第15話

 抱かれた人形は老人を見上げる。

「困ったら、あの喫茶店を訪ねなさい」

「困る、ですか? そのときは旦那様が助けてくれるでしょう?」

「まあ、そうなんだけどね」

「なにも心配することはありません」

「もしものためだよ、あそこの人はきっと力になってくれるからね」

「わかりました」

「旦那様、これはなんですか?」「ヴァイオリンという楽器だよ」

「楽器?」「こうするのさ」

 老人はヴァイオリンを手に取り、音を奏で始めた。

 シャーリーはその音色を聴いて、なんて素敵なんだろうと思った。

 演奏が終わると、小さな拍手が老人に届けられた。

「素晴らしかったです!」

「ありがとう」

「私にも弾けますか?」

「やってみるかい?」

 シャーリーが見よう見まねにやってみると、耳をつんざくような音がした。

 驚いて、シャーリーは手を止める。

「話が違います」

「できるとはいってないよ」

 老人は笑い、人形はむくれていた。

 ゆらゆらと揺り椅子に揺られていた。

 ゆらゆらと暖炉の火が揺れていた。

 季節は冬だった。

 雪が降っている。

 辺り一面、雪で覆われている。

 しんしんと降る雪の向こうに見える海。

 屋敷の周りの木々も白く化粧をして、はく息も白い。

 老人は読んでいた本をぱたりと閉じた。

「さ、そろそろ寝よう」

「はい、旦那様」

 二人は階段を上って寝室に入った。

 いつもの揺り籠に入る。

「おやすみシャーリー」

「お休みなさい」

 敷地の木の上に鳥が巣を作っていた。

 ピーピーと声がする。

「旦那様、鳥です」

「ああ」

 二人は上を眺めて、鳥が飛んでいるのを見ていた。

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