のような手がぐんと伸びた。

「わっ」

 とシャーリーは尻餅をつく。

 手は縦横無尽に伸び、広がり、シャーリーを飲み込もうとした。

「あ」

 旦那様ではないことを確信した。

 私はいったいなにを呼び出してしまったのだろうか。

 闇に飲み込まれる。

 そう思ったとき。

「風よ、運べ!」

 聞き覚えのある声が後ろかして、肩をぎゅっと抱かれた。

 シャーリーの視界が瞬間的に移動。

 すんでのところで伸びた手から逃れていた。

 黒い手はドロドロの液状になって、床にべっとりと溜まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る