第18話
「私からも聞こえますか?」
「残念だけど、シャーリーは人形だから無いんだ、生物にしかないんだよ」
「そうですか、素敵な音ですね」
「そうかね」
「聞いていると落ち着きます」
シャーリーは耳を再びよせて心音を聞いていた。
トクン
トクン
トクン
トクン
トクン トクン
トクン トクン
トクン
トクン
トクン
トクン
トクン
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「雪、降ってるな」
と信也は呟くようにいった。
「そうだな」
と熊谷はコートを羽織る。
「ほれ」信也は熊谷に手袋を差しだした。
「ん? なくても大丈夫だぞ?」
「あったかそうだろ、してたほうが」
「ありがと」
熊谷は手袋を受けとった。
傘を手に取り、買い出しに出かけることにした。
「行ってくる」
「きいつけてな」
カラン、カラン
すっかり町は冬になっていた。ついこの間まで秋だったのに、一気に空氣は冷え込んでいた。雪を踏みしめる音。すれ違う人の装いも、この間よりも暖かだった。白くなった町を見てると、始めて信也にあった日のことを思い出す。初めてあいつと歩いた景色もこんなふうに雪が降っていた。寒い日だったけど、なんだか、とてもあったかい記憶だ。郵便配達のバイクとすれ違う。滑らないもんなのか心配になる。風も寒いんだろうなと思う。猫の足跡があった。猫のうんこも。いつもよりも目立っている。冬は見えないモノを見えるようにしてくれる。はく息も、誰かが歩いた道も。形に残る。雨という流れる水が、こ
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